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肌色の化け物



 インリードは椅子に座った。



「こんな昔話あるんだ」



 そう前置きをして淡々と語り始める。



「とある3英雄の話。


 ひとりは1つの町を焼き尽くした大罪人。

 ひとりは目が見えず、歩けもしなかった異端者。

 ひとりは誰ひとりもいない町で育った放浪者。


 その彼らを救ったのは女神だった。


 英雄は女神に忠誠を誓い、この国を正しい道へ誘おうとしていた。


 その道半ばで女神が殺された」



 インリードは彼を見る。



「そこで絶望した3人はとうとう別の道を歩み始めてしまった。

 その彼らは最終的にぶつかり合い、お互いを殺しあってしまう」



 沈黙の間。一切視線を出さない槇にインリードは悲しい視線を送った。


 まるで君たちのようにね。そう最後に付け加えた。





「かおり! 康貴! 上から来るぞ!」



 シフォンがかおりの肩に乗りながらそう叫んだ。


 かおりは息を呑み、空を見上げる。

 晴天の空に黒い点がふと浮かび上がる。


 森は途端にざわめき、水の流れる音でさえ慌ただしかった。


 かおりは細心の注意をはかりながら、康貴を引き後ろに下がる。

 段々大きくなる黒。


 どぉん!



 地響きと突風。


 とっさに顔を腕で覆う。

 物凄い威圧に風もおさまらないうちに相手を確認するかおり。


 その正体を見て、落ちて来るまで確認を諦めていたかおりは何から突っ込んだ方がいいかわからなくなった。



 落ちてきたそれは、やはり球体で、色は肌色。

 手足は華奢で、頭頂部と左頬に大きなキズがあった。


 そこまではなれたものだ。


 まず、食料にしようとしていたであろう巨大な鳥に両腕をもたれ大股を開けて座っている。

 その不気味な生物なのに顔のパーツだけはやけにダンディなのだ。



「なにか呼びましたか? ゴリマッチョクン」



 さらに声までダンディである。

 最早ズルい。



「まみーがあれにやられた」



 適当に鼻をほじくりながら言うゴリマッチョクン。



「なに……。まさか。そんな……っ!!」



 と呟きながら2人の下に近づく中で、なぜかセブ〇イレ〇ンのビニール袋にさしてある長ネギを左手に持っている。

 そして、2人の目の前で、凄味のある睨みを効かせる。



「あのぉー。……ごめんなさい」



 なぜか、康貴は謝った。


 目の黒い部分が康貴を向く。

 康貴は体をびくつかせて息を殺す。


 あまり意味がないのに。

 目の黒い部分が次にかおりを向く。

 薙刀の矛先を相手に向けているかおりは、どこか撫子的な雰囲気を漂わせていた。


 その物体は、ビニール袋に手を突っ込んだ。

 かおりはさらに神経を尖らせる。



「わたくし、ゴリ・ひろしと申します。以後お見知り置きを」



 そう言いながらビニール袋の中からちゃんとした名刺が出てきた。

 呆気にとられるかおり。


 だが、かおりはつかつかと近寄りながら薙刀を脇で挟み、その名刺を受け取った。



「これはこれはご丁寧に。わたくしはかおりと申します。高校1年でございますってどっかの企業の名刺交換練習かなにかか!」



 かおりは名刺を地面に投げつけ、顔を真っ赤にしながらノリツッコミをかました。

 槇がいないと、誰もツッコんでくれないのだ。


 しかし、かおりはなぜかこの状況に適応できていた。

 なれないノリツッコミをかますまで。


 肌色の球体は、かおりを見て、落とされた名刺を見て、そして、絶句した。



「そこまでお怒りとは、これはうちの者が手荒な歓迎でもなさったのでしょう……。申し訳ありません」



 と言いながら50メートルは先の康貴の腹部に殴りを入れた。

 康貴は吹き飛ぶように宙に上げられる。



「あぁ、この謝罪の気持ち、なんと申し上げたらよろしいのでしょう」



 謝る気なんて更々ないことは明白だった。

 かおりは背面を見せているそれに、薙刀を突き刺した。

 見事に貫通。



「な……んと」



 かおりは薙刀を抜く。


 ひろしは膝を着く。

