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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
~第2章~〈盗人と裁き〉
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守ってやるから



 幻想的な夜は明け、再び賑やかな町並みに戻った。

 朝早くからかおりはテオとミーと共に、あの森に来ていた。

『見せたいものがあるんだ!』だそうだ。

 槇はめんどくさがり、康貴はまだ寝ていてこの場所にいない。



「かおりお姉ちゃん! この子チャロっていうの! この子はパトラッシュ! この子はハチ!」



 どこかで聞いたことのある名前だったが、そんなことないと苦笑いを浮かべた。

 ミーがじゃれあっているのはウルフであった。

 あの時の記憶があるため、かおりは多少距離を保っていた。



「そうでしょ! カワイイよね!」



 ミーが急に独り言を言うようになった。

 かおりは首を傾げると、それに答えるようにしてテオが言う。



「ミーは、動物と話せるみたいなんだ。不思議だよな。今じゃ森の動物全部と友だちだよ」



 へぇー。

 かおりは羨ましそうにミーを眺めた。

 あんな狭い部屋に、閉じ込められているようにいた少女にこんな能力があるなんて、マールという町の住人のどれ程の人が知っているのだろうか。

 かおりはなんだかやりきれない感覚に歯を食い縛った。



「かおりお姉ちゃん! 遊んで欲しいって!」

「ん?」



 だが、それでもこんなに強く生きていた。

 かおりは自分が思ってるほどこの子たちが可哀想ではない気がしてきた。



「うん! わかった」



 だから、少しでも、愛されることを教えたかったのかもしれない。

 かおりは森の動物と遊ぶ前に、まずミーを抱き締めた。

 ミーは驚く。そして、温もりを感じ取るのだった。



「じゃぁ、何して遊ぶ?」



 そのまま時間だけが過ぎていくようだった。

 動物とじゃれながら、意味もなく笑ったりふざけあったりしていた。



「ミー! 伏せろ!」



 テオが静かに叫ぶ。

 反射的に伏せ、上手く茂みに隠れるミーとかおり。


 3人の近くを堅い足音が右から左へと進んでいく。

 1人2人ではなかった。

 無数の足音が示すのはエデレスメゼン軍の行進だと言うことだ。

 その大名行列にも似た行進は確実にマールに向かっていた。

 確実にかおり達を追ってきている。嫌な予感しかなかった。



「そこの茂み」



 その声にかおりはミーをテオの方に突き飛ばし、持ってきていた槍で振り下ろされた剣を受け止めた。



「逃げなさい! はやく!」



 テオはその指示を確り飲み、ミーの手を引いて大名行列とは反対方向にかけていった。



「女? しかもあっちは子供みたいですよ、マブロフさん」

「まぁ、それはそれは殺す気にもなりませんなぁ、ズワロフさん」



 かおりが防いでいた剣の持ち主は、ゴツい体で大刃の剣を振り下ろすオカマ。

 マブロフと呼ばれたオカマの左肩にはエデレスメゼン軍のマークのようなタトゥーが刻まれており、ズワロフと呼ばれたオカマには右肩にあった。



「どうするの? 間違いなく、3人の内の1人よね。ねぇ、マブロフさん」

「そうよね。さっき逃げた子供は仲間? それとも人質のようなものなのかしら? どちらにしても町にまだ2人いるんじゃないかしら? ねぇ、ズワロフさん」



 マブロフが急に力を入れ、かおりはそのまま地面に叩きつけられる。

 かおりは咄嗟に立ち上がろうとするが2人はかおりの首の横の地面に各々の剣を刺し、クロスさせてかおりの首を包囲する。

 完全に身動きが取れなくなった。



「人質はどうかしら? マブロフさん」

「いい考えね! ズワロフさん」



 かおりは顔を上げる。



「縛っちゃいましょうか。マブロフさん」

「そうしましょう。ズワロフさん」



 2人の悪巧みにかおりは絶望する。





