讃夜
世界最後の決闘は、誰が見ても、熱戦だった。
闇の切れ際にぶち当たる金属。
光を遮る巨大な破裂音。
勇者、ジーグは距離を取り、燭台を背に微動だにしない、魔王、ゴウジェを賞賛する。
「相変わらずの耐久力だ。」
闇を払ったゴウジェはその身の雷槌をジーグに向ける。
「今日こそ貴様の首を頂く」
「やれるならやってみーよ」
電流が対象もなく弾けると、再び混沌の闇が行く先を消した。その光景を嬉しく思うのかジーグはにやりと笑った。
「昔みたいに、楽しくやろうぜ!!」
ジーグは剣を横に振る。斬撃波が闇を切り裂きゴウジェの首を裂く。
傷一つつかない鎧の奥からギョロリと動く紫の瞳。
「やば。」
ジーグは真上に大きく飛ぶ。
その刹那に真下にビームの如き雷撃が通る。
炎の羽を羽ばたかせ、いた場所を確認する。
「おいおい。マグマになってるじゃんか。」
愚痴をこぼしてすぐに広がる闇に突っ込んでいく。
炎の翼が切り裂いていく闇は雷鳴を轟かせながら消えていく。
ジーグは剣を大きく振る。
それは大きな斧にぶち当たると、時空を歪ませるほどの衝撃が当たりの一切を消し飛ばした。
「強いな。」
「いつまでも、弱虫のままではない!」
競り勝ったのはゴウジェ。振り切った斧は地面を割り、ジーグを飛ばす。
それで終わらせなかった。
斧がみるみるうちに獣の姿へと変わり、電光石火で直進する。それがジーグに当たったことなど見なくてもわかった。
「これで終わりだ」
帰ってきた獣は持ち主に甘えると、再び元の姿に戻っていった。
艶やかな風を感じると深呼吸をする。ようやく、決着がついた。そう思うために。
「ティエル。教えてくれ。これで終わったのか?」
巨大な斧を天に仰ぎ、それを光らせる。それが、何を意味したのかわかる間もなく、この世の異変が起こった。
「っ!!!」
「オレが教えてやる! 終わるんだよ! オレの手でな!!」
背後の気配に気づいたときには既に遅かった。
緋い石はその燭台にはめ込まれ赤色に輝く。その光は他の燭台の元へと向かい五角の形を取る。
「オレの勝ちだ!!」
地の鐘が地割れを起こし、天の鐘は空を割る。
「クソがっ!!」
すぐに立ち向かおうとするがそれどころではなくなった。五角の中央部分に時空の割れ目が発生し、そこから闇の化身が飛び出てくる。
「邪魔だ!」
護身を優先せざるを得ず、化身を薙ぎ払っていく。
「ざまないな。そこでおとなしく見ていろ。」
高らかに笑いながらそのものの名前を呼ぶ。悪魔にして、この世の全ての害悪。
「いでよ!! リオイオ!!」
混沌が集結していく。天凱の中央はその闇を吸い込み、1つになっていく。
讃夜。
聖なる闇の音に笑うものはただ1人。
『これでおしまい。やっぱり、ボクの出番はなさそうだ』
『そう思ってたんだけどな』