まみー
「まみー!!」
ゴリマッチョクンがそう叫ぶと、急に左から巨大な黄色いゴムボールが転がってくるのが視界に入る。
巨大な黄色いゴムボールがゴリマッチョクンの横にまで来ると跳ね上がる。
空中で2秒静止したと思うと、無駄に細い四肢が生え、立ち止まったかと思うと、知っている人は知っている、かの右手を人差し指と小指だけ立てそれを顔の横に持ってくるというポージングしていた。
それだけならいいのだが、フリフリのエプロンに無駄に長いまつ毛。
絶対領域を有した網タイツの履いている。
「気持ち悪い」
その一言しか出ない生物だ。
後ろを振り替えれば、康貴があまりの気持ち悪さに吐いていた。
「ドゥーしたのゴヲーリマッ、チョクン」
フランス語的発音なのか巻き舌とか入っているが、似非感丸出しで、むしろ聞きづらかった。
「まみー! 大事なおはぁーなしがあって」
「「口調合わせてきた!」」
「なぁーんなの!? まぁぁさか! まぁぁさか!」
「まみー、結婚して下さい!」
「「意味わからん!」」
「はい……」
「承諾しよった! しかもなぜか初々しい!」
後方でさらに吐く音が聞こえる。
「じゃなくて、あれ、ボキのゴハン」
「あぁら、不味そう」
「これいつまで続くの」
かおりは自然と溜め息を吐いた。
「じゃなくて、あれ、ボキのお嫁さん」
とうとう本題に戻ったかと思うと、黄色い物体がかおりの目の前に現れていた。
それに気付いた時には遅かった。
足払いされ転されたかと思うと、背中に強烈な一撃を受ける。
地面に当たり前だ生き残った反動で宙に浮き上がる。
浮き上がり頂点でガトリングのような連撃を足で繰り出す。
最後の一撃を貰うと後方に吹き飛び木に当たって止まる。
一瞬の出来事に成すすべなかった。
辛うじて残った意識で目を開ける。ちょうど木から剥がれおちるタイミングであった。
何があったのか冷静に分析。そこから導き出される勝機。
そして自身の身体のこと。
その痛みを感じる前に目の前にいる黄色い玉。
逃げなければと思えど体が動く前に意図しない所を向いている。
顎に膝が入る。
そのまま頭頂部にかかと落とし。
地面に叩きつけられた形になり頭をヒールで踏まれる。
「ヴターシの愛しいゴヲーリマッ、チョクンを誘惑すーるとは、悪魔な小悪魔め」
ダメージは酷かった。
かかと落としを受けた頭頂部からは血が出ていた。
死ぬみたい。
このまま、訳のわからない物体に食われて死ぬらしい。
「にどヲーと誘惑できないようにしなぁーいと」
足に力が入った。
ヒールが頭にめり込む。
「あ゛あ゛ぁー!!」
最早断末魔に等しかった。
「やめやがれ!!」
やけに響く声。
次の瞬間には黄色い物体はピンクの球体の近くまで戻されていた。
「オレが相手してやる」
かおりが顔を上げると、そこにはやけにたくましい康貴の背中があった。
「かおりは休んでて」
振り替えって笑顔を見せる康貴。
信用はできなかった。
でも、体は動かなかった。
「シフォン。かおりお願い」
康貴が視界から消えた。
「今、キズ治すからな!」
シフォンが魔法でかおりのキズを治しはじめる。
黄色い光は温かく、優しく、無意味にかおりの心に染みる。
1人じゃない。
上辺だった。
実際、1人で戦ってた気がした。
槇と康貴という駒を1人で動かしているような気がした。
1人じゃないよ。
自然と涙が出た。
昔から人間不信的な性格だった。
槇と康貴に出会って、治ったと思っていた。
実際そうじゃなかった。
『今から始めてみればいいんじゃない? 人を信用することを。仲間を見つけることを。そのためなら、力を貸すよ』
誰ともわからない声にかおりは立ち上がった。
康貴を救うために。
宝珠を勝ち取るために。
かおりはまみーと戦っている康貴を確認した。
激しい戦いからなのか斧から白い煙が出ていた。
そんなことを深く考えるなんて時間の無駄だった。
かおりはすぐさま背中に手を回し、弓を取る。
「あっ」
しかし、弓はなかった。
あの時、地面に捨てたのが仇となった。
判断ミスを悔やんだ。
だが、時は待ってくれない。
今出来る、最善の策を考えなければ。
かおりは薙刀を握りしめ、地面を蹴った。
康貴が斧でまみーを浮かばせた瞬間に、かおりがその上から薙刀で殴る。
まみーはそのまま地面に突き刺さり、ピクピクと動くだけで、戦意は消えていた。
スタ、と地面に降り、康貴を見た。
康貴は満面の笑みで親指を立てた手をかおりに向けた。
かおりもそっくりそのまま返した。
「まぁーみー!」
「ゴヲーリマッ、チョクン。ごめんなさい。もう、お腹空いた」
「「お腹空いただけかよ」」
ゴリマッチョクンは出ない涙を浮かべて上を向いた。
物凄く、嫌な予感がした。
「ぱーーーーーーーーーーーーーー…………………ぴっ」
叫んだのかよくわからないが、急に森がざわめき始めた。