砂漠の町
槇たちは道を真っ直ぐ進む。
平原が段々と砂地に変わり、空気も心なしか渇き始めていた。
直射日光が睨みを効かし、砂は悠々と熱を返す。
町に着いた頃には、汗まみれで喉の渇きにオアシスが目に入る。
砂漠の入り口と呼ばれるこの町の中央には巨大なオアシスがあり、その周辺に住宅が建ち並んでいた。
広くはないが物資輸送の中継点でもあり、多くの商人が忙しなく右往左往している。
そんな中、いまだに穴が埋まらないと嘆く槇はあるものに気がつく。
人外指名手配という掲示板であった。
AからDまでありAほど金額は高かった。
Aの上にはお決まりのSがあり、今かおりが所持しているお金の何億倍もあった。
Dにはウルフなどがあり、賞金的にも金魚の糞程度であったが、一泊分の金額ではある。
槇はDから見ていき、Aより上の階級のSを見る。
「げっ」
槇が顔をしかめた。
「なになに?」
康貴は槇を退かして掲示板を見た。
「うわっ」
康貴も同じように顔をしかめる。
かおりは余計に気になって横から覗く。
ど真ん中に大きく絵が書いてあり、簡易な大きな丸の中に小さな丸が2つ、その中にさらに小さな塗りつぶされている丸。
小さな丸の間には2つの点が並び、その下には逆三角。
大きな丸の側面と下には図太い四肢。
『ボキだよ!』
今にもそう聞こえそうだった。
「でた。ゴリマッチョクン」
「でたね」
「見たオレがバカだったよ」
嫌なものを見たため、3人はその場から立ち去る。
そのことによって、この後出会うだろう強敵を見逃したのだ。
ゴリマッチョクンの隣に、もう一枚、大きな牙をはやした、ドラゴンのような容姿のSランクの指名手配を。
宿を探して歩き回る。
途中、出店を見ると珍しい衣服や食料、さらには木彫りの熊まで置いてあった。
それらを見て回り、疲れると真剣に宿を探し始める。
「ちょっと、そこの君たち」
そんな時に呼び止められた。
3人は声の方を向く。
どうやら武器屋のようで、店頭にはいろいろな武器が並んでいた。
「君たち、そんな武器でここまで来たのかい?」
「あぁ、そうだが」
槇が不機嫌そうにそう言った。
「そりゃ、スゴいね!」
「それだけか? なら失礼するよ」
「ちょちょちょ! この店の武器、半額で売ってやるから、どうだい?」
かおりは半額という言葉に反応し、
「見ていきましょ」
まんまと店内に入るかおり。
後を追いかける康貴に対し、槇は溜め息を吐き、仕方なしに中に入る。
半額と言っても、なかなか値の張る物であった。
宿泊代と食料費を考えると、2つ買うのが精一杯であった。
「さぁ、どうしようか、槇?」
「どうするって……普通に考えたら近接3人ってキツいよな」
「そうね。基本は前衛2、後衛1よね」
「この店で遠距離用はあの弓くらいだな」
「さすがお兄さん!
お目が高い!
この店の中でもなかなか高価な武器ですよ!
矢は気弾でいけるから、矢代はかからなくて済む分、意外とお得だよ!」
店員はすぐさま商品説明に入った。
「なぁ、試していいか? 気弾とかわかんねぇからさ」
「もちろんどうぞ」
弓を持ち、外に出た。
まず槇が弓を構え、弦を引く。
テオが言っていたことを応用に、その場所に集中する。
すると青い光がその場所に集まり、球体になる。
しかし、矢の形にはならず、仕方無しに手を離す。
光の球体は放たれたが、すぐに分裂し空中に消えていった。
「やべぇ。すんげぇ疲れた」
槇は酷く汗をかき、息を切らせていた。
「情けねぇなぁ、槇。次はオレだ」
康貴は槇から弓を奪い、同じように弦を引き、集中する。
がしかし、青い光さえ出ない。
本人は一生懸命なのだが、一切無意味であった。
「誰が情けないだ?」
「しょうがないだろ!」
睨み合う2人を横目に弓を拾うかおり。
他の2人同様に弦を引き、集中する。
その瞬間、かおりが青い光によって発光し、服は風になびくように遊んでいた。
髪も重力を無視する。
その光がかおりの弦を引いている手に集まり、矢の形に変わる。
それを空中に向けて放つ。
分裂せず、それは地面に落ち、消えていった。
「で……きた?」
2人はかおりを見てキョトンとしていた。
「始めてだよな!?
スゴいスゴい!
気弾使えるなんて!
