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今は1人





「槇、入るぞ」



 インリードは先程の夕ご飯であるミネストローネと海賊パンが置かれたドアの前でそう言うと徐ろに扉を開けた。


 扉は途中で何かに当たったようで半分程度しか開かなかった。

 この狭い視野からでも部屋の荒れようにはため息が出た。


 槇はこの部屋で唯一の窓のある場所でいじけた様に座り、顔を自身に埋めていた。



「入るぞ……」



 力を込めて扉を動かした。




 *



 蜘蛛のお化けは意外と足が早い。

 全力疾走で追いかける2人はそれだけで精一杯だった。


 森の中をずんずん入っていくかおりは一抹の不安にかられていた。

 それが、的中しそうで、勘がいい女に生まれたことを多少ながら後悔していた。


 蜘蛛の動きが急に止まった。

 それに合わせてかおりは矢を放つ。


 足の一本に当たるが、ダメージが無いのかウンともスンとも言わない。

 それにへこたれず、かおりは弓を捨て背中の薙刀を取りだし蜘蛛に接近する。


 だが、蜘蛛の振り回した足によってかおりは弾き返される。

 上手く着地し、諦めず地面を蹴る。


 その時、目の前を両刃の斧が横切った。


 間一髪当たらなくて済んだのは、足が速くないからだった。


 かおりはそのまま蜘蛛に接近する。

 再び足を振り回してくるが、そんな単細胞な攻撃にかおりが2度もやられる訳なく、真上に飛び上がって、そのまま足を斬ろうとする。


 しかし、刃が入らなかった。

 弾き返される。


 きっとゲームなら、アニメなら、カンペキだった。

 リアルだ。

 現実だ。


 反動で一回転して尻餅をつくまでに、自分の非力さに、無力さに、不力さに、全身の力を抜いた。


 尻餅ついても立ち上がろうとしなかった。

 そのため叩き潰そうと上から落ちてくる足を避けられなかった。


 直撃。

 康貴の視界からはかおりの姿は消えた。

 くちょという虚しい音と共にかおりの姿は無くなった。



「グオー!」



 否、そこにはいなかった。


 蜘蛛が突然叫んだ。

 シフォンを掴んでいた腕を切り落とされたからである。



━━━━かおりに。



「マホウって言うのかな? にんじゅつって言うのかな? どっちにしても楽しいねこれ」



 潰されたのは、かおりの形をした水であった。

 意図してやったのか、無意識かは本人でさえ曖昧だが、やり方がわかればかおりのものだった。



「なら攻撃もありだよね」



 薙刀を持っていない掌を空に向けると、どこからともなく水が湧き、渦を巻き始める。



「キエンザンって感じ?」



 笑いながらそう言うと、その渦を巻いた水を蜘蛛に向けて放つ。

 その水は高速回転を始め、円形の刃と化し、蜘蛛の足を斬っていく。

 軌道はかおりの意思で動くようだ。


 足を2本切り落とし、そのまま胴体を真っ二つに裂く。



 その魔法が消えた瞬間、蜘蛛はゆっくりと地面へ崩れていく。

 それを見ながら、かおりは落ちてきたシフォンをキャッチした。



「ねぇ、私って人間?」



 シフォンは返答に困った。

 シフォンが感じるかおりの感覚は、人間では無かったから。



 まるで、あの3人のようだったのだ。



 あたふたしているシフォンを助けるかのように、あの声が辺りを響かせた。

 嫌な予感があたり、そして悪寒が背筋を震わせるその声に、かおりは顔色を変えた。




「…………ボキだよ!!」



 これからが本番だってかおりでさえわかった。

 まだ宝珠が出ていなかったから。

 康貴なんて役に立たない。



━━━━今は、1人なのだ━━━━



 かおりはシフォンを地面に下ろした。

 シフォンはすぐにかおりの後ろに隠れ、小さく震える。

 目の前のあれは、それほど危険なのだろう。


 かおりは薙刀を両手で持った。



「ボキだよ! 久しぶりだね、ボキのお嫁さん!」



 そういえばそんな風に呼ばれてたな、と軽く思い返す。



「そうかしら? 私は出来ればあなたとは会いたくなかったけどね」



 辺りを見回しても、生物らしい生物の気配などない。

 しかも、大きな木を切り倒したかのような、巨大な円形のステージに立っていた。

 奥は巨大な滝が虹を作り、ステージの周りは透き通る水が穏やかに流れていた。


 ここは確実に、アイツの、ピンクの球体の、ゴリマッチョクンのねぐらだ。


「それボキのゴハンでしょ?」



 ゴリマッチョクンはシフォンを指差して相変わらず逆三角のまま動かない口から言う。



「違うわ。私の仲間よ」

「え? さっきおじいちゃんがボキのゴハン取ってくるって言ってたから、ボキのゴハンからおじいちゃんの臭いしたし、ゴハンでしょ?」



 かおりは冷静に考えた。



「あの蜘蛛のお化け……おじいちゃんだったんだ……」



 震えている理由もなんとなくわかった。



「まぁいいや!」



 ゴリマッチョクンはそう言い、さらに続ける。



「ボキのお嫁さんをぱぴーとまみーに見せてあげなきゃ!」



 かおりから血の気が引いた。



   面倒になる。



「まみー!!」



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