 そしてビニール袋からケチャップを出し傷口に吹き付ける。

 そのまま手を当て、トマトケチャップをわざとつけた掌を見る。



「なーんじゃこりゃぁ!」



 かおりは再び薙刀を突き刺した。

 黒目を真っ白にし、アワアワと震え、今度こそ地面に倒れた。

 それに再び薙刀を突き刺す。

 そしてさらに突き刺す。


 次に抜いたとき、かおりは呟く。



「シフォン。燃やしちゃって」



 かおりの行動を震えながら見ていたシフォンは、体をビクつかせ、彼女の言うがまま、魔法でそれを燃やした。

 次にかおりは空高く手を掲げ、勢いよく振り下ろすと、雷がひろし目掛けて降ってきた。


 一発ではない。

 多発だ。


 塵と化したそれを眺めて、かおりは薙刀を構えた。



「シフォン。あれどこ?」



 シフォンは驚いた。完勝ではないか。



「シフォン!」



 暴君の焦りに慌てて神経を尖らせる。



「……上?」



 聞いたとたん、かおりは体を捻らせ、薙刀を振り上げる。


 巨大な打撃音と共に刃が止まった。



「やりますね、お嬢さん」

「これでも世界が怖れる軍師よ。なめてもらっちゃ困るわよ」



 かおりは上空で静止しているひろしを弾き飛ばす。

 ひろしは四回転半の美しいジャンプを見せ、華麗に着地する。

 その背後のピンクと黄色はホワイトボードを上げる。


 10点

 10点



「さすがです。ですが、わたくしにこのホワイトギネンリーグを使わせた相手は誰一人として生きて帰った者はいます」



 かおりは真剣にひろしを睨む。

 ひろしの手に持たれているホワイトギネンリーグと呼ばれるものは、どうやらあのビニール袋に入っていた葱のようだ。

 さっきのなぎなたの斬撃を受けて切れてないので、ただの葱ではないようだった。



「ツッコムトコロもうちょっとあるよ」



 ひろしは変な方を向いて誰かに語りかけた。



「画面の向こうの君……わかってるよな。さぁ、一緒に突っ込んでくれ! せーの!」



 そのせーのと同時にかおりは突き刺す。



「おい、誰に語りかけとんのじゃわれ」



 また、抜き差しが始まる。

 ひと刺しずつポーズを変えるひろし。

 それに苛立ち雷で蹴散らした後、再び体を捻らせ、上空からくる斬撃を受けた。



「ワンパターンね」



 また、押し返し、四回転半回り、着地。

 再び最高得点の20点が出た。



「お嬢さん。決してワンパターンという訳ではありませんよ。ワンパターンに見えるだけです」



 ひろしがそう言い終わると、かおりの体が斬撃を受けたように切り刻まれていく。


 なにもされていないのに。


 服が裂けた奥は赤く染まる。

 最後にほっぺに一線入ったところで止まり、かおりはそのまま前に倒れていった。



「かおり!」



 シフォンはすぐに治癒魔法を展開するがひろしに蹴られてステージの端まで飛ばされた。



「お嬢さん。強かったです。しかし。わたくしは倒せませんでした」



 そう言って葱をかおりに向けた。

 かおりは最後の力を振り絞って顔を上げる。


 そして、口角を上げた。



「チェックメイト」



 そう、かおりが言った時には全てが終わっていた。


 康貴の叩きつけがもろに入ったのだ。


 落下速度からの叩きつけ。

 威力は相当なものである。


 血反吐を撒き散らすひろしはそのまま残りの2体の下へ吹き飛ぶ。


 かおりはゆっくり立ち上がり、今度こそ勝ちを実感した。


 上空から落ちて来る緑の石、宝珠を拾う。



「ちゃんと読んでくれたんだね」



 かおりがキズだらけの体を擦りながら呟いた。



「雷で伝言とか勘弁だよ。読みにくい」

「連発したから大丈夫だと思ってね。完璧でしょ。誉めて」



 康貴は綺麗な笑顔を見せ、



「かおりはスゴいね」

「康貴に言われても凄みがないわね」



 イタズラに笑うかおり。

 康貴は肩の力を落とすしかなかった。


 いつの間にかピンクと黄色が肌色を引っ張ってどこかに消えていた。

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