こりゃ買わなきゃ損だよ、損!!」
「えぇー、そうかしらぁー。なら買いましょうかねぇ」
「毎度あり!!」
店主の褒め言葉にかおりは気分を良くし買ってしまった。
弓を買い、後1つどうするかを……、
「オレだ」
「いやオレだ!」
ケンカしながら決めていた。
「お前それでいいだろ」
「お前だってそれ使いこなしてんじゃん!」
「ラチがあかねぇな」
「だな。じゃぁ……」
「「どっちがかおりを口説けるかで勝負だ」」
2人が同時にかおりを見て言う。
それと同時にかおりの美しい曲線を描く蹴りを槇はしゃがんで避け、そのまま康貴の頭部にヒットする。
「ちゃんと決めい! エロガッパども」
と言うことで、2人は拳を握り合い、ファイティングポーズをとる。
「チーンってやつ無いのか? これじゃぁ始まんねぇよ」
「あんたらのチーンでも豪快に鳴らしてあげようか?」
苛立ち始めたかおりは仁王立ちをした状態で貧乏揺すりをし始める。
「ったく。ジョーク通じねぇな。やるぞ康貴」
「よし!」
「じゃんけんぽい!」
勝負は過酷を示した。
何度もアイコが続き、2人の額には汗がにじむ。
24回目の正直で勝負がついた。
康貴がグーで勝つ。
そしてかおりの前に行き、流し目をしながらこう言う。
「これから2人でお茶しない?」
かおりは康貴をかかと落としで地面にめり込ませ、踏みつける。
「まともにやれと言っとんじゃワレ」
「だよな。なにしてんだか? そんな奴ほっといてオレと砂漠の散歩でもしない?」
チーン。
そんな効果音と共に槇は宙に浮く。
地面に降り立つと膝から崩れる。、
「もう立ち直れないかも。絶対に折れたよ。スゲーいてーもん」
そんな茶番にかおりは弓を引いた。
その後、2人がどうなったかは定かではない。
「っで、康貴がじゃんけん勝ったから、康貴の武器買うで良いわね。斧でいいでしよ?」
「はい。大丈夫です」
「ねぇ、お兄さん。砂漠渡るのに適した、斧ってなに?」
少し呆れて見ていた店主は、いきなり声をかけられてビクッと動いた。
「さ、砂漠かい? なら、テントとか張るようにハンマータイプがいいんじゃないかな? おすすめは……これ!」
元気よく指したのは、金槌を数十倍に大きくしたような、なんとも味気無い武器であった。
康貴は取り合えずそれを持ってみる。
持つ部分は長く、鉄部分に近い方を右手で、はじっこ部分を左手で持つ。
「康貴どう? 重い?」
「意外と軽い。しかも面白い!」
なぜかテンションが上がる。
「おっ、それを持ってるとイケメン度が増しますぜ!」
「マジか! なら……」
「いや、増さないけど買います」
えっ、と反応した康貴は無視でお買い上げとなった。
いらなくなった、槍と斧を売り、お金に変えるが、槇の武器を買えるほどの金額ではなかった。
「まいどありがとうございましたーぁ」
店主の声を背中に受け宿屋を探す。
「あぁあ、オレも欲しかったなぁー。カッコイイ剣欲しかったなぁー」
落ち込む槇を引っ張りながら、直ぐに宿を見つけ部屋を借りた。
しかし残念ながら部屋は1つしか空きがなく、ベットは2つ。
疲労を隠せない3人は誰がベットを使うのか考えていた。
「オレ絶対ベットがいい!」
康貴がほざき、ベットに飛び乗り制圧する。
ただでさえ部屋が一緒と言うだけで困っていたかおりを余計に困らせた。
「やっぱりもう1部屋かり……」
「いいよ。オレ、ベット嫌いだし」
そう言って槇は入口付近の壁にもたれた。
「でも、」
「ムダな金は使わない方が良いだろ。それに、かおりはまだ病み上がりだ」
「槇だってキズ!」
「こんなんキズじゃねぇよ。穴」
「余計ダメだって!」
「うるさい。女は黙って男の言うことでも聞きゃぁいいんだよ」
槇は部屋に背を向けドアに手をかけた。
「どこ行くの?」
「道でも聞いてくる。ゆっくり休め」
それだけ言い残し槇は出ていった。
「……バカ槇。こっち来てから寝てないじゃない」
かおりは閉まったドアに言葉を投げた。
ただ、虚しく跳ね返るだけなのに……。
その虚しさに負けたように振り返る。
康貴はもう寝ていた。
その寝顔を見るだけで、そんな気が少し晴れた。
窓の外を見るともう空は暗くなっていた。
窓から見える2つの月は砂漠を暗く照らしていた。
その光の下に出た槇は近くの壁に背もたれた。
砂漠の夜は冷えると言うが、オアシスの近くだからか堪える程寒くなく、しかし吸う空気は冷たかった。
槇は一番星に深く息を吐いた。
そして静かに目をつむり、両手をポケットに入れた。
「寝てられねぇだろ。今日はオレの勝ちだな」
まぶたを開け、ゲゼアルへの道を横目で見る。
その先には無数の火がこちらに向かって来ているのがわかった。
「20か? 意外と少ないな」
槇は壁から離れ、火の方向に歩いていく。