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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第5章〜〈人魚姫の微笑み〉
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率直な優しさ




「ねぇ……、槇」



 ゆっくりと揺れる船。波の音は優しさを孕み、揺りかごの中で各々疲弊した体を休めていた。


 悲劇の日から2日経った。


 島を離れ次の目的地へ向う船の中、かおりはひとり、開かないドアに話しかけた。



「なんだよ……。……ほっといてくれよ」



 ボロい木製のドア越しに聞こえる声は、あの堂々とした、どこか腑抜けている、独特なしゃべり方なんて消え、情けない、泣き枯れた声であった。



「ゴハンだよ。いい加減食べてよ」



 かおりが持っているこれまた木製のトレーには、パンが2つと湯気が出ているクリームシチューが乗っていた。



「いらない」



 かおりは悔しくて奥歯を噛んだ。

 ドアには鍵はついていないが、何故だか開かない。

 このドアを壊してでも、あの面を見たかった。

 それが出来たら、もうしている。


 かおりは床にトレーを置き、もとから置いてあったトレーを持ち上げた。

 冷めきったポトフとパン。

 一口もかじられてないし飲まれていない。



「いい加減食べないと死んじゃうよ」



 もう泣きそうだった。



「死ねるなら死んでやるよ」



 後悔を後悔して、絶望に絶望し、悲しみに泣く。

 あの時、魔が射したとはいえ、



    死んじゃえばいいのに



 天罰だ。

 自分が招いた、分岐ルート。

 バッドエンド直行フラグ。

 このまま船が沈むか、自身が暴走して皆殺しか。

 あまりにこの場は負に電化しており、不安定過ぎた。



「……槇、……一緒に帰ろ」



 しばらく声が帰って来なかった。

 もう、今日は終わりかもしれない。

 そう思ってドアに背中を向けた。



「……帰れない」



 聞きたくない言葉が帰ってきた。

 槇の鼻をすする音がし、言葉を続けた。



「汚れすぎたよ。何人の人を殺した? 犯罪者だよ。はは、……帰っても捕まるんじゃないか? そのまま死刑で、……どっち道死ぬならここで、あの小島で、……アイツがいるあそこで死にたかった」



 冷たいポトフに涙が入った。



「………………………………………………あっそ」



 ぼそっと呟き、俯いたまま、その場を足早に離れる。



「死ぬなら死ねばいい。死ねばいい……。死ねば……いい」



 ガシャン!



 階段に気づかずに、それにつまずき転ける。

 それと共に食器が飛び、地面に落ちて割れた。



「もう死んじゃえよ! 知らない!」

「かおり……」



 背後には康貴が立っていた。

 かおりが心配すぎて、少し追っていたのだ。



「康貴。私なんか必要ないんだよね。槇は私よりあの子が必要なんだよね。あの子の代わりに私が、私がいなくなれば、あんな風にならなかったんだよね。私なんか必要ないんだよね」



 康貴はかおりの口を塞ぐように顔を自身に向けて抱きついた。



「そんなことない……。そんなことない!」

「でも槇は!」

「オレじゃダメなのか? オレが必要なだけじゃダメなのか?  やっぱり、アイツがいいのか?」



 回している腕に力をいれる。



「オレはアイツよりバカだよ。バカが嫌いなのは知ってるよ。でも、人間としては腐ってないつもりだよ。あんなのと一緒にいると、かおりまで腐る」


「もう、朽ちてボロボロだよ」


「そんなことない。まだ、大丈夫だから。みんなで帰ろう。槇も、かおりも。みんなで帰るんだ」



 かおりは弱りすぎていた。

 そこに、策略のない優しさが妙に居心地よく、それでいて、自分の理想を共に持っている康貴に信用を見た。

 なにか、吹っ切れる音がした。



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