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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第1章〜〈エデレスメゼン〉
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ヒーロー



 牙が槇の首を抉る。

 その刹那、辺りに血が飛び散った。

 緑の草は紅に染まり、見えている全てが絶望に等しかった。



「ったく。ウルフもどきに殺されそうになってんじゃねぇよ、クソガキども」



 聞き慣れない声だった。

 槇を襲っていた2頭の犬は口から真っ二つに裂かれている。

 生きているはずもなく、犬は草に転がっていた。

 飛び散った血はその犬のものであった。



「おい、そこのアマ。大丈夫か?」



 かおりの目は声の主をとらえた。

 つばの広い帽子を深々と被り、アゴのラインでわかるスラッとした顔は半分しか確認できない。

 声の低さで男だと判断したが、顔はよく見えなかった。

 民族衣装なのだろうか、布を巻いてあるだけのような、軽そうな服を身につけ、腹に巻いた太く黒いベルトで服をおさえていた。

 ズボンもただの布のようで、新たなファッションなのだろうかと思わせる。



「大丈夫みたいだな」



 男はそう言いつつ、肩に男の身長ほどある大きな鉄の塊、剣を担ぐ。



「おい、てめぇ」



 片言のように1音づつ発音した槇。



「なんだクソガキ?」

「……ありがとう」

「どういたしまして」



 男はしゃがみ、ベルトの腰側にあるポーチからガーゼのような布を取り出し、槇の両腕に巻いた。



「まぁ、応急処置だ。おいアマ。こっちこい」



 ふっと我に返ったかおり。

 状況を飲み込めないまま、ただ男の指示に従い、近寄って行った。


 男は新しいガーゼでかおりの傷口に当てる。

 その瞬間、白色のガーゼは紫色にかわった。

 それを確認すると男はかおりの傷口に顔をもっていき、その部分の血を吸った。

 今までにない、辱しめを受けているような感覚に陥ったかおりは顔を赤面させる。

 男は顔を離し、吸った血を吐き捨てると、傷口をガーゼで縛る。



「まぁ、こんなもんだろ。お前ら歩けるか?」



 かおりは頷く。

 槇は立ち上がりながら、ああと言った。



「ちゃんとした処置してやるから着いてこい」



 と言って男は顔を康貴に向けた。



「念のため聞いとくが、あれもお前らの仲間だよな?」



 男が指差した康貴は気持ち良さそうにイビキをかきながら大の字で眠っていた。

 槇は溜め息を吐きながら、そうだよと呟く。


 その様子を見て男は腹を抱えて大笑いする。



「なかなか肝の座ったヤツじゃねぇか」



 そして康貴に近づき軽々しく担ぎ上げ、歩き出す男。

 槇とかおりは顔を見合せ、よくわからないが微笑んだ。



「ラチられちまったし、行くか」

「そうね。康貴がラチられちゃったしね」



 2人は先を進む男のもとまで走っていき、その後方で歩みを揃える。



 男が喋っているのは日本語だった。

 ただわかったのは外国ではないこと、日本ではないこと。

 パラレルワールドに来てしまったとしか考えがつかなかった。

 冷静に状況を判断しながら、ただ漠然と、行く先が灯台によって照されたように思った。

 ヒーローの登場によって。

 きっと、無事に帰れる。

 かおりはまだ、それが甘い考えだとは知るよしもなかった。




「ここだ」


 2人が連れてこられたのは、平原にポツンとあるだけペンションのような丸太造りの家だった。


 男が躊躇なく入る。

 2人は顔を合わせてから家の中に入る。



 中はそこまで広いものではなかった。

 扉は2つあり、窓もあった。

 家具は机と椅子3脚、暖炉、そして康貴が投げつけられたベッドくらいだった。

 他に目立つものはなかった。



「適当に座れ」



 男がそう言うとベッドの近くの壁に背負っていた大きな剣を立てかけ、さらに腰に吊り下げていたこんもりした袋を置いた。

 その袋をあさり、中から何かを取り出しかおりに投げる。

 綺麗な放物線を描いた物を両手でキャッチした。



「それ飲め。解毒薬だ」



