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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
~第2章~〈盗人と裁き〉
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緑髪の女性



 今日の夜も空は幻想的に輝いていた。

 2つの月が交わる時間。

 作戦実行の時間。



「なぁ、あそこ突破すんのか?」



 2人は裏道から軍事施設の入り口を覗いていた。そこには2人の門番と、監視塔にも人がいた。



「ちょっと待とうぜ」



 槇は好機が来るのを待った。

 それがいつになるのかそんな不安をふたりは抱き、しかし最善を確実に待っていた。


 その時だった。



「東門のあたりに小さな穴があるわ。そこから入ったらどうかしら?」



 女性の声が後方から聞こえ、胸が締め付けられるような感覚を味わう。

 その女性が2人の横を軽やかに通る。


 緑の髪は夜風になびき、白いドレスのような服は月光のように輝いていた。

 槇が確認できたのはそれぐらいだった。

 確りと確認しようとしたら、姿がなくなっていた。



「東門のあたりに小さな穴があるって言ってたな」

「あぁ」

「どうする?」

「どうするもなにも、そこから行くしかねぇだろ」



 2人は女性の言うことを信じて東門の方に向かった。

 本当に穴があった。



「よし、入ろう。後は運だ」

「それでかおりに負けてるクセに」

「そのオレに勝てないのは誰だ?」



 2人は穴から中に入って行った。



 一方、かおりは地下の牢獄に入っていた。

 なにもなく四角い牢獄。

 四角の1面が鉄格子になっていてそこから入るろうそくの光が唯一の明かりだった。



「私がバカだったわ。やっぱりあの子たち、可哀想」



 テオとミーがいたあの部屋と、この牢獄に違いがあるとすれば物があるかないかだけだった。

 冷たく、固く、そして苦しい空間。

 かおりは自分の最期を考えながら、座り、そして2人のことを思った。



「しん……こうき……」



 そしてポケットのペンダントを見る。涙が出る。



「まだ、まだ……、まだ…………、」

「生きたいのかしら?」



 かおりは顔を上げる。



「初めまして、第一級指名手配者さん」



 緑髪の両端を三つ編みで結び、丸いメガネの奥の黒い目、そしてかわいらしく美しい白いフリフリのドレスを着飾った女性。

 その女性は絶望に浸った顔のかおりに優しく微笑んだ。



「なによ」

「あら、そんな怖い顔しないで。少しお話しがしたいの」

「なにも話すことなんてないわ」



 かおりはそう言ってペンダントを隠す。



「なんで男装なの?」

「これしかなかったのよ。着るものが」

「そうなの。この場所に女性物の服があればあげたのだけど、残念ながらないのよね」

「何が言いたいのよ!」



 声を荒らげるかおり。

 その女性はふふっと笑う。



「なんてことないわ。ただ、あなたたちと『奴』のことが知りたいだけ」

「え?」



 キィー。牢獄の錆びた扉が開いた。



「あなたの仲間たちがこの施設に、あなたを助けるために乗り込んで来てるはずよ。

 今警備は最小限にしてあるわ。

 今から20分で私の見えないところまで行けたら、今回は見逃してあげるわ」

「え! 2人が!」



 緑髪の女性は後ろを向き、かおりの持っていた槍を転がした。



「はやく行きなさい。私が後ろを向いている間に」



 かおりは明らかにおかしいその言動に頭を捻らす。

 が、たとえ罠だとしても逃げられる可能性のある最初で最後のチャンス。

 かおりは立ち上がり、走って牢獄から出る。

 そして槍を拾って階段を目指す。



 そんな少女を見て緑髪の女性は静かにメガネを上げる。



「あの人のペンダント。……情報は確かなようね」







 階段を上ったところでかおりは止まった。

 荒い息を整えながら、2人がいそうな場所を考える。



(あの2人が探し回っているならまだ1階にいるはずだ。

 捕まって入ってきた経路は大体憶えてる。

 その途中の部屋も。

 牢獄のありかが地下に多いことは槇ならわかるはず。

 正面から入ってきたならば、もう大事になっているはず。

 他に入れる場所は、たしか……、東門付近の穴)


「あっちね」



 かおりはそう答えを出し、走り出した。

 20分。

 十分なようで短かった。



「いた!」

「かおり!?」

「かーおりー!」



 康貴は捕まっているはずのかおりに抱きついた。



「い゛ぎででよがっだー」



 涙と鼻水をダラダラ流しながら、やけに濁点の多い一言を言った。



「捕まってんじゃなかったのか?」



 槇はかおりに近づいて、疑問を投げ掛けた。



「ごめん。時間がないの。はやくここから逃げないと。東門の穴から逃げましょ」



 槇は頷き、かおりにくっついている康貴をひっぺがして来た道を戻る。

 石造りの廊下を走る。



「この暗さだと見張りは灯りを持ってるかもだから、灯りには気をつけて」

「わかった」



 そのかおりの考えもすぐに的中する。


 一本道でカンテラの明かりが床を照らした。

 それは間違いなく見回りの兵だった。



「そこ」



 槇は壁の窪みを指差しかおりと康貴を隠れさせる。

 自分はナイフに手をかけ、できるだけ低くしゃがむ。


 暗闇に紛れてカツンカツンと近づいてくる兵に寄っていく。

 明かりに照らされないギリギリの場所。

 そこで床を蹴り、自ら明かりの中に入っていく。


 斬り上げる。

 カンテラを飛ばし、相手が動揺しているスキに兵の後方に回り、柄の部分で後ろ首を強く叩く。

 すると兵は崩れるように倒れた。

 気絶したようだ。



「いいぞ」

「かっこいー」

「テレビの見すぎね」



 窪みから出てきて急いで東門の穴に向かう。



ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ



 轟音のアラームが鳴り響く。

 3人は思わず足を止めた。



「なんだ!」

「バカか! バレたんだよ!」

「まだ20分経ってないのに!」



 3人は全速力で走る。

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