「女が軍に連れてかれた!」



 テオが暗い部屋に勢いよく入ってすぐにそう叫んだ。

 槇と康貴がその内容をすぐに理解できるはずもなかった。



「すまん。詳しく頼む」



 槇と寝起きの康貴はテオから森であったことの一部を聞く。



「あれが追ってきてたのか」

「さっさと助けに行こうぜ!」



 康貴は斧を手に取り、勢いよく立ち上がる。



「おいバカ。座れ」

「なんでだよ! かおり捕まったんだろ! はやく助けようぜ」

「だからバカなのか? そうか、バカだったな。忘れてたよ」

「あ!? お前の方がバカだろ! はやく助けないとかおり……、殺されちまうかもしんねぇんだぞ!」



 その言葉に槇は口を閉じてしまった。


『守ってやるから』


 自分で言った言葉が重くのし掛かる。



「もぅ守れてねぇじゃねぇかよ」



 悔しさに地面を強く殴った。



「だからはやく行こうぜ!」

「ダメだ。ダメだ」



 それでも槇は助けに行こうとしない。



「ホント、わからず屋だな」

「違う」



 槇は床を強く殴る。



「違う。

 しっかり聞いてくれ。

 テオの情報からして相手の数は千はいる。

 もとからマールの軍事施設に配属されてる人数は確認できる範囲で百程度。

 まだマールに着いてないから、今助けに行くんだったら千を相手にすることになる。

 今のオレたちじゃ返り討ちだ。

 なら、マールに着いてから助けに行く方が楽だ」

「なんでだ? 千と百が合わさるから尚更多くなるじゃんか」



 槇は大きく首を横に振る。



「マールに着いたら千の内、半分は休息をとるはずだ。

 単純計算、千程度よりも千の半分足す百の半分程度の方が少ないに決まってる。

 わかるな?」



 さすがの康貴でもわかったようだった。



「さらに、着いた直後に助けに行くと、疲れてはいるだろうが、まだ戦闘準備が整っているはずだ。

 なら、緊張が抜けた時間帯を狙って攻める」

「具体的に何時だ?」

「真夜中、1時。

 寝ている人は深い眠りにつき、警備に当たっている人は気が抜けまくる時間。

 2つの月が重なる時だ」



 そう言い終わると、康貴は座った。



「わかった。確かに助けられなきゃ意味ないもんな」

「でも、それまでに殺されたらどうすんだ?」



 テオは疑問を投げる。



「それはない。

 多分、オレたちを誘き寄せるために生かすさ。

 明日あたりに処刑でもするんだろうよ。

 その前に……」

「なんでそんなことまでわかるんだ?」

「わかるんじゃねぇよ。

 戦略だ。

 こんぐらいならオレでも考えつく。

 オレたちがマールにいることまで考えつく軍師なら、人質は簡単に殺さないだろうし、それに夜に攻めてくることぐらい考えつくだろうよ」

「それじゃぁ意味ないじゃ……」

「意味ないだろうな。だが、これしかない。この作戦しかない」



 槇の自信に満ちた目にテオは圧倒した。



「槇はかおりに将棋もチェスもバックギャモンもクリスタルゲームも勝ったことないのにな」



 康貴はケラケラと笑う。



「そうだよ。あいつよりダメだよ」



 槇は康貴に目を向けた。



「どうだ? この作戦ならかおりをギャフンって言わせられると思うが?」

「ヒットアンドウェイっつうのか?」

「あぁ。助けたら西門に行き、そのままゲゼアルに向かう」



 静かに聞いていたミーが小さく、え、と呟いた。



「すまん。お前たちまで巻き込みたくないからな」



 ミーはテオに抱きつく。



「いや。いいよ。また、遊びに、来てくれれば」



 テオも目線を床に向けながら、そう言った。



「あぁ! 絶対にまた来るからな」



 康貴が親指だけを立てた手を2人に向けた。



「さて、夜に向けて、シチュー食って寝るか」

「え! 寝るの! オレ寝れないよ!」

「じゃぁ起きてろアホ!」



 槇と康貴がなぜだか冷静だった。

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