火の魔法
翌朝も槇が1番早く起きていた。
昨日の復習とウォーミングアップ目的で薪に火をつけていく。
もう慣れたもので軽く薪に火を灯す。
「準備はできたかの」
そこにゆっくりと寄ってくる長老。
目をやり、ようやくかと口角を上げる。
「あぁ、次頼む」
薪を捨て体を向ける。
長老は手を伸ばし、掌を空に向けると、掌から炎を出す。
「これをやってみるんじゃ」
「ちょっと待ってくれよ。媒体がないと燃やせねぇだろ」
「それが次の課題じゃ。これができんからぬしは火傷をするのじゃ。諸刃の剣の如く我が身に火を点けながらの戦法は危険じゃて」
「……何も言えねぇわ」
槇は見よう見まねで手を伸ばし、薪に火を灯す感覚で気を送る。
その場の熱気に汗が出る。
しかし火は見えない。
「その方が難しいと思うのじゃが」
長老は杖を突き出すと氷の結晶が槇の掌に乗った。
「え?」
「それ以上やると火傷するぞ」
「じゃぁ、コツは?」
「燃やすイメージじゃな」
「それがわからないから聞いてんじゃんか」
辺りから熱が奪われていく。
汗がすぐに引くのを感じ取るとまた手を伸ばした。
再び念を込める。
「それじゃダメだぜ」
頭に乗るモフモフした感触に集中を切らされる。
辺りから熱気が飛び散る。
「んだよ。なにがダメだってんだ?」
視線を上に向けるが尖った鼻しか見えない。
「イメージを温度上げることから火を出す事に変えないと、周りの温度が上がってるだけで火なんかつかないぜ」
頭の上で激しく揺れる。
あまりに激しく動くので槇はシフォンを振り落とした。
綺麗に着地し振り返って楽しそうな顔を見せる。
「火は物性じゃなく、現象。そこを勘違いしてるぜ」
「んー。なんとなくわかったような……」
「早速挑戦だぜ」
槇は人差し指を立てる。
その指先に意識を凝縮する。
槇の体から溢れる赤いエネルギー。
その力は風の如く体中を伝い、指先に巡る。
とてつもない魔力が槇の身体を渦巻いていた。
「ほぉ。英雄の力と言うやつかの」
その勇ましいオーラに長老が笑う。
「其方の予言、的中じゃな」
指先から、火は出ていた。
見事なまでにそれは力として修得したのだ。
「なんだこれ。……熱くない」
「できたんだぜ! それが火の魔法だぜ!」
「━━━━火の魔法……か」
思わずにやける槇。
この世界に来て始めて、実感した力。
自分ならできるという、自信。
「うむ。その調子で思い描く火の魔法の特訓をするのじゃ」
「言われなくてもやるよ!」
すぐさま大釜に向けて火の玉を投げつける。
「━━━━ファイアーボール」
そう呟いてニヤリと微笑んだ。
次々に繰り出す火の魔法。
ゲーム世界でしかなかったものが、できるようになるその快感に笑みがこぼれる。
「さて、ワシはかおりちゃんのところに向う。シフォンはもうひとりを頼んだぞ」
「ガッテンだぜ!」
長老はゆっくりとその場から離れる。
取り残されたシフォンは槇を何故か悲しい瞳で眺めた。