友達
「ったく、どこいったんだよ……」
槇はシセリアを追いかけて川上へ向かって走っていた。
既に見失っていたが、何となくこの先の気がしていた。
川を辿り着いた先は、湖であった。
荒い呼吸のなか、周囲を見回した。
丘の天辺であるこの場所の大半は湖である。
その中心には風景的に不自然な円形の石造りの小島があった。
湖の周りにだけ不自然に木が多く、ここへの道は槇の通ってきた道ひとつしか無かった。
「…………いた」
その木々のひとつに彼女は身を小さくして隠れていた。
その姿をみると槇は溜め息を吐き、ゆっくり近づいていった。
「なぜ追ってきたのじゃ」
残り数歩というところでの言葉に足を止める槇。
顔も上げず、冷たい声だけが向けられた。
まるで喉元にナイフを突きつけられたような感覚に陥った。
「なぜ……? わかんねぇけど、テメェを1人にしたくなかったからよ」
そうしてまた歩みを進める。
「嘘じゃ! どうせわらわを笑い者にするために来たに決まっておる」
「嘘じゃねぇよ」
槇の影が、シセリアにかかった。
「そうじゃ! どうせわらわを貶し、恐れ、下卑しに来たに……」
「命の恩人をそんなふうにするわけないだろ」
シセリアは顔を上げる。
色の違う目から、同じ色の涙が溢れていた。
「友だちいないんだろ?」
槇はそれを指で拭う。
「なら、まずオレを友だちにしてみろよ。その命令口調でよ」
槇の見せた笑顔が、シセリアの瞳に焼き付いた。
「……、わ、わらわと……、」
あわあわと動く口。
槇は待った。
「わ、わらわと、と、」
待った。
たった一言を。
「わらわと友だちになれ!!」
川の流れる音しかしないこの池で、その声はやけに響いた。
恥ずかしいのか、恐ろしいのかわからない顔で槇を見た。
槇は、しっかり聞き、ハニカンで、
「あぁ、友だちになってやるよ。シセリア」
右手を前に出す。
シセリアはその手を取り立ち上がる。
槇が見つめると、恥ずかしいのかシセリアは視線を外した。
「オレは槇。訳あって旅してる」
「そうか。旅なら、いつかこの島を出てしまうのじゃな」
「まぁ、用事が済めばな」
「そうか」
━━━━それまでわらわが生きていればいいが。
小さな声で呟かれた言葉。
「え?」
聞き難い言葉に聞き返してしまった。
「なんでもない。ほら、行くぞ。まだまだ遊び足りぬわ!」
シセリアは槇の手を引き、また町へ降りるのであった。