虹の誓い
槇は一本しかない剣に稲妻を走らせ、イクスウェル睨む。
対するイクスウェルは獲物を奪われ怒りに奮えていた。
「黙れよゲソやろう」
槇は小島を蹴り、イクスウェルの頭部目掛けて飛び上がる。
イクスウェルは容赦なく無数の触手で槇を捕らえようとする。
まっすぐ向かってきたものは稲妻を帯びている剣で軽々しく切り落とす。
他は足場にして蹴り、頭部まで距離を詰めていく。
シセリアを救った雷光はもう一本の剣であった。
頭部に刺さっているそれを目掛けて飛び上がり、とうとう掴むことができた。
そして、体重をかけ切り裂いていく。
悲鳴を上げるイクスウェルは再び暴れ波を立たせる。
槇は地面につくと、距離を取りながら2つの剣を擦り合わせ、二本ともに稲妻を帯びさせる。
イクスウェルはこのままでは終われず、触手を真っ正面八方から突き出し槇を押し潰そうとする。
槇は後ろに飛び跳ねながら触手を避ける。
地面スレスレを横断する触手に高く飛び上がる。
間髪いれず1本の触手が襲いかかる。
距離がまだあるにも関わらずそれ目掛けて勢いよく振り下ろす。
すると剣から斬撃破が放たる。
それは数メートル先の触手を裂き焦がした。
イクスウェルは堪らず叫ぶ。
次の瞬間だった。
予兆もなくいきなり激しく光ったのは。
槇は目を閉じられなかった。
目の前が真っ暗になる。
その中でも、襲ってくる触手を感覚で正確に斬っていく。
数十秒で目が見え始めた時だった。
「きゃぁ!」
後方にいたシセリアが捕まっていた。
振り向いた瞬間に触手に弾かれる。
小島の際まで飛ばされたが直ぐに立ち上がり助けに向う。
しかし、間髪いれずに襲ってくる触手との応戦で精一杯だった。
それでも少しづつ、しかし素早く触手の付け根に向かっていく。
ただ槇では間に合わなかった。
素早く口に近づいていくシセリアに焦る。
無理を承知でシセリアに接近しようとした瞬間だった。
どこからか両刃の斧が飛んできて、シセリアを掴んでいた触手を切った。
「さっさと倒しちまえよ!」
斧はブーメランのように持ち主に戻っていく。
斧を華麗に取ったのは康貴だった。
「ありがとよ! じゃぁ、」
槇はしゃがんだ。
「わらわもやられてるばかりはいやじゃ」
槇の行動を読んだのか、シセリアは右目を光らせ、剣の周りに水の帯をつけた。
水が稲妻と反応し、巨大な轟雷の剣となる。
「ありがとう、シセリア」
槇は低い姿勢で地面を走る。
触手が真っ正面から来たが、それさえも高く上がり、さらにそれを蹴ってより高く飛び上がる。
しかし、そこには触手が待ち構えており、斬ろうと思ったが、触手の方が早く左手の剣は弾き飛ばされる。
諦めずそれを切り落とし、とうとうイクスウェルよりも高く飛び上がった。
「終らしてやるよ!!」
槇が巨大化した剣をイクスウェルに向けて振り下ろす。
無数の触手で守る。
剣を振り切り、足を地面につけると、轟音を撒き散らした。
一瞬の出来事。
その結末を息を飲んで見守るシセリア。
槇は立ち上がった。
それと同時に中央が縦に裂け、水へ落ちていく。
それは巨大な波を立てる。
波が雨となり、星空に虹を架けた。
夜空に浮かぶ七色に輝く虹。
その青色から落ちてくる光を槇は上手く掴む。
真っ青な石であった。
これが五宝珠の1つであることは容易にわかった。
勝利したのだ。
イクスウェルにも。
━━━━運命にも。
シセリアは地面に落ちていた剣を拾う。
その重さに切っ先を地面から離せないまま引きずって槇に近づいた。
小島を囲むように架かった虹。
冷たく吹き付ける風。
かおりは小島を見る。
涙で歪んだ2人のシルエット。
それでも槇とシセリアがお互い見つめ合って立っているのがわかった。
「あ、ああああ、……ありがとう、……とう、槇」
舌が回らなかったり、声が裏返ったりの感謝の言葉。
それがあまりに面白くて槇は吹いてしまった。
「な、なんじゃ!」
顔を真っ赤にして怒鳴った。
「なんじゃって。なにテンパってんだよ」
「う、うるさい! わらわが感謝してやってるのだからありがたく貰っておけ!」
相変わらず理不尽な言葉を吐くシセリア。
「ありがたく頂きますとも。シセリア」
意地悪く言い返す槇は笑っていた。
「ぬぅ、……む、ムカつくのぉ」
シセリアは目を細め、口をすぼめ呟く。
運命は変えられる。
生きている意味がわかった気がした。
誰のおかげ?
言わずもがなだった。
胸に秘めた思いを槇に全て伝えられる気がしなかった。
考えるだけでもこっ恥ずかしくなってしまうからだ。
それでもシセリアはこれだけは伝えるために重い剣を斜め上に上げた。
「槇、この国では忠義の証や仲間の意を込めるとき、矛と矛を交じりあわせるのじゃ」
シセリアの上げている剣はあまりの重さに震えていた。
「わらわも、お主と共に旅をしたい。お主に助けられた命、存分にお主と燃やし尽くしたい」
赤らんだ顔。
槇は黒に戻った目で、色の違う目を見つめた。
「あぁ、一緒に行こう」
槇は剣を軽々と上げ、シセリアの持ち上げた剣と交じり合わせる。
堂々と立ち、2つの剣が空高く上げられ、その上には鮮やかな虹。
その空間だけ、別世界だった。
絵に描いたような、そんな風景だった。
2人は剣を下ろした。
2人はまた見つめ、そして笑った。
━━━━あんなヤツ、死んじゃえばよかったのに。
それは急に鳴り響いたデスロックだった。