青い女性
槇はゆっくりと光の届かない深海へ沈み続ける。
その奥にはこの海の主が同様に深海へ落ちていっている。
海の主の威厳か、そのふたつの姿以外の影を見ることはできなかった。
「……あれ? イクスウェル?」
遠目にその姿を見つける、人の姿があった。
安全確認をするために自ら怪物の周りを泳ぐ。
「気絶してる? でももう、起きるぞよ」
そろそろ離れようと怪物から少し離れる。
「……!!!」
槇に気づき急いで近づく。
槇の胸に手を当て、弱いながらも鼓動していることを確認する。
しっかりと掴み、全速力で水面へ向かった。
槇はゆっくり目を開けた。
焦点を合わせていき今いる場所がどこなのか把握し始める。
見たことない青い天井。
タイルを綺麗に並べたような光沢のある天井。
気持ちいい日差しと風が入り込む窓では白いシルクのカーテンがヒラヒラと遊んでいる。
外は緑が見え、人の気配は特にない。
町外れだろうか。
寝ている場所は思いのほか快適なベッドである。右も左もぬいぐるみが置いてあり、それだけで女の子の部屋であろうと判断できた。
現状をもっと把握するために槇は体を起こす。
それによりベッドが深く沈んだ。
「すごい……、ふかふかだ」
思わずこぼれるほどの弾力に、ベッドの値の高さを感じた。
辺りを見回せば間違いなく女子の部屋であった。
大きな三面鏡には化粧道具が並び、本棚には分厚い書籍もあれど、ほとんどが雑誌のように薄く、小説のようであった。
扉はその奥にあるのだが、どうやらそこから出られる訳では無いようだった。
「お主、目が覚めたか」
その声に顔を窓の方に向ける。
それは人であった。
槇はその姿に見とれた。
華奢な体つきの肉付きは素晴らしい曲線を描く。
来ているワンピースは南国のビーチのような美しい碧。
外国人のような美しい顔立ち。
海より青く、腰まである長い艶やかな髪。
雪より真っ白い肌。
そしてなにより不思議な魅力を醸し出す、右が水色、左が緑の瞳。
誰が見ても美しいと感じる容姿であった。
「なんじゃ? 気持ちが悪い。わらわをそんなに見つめるでない」
その言葉で槇は我に返り目線をそらした。
「す、すまん」
その女性はベッドに座り鼻が当たりそうな程顔をちかづけ、槇の顔をまじまじと見た。
「ほぉ。こんなにいい男だったとわ」
その発言に驚いた槇はまた女性の方を向く。
その表情にニヤリと笑みを浮かべた。
そして小声で呟く。
「なに期待しとるのじゃ、この変態が」
「テメェ、言わせときゃ……ッ!」
女性の人差し指が槇の唇を縦に塞いだ。
「騒ぐでない。お主がいることがバレたら一大事じゃ」
女性は扉を睨みながらそう告げた。
槇は舌打ちをし、寝っ転がった。
「ふふふ、ふてくされた顔も可愛いのぉ」
「テメェ、友だちいねぇだろ」
「テメェとは誰じゃ? わらわにはシセリアというちゃんとした名前があるのだが?」
「テメェはテメェだよ」
「お主は口が悪いのぉ」
「テメェに言われたくねぇよ」
お互い言う言葉を失うと、急にシセリアは笑いだした。
「どうしたんだ? アホにでもなったか?」
「いやなぁ。まともに話しができる輩に生まれて初めて出会った気がするぞよ」
「あくまでも気がするなんだな」
「そうじゃ! お主、わらわについてこい」
女性が人差し指を自分の方に曲げると槇は起こされる。
まるで魔法であった。
そんなことに驚いていると女性は手を握った。
「え? ちょっと待てよ。そこ玄関じゃない」
「細かいことを気にするでない! 男じゃろ」
引かれるがまま、窓から外に出た。