テオとミー
幸いまだ東門の方には誰も来ていなかった。
周囲を警戒しつつ1人づつ穴を通り、少し遠回りをして西門に向かった。
西門の下には2つの影が見える。
各々武器を抜きながら強行突破さえ考えた。
「かおりお姉ちゃん!」
「ミーちゃん!?」
その影はテオとミーだった。
ミーはかおりに飛びつき満面の笑顔を見せる。
「ホントに助けたんだな」
「見送りに来たの!」
そしてミーがかおりに小さな袋を差し出した。
「これ、お金なの」
「え!? でも2人が」
「シチューのお礼。黙って受けとれよ」
ブスッと言うテオを見て微笑み、その袋を受け取り、テオを抱きしめた。
「わかった。ありがとうね」
「かおりお姉ちゃん! また遊びに来てね! 約束だよ!」
ミーは袋を持っていた手を小指だけ立て、かおりに向けた。
「うん。約束」
かおりはその小指に自分の小指を絡める。
「ゆーびきーりげんまん、うーそつーいたらはーりせんぼんのーます、ゆーびきった」
お互い小指を離し、そして笑顔を見せ合う。
「じゃぁ、またね」
「……うん」
3人は町の外に進んでいく。
その時だった。
「危ない!!」
テオの声。それと共にかおりはテオに突き飛ばされる。
━━━━バン━━━━
あまりにも軽い爆発音が辺りに鳴り響いた。
それが銃声だと思った時には既に遅かった。
血が地面に舞落ちる。
それとほぼ同時にテオが頭から地面に落ちていった。
「……テ……オ……」
ミーの瞳孔が開く。
自然とテオに近づき、体を揺らす。
「ねぇテオ」
まったく動かなかった。
それもそのはずだ。
銃弾は頭を貫通していた。
「ねぇテオったら!」
それはまさしく即死だった。
ミーはその意味を理解出来ていなかった。
「20分経ったわ。大人しく捕まりなさい。でなければ殺します」
緑髪の女性が銃のようなものを片手で構えて槇たちを見ていた。
女性の左にはマブロフ、右にはズワロフが剣を構えていニヤリと笑っている。
「もう一度だけ言います。捕まりなさい。でなければ殺します」
かおりは立ち上がりながら相手を見る。
「……逃げ切れないわ」
呟かれた絶望的な発言。
「戦うか?」
「ムリよ」
思考が追いついてこない悔しさにかおりは歯を食い縛る。
「……ねぇ、かおりお姉ちゃん。逃げて。私たちがなんとかするから」
ミーが俯いたまま立ち上がり、右手を上げる。
すると外からウルフの群れがミーを囲むように集まる。
「お姉ちゃんたち、やらなきゃいけないこと、いっぱいあるでしょ? だから、はやく行って」
「でも!」
ミーは振り返って、花のような笑顔をかおりに送った。
「ミーはずっとかおりお姉ちゃんと一緒にいるよ」
ミーがそう言うと3人はウルフの体当たりで門の外まで出され、ウルフが門の扉を閉め始める。
「ちょっと! ミーちゃん!」
じわじわ閉まっていく門。
抗うこともできず、門は虚しい音をたててミーの姿を隠した。
門の向こうではウルフの断末魔が聞こえる。
「ミーちゃん。テオく……ん」
かおりは急いで閉じた門に近づき、叩く。
無意味な行為だとわかるとその場で泣き崩れてしまう。
泣き声だけが響く。
この場のやりきれない感情が3人を襲う。
しかし、進まねばならなかった。
「康貴、かおりをおぶれ」
「あぁ」
康貴はかおりをおぶり、槇の後ろを着いていく。
道を真っ直ぐ、ゲゼアルに向けて、歩く。
3人とも、無力な自分たちを怨んだ。
あんな小さな子どもにまで助けて貰って。
なんでこんな世界に飛ばされたのか。
まるで自分たちが死神のように目の前の人がいなくなった。
その中、無情にも先に進む指示を出した槇の心はもう荒みはじめていた。