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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第5章〜〈人魚姫の微笑み〉
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昔の自分



 町に着いてすぐにさっきの親子が目に入った。

 先ほどのことはなかったことのように忘れているようで、一家団欒の時間がそこには流れていた。


 シセリアはそれをゴミを見るような目で見ていた。


 そんなシセリアの肩を優しく叩く槇。



「シセリア、さっきのこと謝ってこい」



 槇の言葉にシセリアは驚き、眉間にシワを寄せた。



「なぜじゃ?」



 相変わらずの反応に溜め息しか出なかった。



「悪いことしたら謝るのが普通なんだよ」

「悪いことなぞしてないぞよ」

「いいから謝ってこい。オレもついてってやるから」



 今度は槇が手を引き、その親子に近寄った。

 瞬間だった。



「わぁ! 悪魔だ!」



 通行人の男性が叫ぶ。

 その男性は驚き恐れると同時に石を拾いシセリアに向けて投げる。

 石は綺麗な放物線を描いてシセリア目掛けて飛んできた。

 その行方だけを眺めるシセリアは避けようとも考えなかった。



「……また……か……」



 当たる。

 体が勝手に判断し反射的に目を閉じる。


 昔のように、全ての人から迫害されていた、あの日のように……。


 カキン!


 当たらなかった。

 痛みはなく、むしろ温かな風がシセリアを包んだ。

 まぶたを開けるとその原因がよくわかった。

 目の前でシセリアを守るように剣を構えている。



「おい、ちょっと待てよ。確かに酷いことしたけどよ、それはないだろ」

「近寄るな! 近寄るな!」



 聞く耳持たずの男性。

 近くにいた人たちまで石を持ち投げてくる。



「きえろ! バケモノ!」

「いなくなれ!」

「早く食われろ!!」



 もちろん、あの親子もだ。

 わらわらと人が増え、罵詈雑言と多くの石を浴びる。

 必死に剣で弾いていたが、それも途中で止め無抵抗でいるシセリアを真っ直ぐ見る。



「いやならいやって言えよ」



 全く反応もしない。

 その様子に昔の自分を重ねた。

 その事が余計にムカついた。


 ゴツ


 鈍い音。

 少し大きい石が槇の頭に当たる。

 つぅっと額から血が流れる。



「いやならいやって言えよ!」



 その怒鳴り声で人々は行動を止めた。

 2人の動向を様子見、それでも何仕出かすかわからないバケモノに構える。



「これでいいのじゃ。わらわは……これで……」


「……ちっ」



 シセリアの手を引き、町民に背中を向ける。

 そして、町から出ようと走った。


 未だ聞こえる罵声。

 すすり泣くシセリア。

 全ての音が、槇をいらつかせた。

 そして、彼女を守らなければいけないと、思わせた。


 あの時、槇はなぜシセリアを追いかけたのか、わかった気がした。


 孤高の自分。

 誰とも話しが、遊びが、タイミングが、呼吸が、息が、合わなかったあの時の自分。


 まるで、自分を見ているようだったのだ。

 そんな自分が、嫌いだった。



「こんな場所かよ…………、ここは……」






――お父様。

  人魚姫ってなんじゃ?

  おとぎ話に出てくる美しいおなごのことなのか?

  わらわは美しいのか。嬉しいぞよ


――お父様、なぜ泣いていらっしゃるのじゃ?

  わらわは人魚姫ぞよ。

  笑って欲しいぞよ


――お父様。

 『人魚姫』と言っただけで皆が泣くのはなぜじゃ?

  なぜ、皆は笑って喜んでくれないのじゃ?


――お父様。

  人魚姫って、おとぎ話のように美しくないのか?

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