もっと早く出会いたかった
いつの間にか夜になっていた。
あの場から逃げた2人はまた湖の近くの木の下に身を置いていた。
会話もなく小さい身をただ寄せ合いながら、空を見上げた。
いつになく綺麗な三日月で、星が無限の世界を物語るように幾億も光り輝いていた。
「あの星の中に、地球があるのかな?」
槇は小さく溢した。
多少の沈黙がさらに空を高く見せた。
「地球とはなんじゃ?」
槇はシセリアに目を向けると、興味深々の顔を向けていた。
「そういやぁ話してなかったな、そうだなぁ、」
槇は空をまた見上げた。
それにつられてシセリアも空を見上げる。
「オレはこの世界の人間じゃないんだ。
別の世界、地球って星から来たんだ。
そこだと、空に近い家があるし、自動で動く箱もある。
殺人生物なんかもいない世界だからこんな武器もいらない。
みんな笑って、楽しんで、そして平和を過ごしてるんだよ。
オレ達はそんな世界から来た」
一通り話し終えると、槇は溜め息を吐いた。
「その世界に帰るために、今旅してんだ」
シセリアは視線を下ろし、湖の中心にある小島を眺めた。
「どうやったら、その世界に行けるのじゃ?」
槇は困った。
「わからねぇんだよ。今やってることも真実味に欠けるっつうかなんつうか」
「……そうなのか」
また沈黙が場を支配した。
それに溶け込むように、シセリアは呟いた。
「わらわも、槇と同じ世界に生まれてたらのぉ……」
聞いていないフリをした。
町民から投げつけられた石のキズがウズく。
今まで、どんな過酷な生活をしてきたのかわからなかった。
もし、始めから差別を受けていたなら、あの行動は防衛本能だったに違いない。
もし、あの行動を初めからしていたのなら、それをいけないと言ってくれる人がいない、いわゆる差別が起こっている。
どっちにしろ彼女が悪いのだろうが、それでも彼女をほっておくことなんてできなかった。
「次にまた産まれたら、槇と同じ世界にいられるかのぉ?」
槇は少し間を置いて、ゆっくりと口を開いた。
「あぁ。強く願ってれば、必ず神様は叶えてくれるよ」
それを聞いてホッとしたのか、シセリアに笑顔が戻った。
「そうか。死んだら、神様に頭下げまくろうかの」
「死んだらなんて言うなよ」
静かに強い言葉を呟く。
その言葉に驚き槇の顔を見る。
「ここがイヤなら、オレが連れ出してやる。だから、オレが生きているうちに死ぬなんてこと思うんじゃねぇよ」
シセリアの笑顔が消える。
「そう言ってくれると、ありがたいぞよ」
シセリアは槇の肩を借りた。
槇は抵抗しなかった。
なにも知らない槇の優しさが、シセリアには苦痛だった。
悔しかった。
もっと早く出会いたかった。
空を見上げれば見えるそれに少しでも近づきたかった。
星を指でなぞる。
ひとつひとつ、気を紛らせるために。
夜が明けるまで、幾億の星を1つずつ数えていった。