早朝と倦怠感
「のぉ……。
主は何を考えとるんじゃ?
あの様な者達をこちらに連れてきたのはお主じゃろうて。
ワシらの問題にわざわざ巻き込まんでもよかったと思うのじゃが。
なに?
ほぉほぉ……。
お主も辛い選択をしておるのじゃな。
皆、悩んでおる。
その最後を決めるのは、本当にあの3人なのかもしれんな」
日が昇った。
山頂から眺める空は紅蓮に光り、1日の始まりが産声を上げる。
エデレスメゼン中で最長の山、ガザナの山頂であるこの洞穴には、傷だらけで帰ってきた若き3人の寝顔があった。
まだ星も見えるなか、3人を起こさずに外で型を取っている老人がいた。
風を斬る音と共に次々と形を変えていくその動きから、老いという言葉は似つかわしくなかった。
朝の体操を終え汗を拭うと、大量の肉を持ちエサを待ちかねている3体の所へ向かった。
キメラは老人の足音を聞き取るとダルい体を起こし、すぐ様近寄る。
「おぉ、元気かね。ほれ、持ってきたぞ」
肉を地面に置くとキメラは肉を頬張る。
「いいこじゃ、いいこじゃ」
その音に釣られてかめ吉が近寄ってきた。
「おはようございますじゃい」
「おはよう。今日はよろしく頼むよ」
「あいよ!」
「ふぉっふぉっほぅ。久しぶりに腕がなるのぉ」
老人は愉快そうに洞穴へ戻っていく。
それを見てかめ吉はあることに気づいた。
「って長老! ワシのゴハン!!」
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槇は目を覚ました。
疲労が溜まっていたのか、この場にたどり着くと直ぐに寝てしまった。
「あぁー。案外ダルいな……」
久しぶりの熟睡がより一層体の疲労を教えていた。
「まぁ、普通の高校生だったもんな……オレら」
寝返りをうった。
その先には大いびきをかいている康貴がいた。
戦友を見て元の世界のことを思い返す。
「そういや、お前に怒られてたっけか」
かおりのことをどう思うか。
そんな質問に答えられなかった自分がいた。
照れくさい?
恥ずかしい?
何だかわからない感情に言葉を濁した。
それが何なのか、今ならわかる気がした。
しかし、その対象がいまはかおりではない。
「最悪だ……」
苦い記憶。
鮮明に思い出せる。
あの時、守れなかった記憶。
それを繰り返したくなかった。
自分でもわかっている。
戦いの初心者が、ここまで生き残れたのは、天才的な戦闘スキルと奇跡的な運だと言う事を。
だけど、これからはそれだけじゃダメだった。
不思議な声に貰った力を使えこなせていない今、緑髪の女からも『魔王』からも守れない。
槇は立ち上がった。
近くに置いてある剣を持って静かに外に出た。
「……強くならなきゃ」
朝日が眩しかった。
それだけで、槇は焦る。
時間だけが刻一刻と過ぎていく中、こんなにも寝てしまったと。
「おはよう」
急に投げかけられた挨拶に槇は驚く。
「お、おはようございます。早起きですね、長老」
「もちろんじゃ。かおりちゃんの寝顔をみるため……グフカスっ!!」
鞘で長老の腹部を殴る。
「なんもしてないだろうな」
「してないしてない」
槇は溜め息を吐く。
「まぁ、そんな事はどうでもよい。槇や、強くなりたくはないか?」
その言葉に驚く。
「ワシについてこい。お主にうってつけの練習を用意しておる」
「なんでそんなこと……」
槇は半信半疑だった。
こっちの世界に来てから、至れり尽くせりな対応なのだ。
自分たちになぜこんなにも加担してくれるのか、なにか裏でもあるのかと疑心暗鬼だったのだ。
「お主が望んどるからじゃ。そうでなければ、ワシのとこなんぞに来れんからな」
シワの深い笑顔が槇を見た。
「ほれ、はよ来い。時間が無いのじゃぞ」
「よろしく……お願いします」
槇は深く頭を下げ、長老に着いていく。