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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第5章〜〈人魚姫の微笑み〉
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友達



「ったく、どこいったんだよ……」



 槇はシセリアを追いかけて川上へ向かって走っていた。

 既に見失っていたが、何となくこの先の気がしていた。


 川を辿り着いた先は、湖であった。

 荒い呼吸のなか、周囲を見回した。


 丘の天辺であるこの場所の大半は湖である。

 その中心には風景的に不自然な円形の石造りの小島があった。

 湖の周りにだけ不自然に木が多く、ここへの道は槇の通ってきた道ひとつしか無かった。



「…………いた」



 その木々のひとつに彼女は身を小さくして隠れていた。


 その姿をみると槇は溜め息を吐き、ゆっくり近づいていった。



「なぜ追ってきたのじゃ」



 残り数歩というところでの言葉に足を止める槇。

 顔も上げず、冷たい声だけが向けられた。

 まるで喉元にナイフを突きつけられたような感覚に陥った。



「なぜ……? わかんねぇけど、テメェを1人にしたくなかったからよ」



 そうしてまた歩みを進める。



「嘘じゃ! どうせわらわを笑い者にするために来たに決まっておる」

「嘘じゃねぇよ」



 槇の影が、シセリアにかかった。



「そうじゃ! どうせわらわを貶し、恐れ、下卑しに来たに……」

「命の恩人をそんなふうにするわけないだろ」



 シセリアは顔を上げる。

 色の違う目から、同じ色の涙が溢れていた。



「友だちいないんだろ?」



 槇はそれを指で拭う。



「なら、まずオレを友だちにしてみろよ。その命令口調でよ」



 槇の見せた笑顔が、シセリアの瞳に焼き付いた。



「……、わ、わらわと……、」



 あわあわと動く口。

 槇は待った。



「わ、わらわと、と、」



 待った。

 たった一言を。



「わらわと友だちになれ!!」



 川の流れる音しかしないこの池で、その声はやけに響いた。

 恥ずかしいのか、恐ろしいのかわからない顔で槇を見た。


 槇は、しっかり聞き、ハニカンで、



「あぁ、友だちになってやるよ。シセリア」



 右手を前に出す。

 シセリアはその手を取り立ち上がる。

 槇が見つめると、恥ずかしいのかシセリアは視線を外した。



「オレは槇。訳あって旅してる」

「そうか。旅なら、いつかこの島を出てしまうのじゃな」

「まぁ、用事が済めばな」

「そうか」



━━━━それまでわらわが生きていればいいが。


 小さな声で呟かれた言葉。



「え?」



 聞き難い言葉に聞き返してしまった。



「なんでもない。ほら、行くぞ。まだまだ遊び足りぬわ!」



 シセリアは槇の手を引き、また町へ降りるのであった。



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