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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜プロローグ〜〈バレンタインデー〉
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プロローグ-2-



 翌日……。



 かおりはいつもの場所で槇と康貴を待っていた。

 マンションの入り口である。

 ここで待つのも、もう10年目になる。

 小学生の頃から、ずっとここが3人の待ち合わせ場所だ。



 バカなことで笑う時でも、

 悔しくて泣いた時でも、

 傷ついて凹んだときも、

 嬉しくて喜んだときも、

 ずっと3人でいた。



「なんで仲良くできないんだろう」



 かおりは両手で持った2つの箱を眺めながら呟いた。



「中学2年からかな?」



 可愛く首を傾げると、箱のラッピングにこりすぎたと少し後悔した。

 急に恥ずかしくなり、無意味に両手を背中に持っていった。



「おっはよー!」



 遠くから、毎朝聞ける元気すぎる声がかおりを笑顔にした。

 かおりは声のするほうを向いて、走りながら右手を大きく振っている康貴に手を大きく振り返した。



「おはよう、康貴」

「おはよう。今日はお花のピン? 可愛いね」

「ん?」



 不意に言われた言葉に動揺して、何を言い返せばいい悩む。



「へへへ。顔赤くしてやんの。カワイイ」



 バカにしたような言い方にほっぺをぷいっと膨らませた。



「う、うるさいわねぇ。そんなこと言ってるとチョコあげないんだから!」

「え!?」



 康貴はチョコという言葉に過剰な反応を見せた。



「ご、ごめん!」



 血相変えて謝る。目には涙を浮かべていた。

 かおりは逆に悪いことをしている感覚にさいなまれた。



「わ、わかったわよ。……はい」



 かおりは右手を康貴の前に差し出す。

 可愛くラッピングされている箱の1つがそれは康貴の顔を満面の笑みに変えた。



「やったー! ありがとう!」



 康貴はその箱を受けとり、それを天高く上げて喜んだ。

 思わず笑ってしまうかおり。

 あそこまで喜ばれたら、誰でも嬉しくなるものだ。



「ねぇ、今食べていい?」

「えぇー。康貴はさぁ、どうせ今年もいっぱいチョコ貰うじゃん。私のチョコなんか飽きちゃったでしょ。別に捨ててもいいんだよ」



 かおりはふざけてそう言った。

 すると康貴はいきなり真面目な顔になり、



「いやだ! 最初に食べるチョコはかおりのチョコって決めてんだ!」



 この言葉が聞きたくてわざとあんなことを言った。

 毎年くれる元気のお裾分けを貰うために。



「そうですか。じゃぁ、お食べください」



 康貴は胸を踊らせて箱のラッピングを綺麗に剥がし、中に入っているチョコを取り出した。

 少し歪なハートの形になっているチョコ。

 康貴はその形を目に焼き付け、口に運ぶ。



「おいしー! やっぱりかおりの作るチョコはおいしいよ。オレ、かおりのチョコ食べれて幸せだよ」

「……ありがと」



 あまりの恥ずかしそうに笑みがこぼれる。

 頬は仄かに赤らんだ。



 そんな時だった。のそのそと近づく槇が視界に入る。



「……、……よ」



 毎日のことだが、第一声さえ素っ気ない槇。

 それが苛立つのか、康貴は槇を睨み付ける。



「あ、おはよう槇。はいこれ、バレンタインチョコ」



 かおりは左手を槇の前に出した。



「ん」



 槇は箱を奪うように取り上げ、学校へ向かう道を歩きながら、箱のラッピングをビリビリに破く。

 そして、中に入っているチョコを取り出し、形すら見ずにすぐに口に運んだ。



 それを背後から見ると悲しそうな顔をし、視線を落とした。



「あいつ!」

「康貴、いいの」



 右手に力を入れ、殴りかかろうとした康貴にそう言う。



「いいんだよ。食べてくれれば」



 かおりは無理に笑った。それを見て、悔しそうに舌打ちをする。







 その日の昼休み。



「康貴君。はい、バレンタインチョコ」

「あ! ありがとう!」



 康貴はその日、70個目のバレンタインチョコを受け取った。

 机の横にある、予め用意しておいた4つの紙袋も、3つがその箱によって埋まったところだ。



「康貴君スゴい貰ってんね。かおりはもうあげたの?」



 遠目で見ていたかおりの友だちがお弁当をつついていたかおりに聞いた。



「ん? あげたよ」

「マジか。やっぱ義理?」

「本命……かな?」



 かおりはいまだに女子に囲まれている康貴を横目で見る。



「え!? 本命なの!?」



 友だちがいきなり叫ぶ。

 かおりはその声に驚いて友だちを見て焦ったように言い放つ。



「ちょっ! 声でかいし」



 ごめんと友だちは呟き、小声で話しを続けた。



「だって、かおりは槇君が好きなんでしょ?」

「べ、別にそう言うことじゃないよ」



 口をすぼめて急に口ごもるかおり。



「やっぱり康貴君の方がいいよねぇ。あんな、何しに学校来てるかわからない槇君より」



 その言葉を聞いて友だちを睨んだ。



「槇をバカにしないで」



 冷たく鋭い言葉がかおりから放たれた。



「槇をバカにするなら怒るよ」



 かおりの目が怒りに染まっている。



「ご、ごめん」



 友だちは反省を呟く。

 かおりは目を閉じ、次に開いたときは元に戻っていた。

 なにもなかったように、かおりは再びお弁当をつつき始めた。



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