 かおりは手を開いて中の物を確認する。

 細く小さいビンで中には青紫色の、いかにもヤバそうな液体が入っていた。


 かおりは恐る恐る固く閉まった蓋を抜き、手で扇いで臭いを嗅いでみる。

 思わずビンから顔をそらした。


 ツンとした薬品臭が本能的に危険と判断したのだ。

 しかし、飲まなければ死ぬ可能性があるのならば、飲まなければいけない。

 意を決し、鼻をつまみながら一気にその液体を飲む。

 飲み干した後、咳き込むのは仕方なかった。



「ぐぅぅ……」



 ビンを落とし、少しぐったりした後、机に突っ伏してしまった。

 槇はそのかおりの異常な行動に驚く。



「かおり!! 大丈夫か!?」

「あっつい……」



 槇は男をにらむ。



「心配するな。体が毒を追い出そうとしてるだけだ」



 信用しないような目つきのままかおりの心配をする槇。

 その状態は長く続かずかおりはすぐにもとの状態に戻った。

 槇は安心したのかホッと溜め息を吐いた。


 男は机を挟んで反対の椅子に座った。



「お名前を伺ってもよろしいですか?」



 かおりはまだ少しぼやけた口調で聞いてみた。



「人の名前聞くときはまず自分からだろ」



 帽子の角度を整えながらそう返した。

 槇は舌打ちをして、自分の名前を言う。



(じょうが)(さき)(しん)

「私は、赤羽(あかば)かおり。あっちで寝ているのが樋川(ひかわ)康貴(こうき)です」



 かおりが指を指して康貴の紹介をした瞬間だった。



「はらへった!!」



 康貴は何を思ったか、いきなり起き上がり叫けんだ。

 叫んだのはいいが、見覚えのない空間に辺りを見回り始めた。

 把握ができたのか視線を3人に向けた。

 沈黙が制していた部屋に笑いが入り込んだ。



「元気がいい奴だな」



 笑っているのは知らない男で、槇は溜め息を吐き、かおりは康貴を真っ直ぐ見ていた。



「気に入ったぞ! たしか康貴だったか?」



 知らない男が自分の名前を知っていることに驚いてベッドから飛び降りる。



「お前なんでオレの名前知ってんだよ!」



 男は立ち上がり、笑いながら康貴に近寄る。

 そして頭を掴んだ。



「っぃ!!」



 痛みについ声を上げてしまう康貴。



「何すんだよ!」

「なにもしてねぇよ。取り合えずそこに座れ」



 康貴はその指図通りに男が座っていた椅子に座った。

 男は空いたベッドに座り、近くに置いてあった袋に手を入れた。



「おら、食料だ」



 その袋の中から赤いリンゴのような食べ物を3個連続で康貴に投げつける。

 康貴はお手玉をするように受けとり、槇とかおりに投げ渡した。

 槇とかおりはその未知の物質にかぶりつく勇気は無いようで、赤い食べ物を見つめる。

 だが康貴は躊躇なくかぶりついた。

 シャキッという音からすればリンゴのようだが、中身まで赤く、味は、



「ん! キウイだ! うめぇ!」



 2人はその康貴の反応に、唾を飲みかぶりつく。



「ホントだ」



 思わずそう呟いてしまった槇。



「まぁ、喜んでくれたならありがたい」



 男はそう切り出し、話を続けた。



「単刀直入に聞く。お前ら、この国の人間じゃないな」



 その問いにかおりは驚き、そして頷く。



「はい。日本から来たんです。知ってますか?」



 男は首を傾げた。



「すまんな。わからん。だが、この国の人間じゃないなら少し危険だ」

「危険?」

「あぁ、危険だ。この国は外との接触を完全に遮断しているんだ。外の人間が入ってきたら帰ってもらうか、最悪処刑」



 かおりと槇は背筋を震わせた。



「まぁあんま気にすんな。オレが外の人間だとわかったのはその服だ。着替えちまえばわからんさ。」



 と言って3人分の服を袋から出しベッドの上に並べた。



「それと、さっき味わったと思うが、ウルフみたいな人を襲う生き物が多い。

 武器を持たないで外を歩くのはエサになりに行くようなもんだ。

 この家にあるのは、護身用の剣と槍、薪を割る斧くらいだ。そんなんでもないよりましだから持ってけ。」



 一通り話し終わったのか袋の中からまた赤い食べ物を1つ取り出しかじった。

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