お嬢様の横暴
直射日光の眩しい光に目がなれる。
手を引かれながら辺りを見回す。
この場所は丘の途中の様で、出てきた豪邸の他に家は無かった。
あるとすればすぐそこで緩やかに流れる川くらいであろうか。
「この川の下流に向かえば町じゃ。わらわと遊べ」
「なんでテメェなんかと遊ばにゃぁ、って人の話し聞きやがれ!」
シセリアは槇の手を確りと握り走る。
それに歩幅も合わないまま一緒に緩い下り坂を下っていく。
「しゃぁねぇか……」
槇は腹をくくるが、それと同時に溜め息を吐いた。
「オレ金ないぞ」
「大丈夫じゃ。わらわがお金をだすゆえ、楽しませてくれればよいのじゃ」
不思議な感覚だった。
でも、知っている感覚。
それがなんなのかまではわからなかった。
「まぁ、いっか」
町にはすぐ着いた。
そこで迷わず入ったのはファミレスの様な作りの飲食店であった。
「いらっしゃいませ!」
キャピキャピした若い女性の声が飛んできた。
その店員はふたりを案内しようと視線を向けた瞬間、嫌な顔をしたのを槇は見逃さなかった。
そんなことお構い無しのシセリアは、すでに親子4人の先客がいるテーブル席の前に立った。
「邪魔じゃ。ここはわらわの特等席じゃ」
「なんでですか! ここは……」
「黙れ愚民!」
左の緑目が光る。
すると机の上にある食器が浮かび上がり、その親子に襲いかかる。
「うわぁぁぁ!!!」
親子は机の下に逃げ、そのままこの店から出ていってしまった。
その様子をただただ唖然と見ていた。
「さぁ、やっと退いたのぉ。今片付けるゆえ待つのじゃ」
また左目が光る。
粉々になった食器を隣の誰もいない席に移した。
片付けはそれだけだった。
「……おい」
「ほら、座れ」
シセリアが先に座り、笑顔で槇を見た。
「どうしたんじゃ? 怖い顔して」
「どうしたじゃねぇよ。さっきの人たちに謝ってこい」
「何故じゃ? ここはわらわの席じゃ」
「いいから謝ってこい」
シセリアから笑顔が消えた。
俯き、顔が見えなくなる。
「やはり、お主もわらわをバカにするのじゃな」
ボソっと呟いた瞬間、シセリアは槇を押し退けて走り去って行く。
「おい!」
槇は追いかけた。
1人にさせてはいけない気がして。
誰かのように、側にずっといなければいけない気がして。
必死に追いかける。
――ねぇ、お父様。なんで外に出ちゃいけないのじゃ?――
――お父様。花とは綺麗なのか?――
――お父様、なぜ皆はわらわを、避けるのじゃ――