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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
~第2章~〈盗人と裁き〉
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マール到着



「ついたー!」



 康貴はあまりの歓喜に盛大な声を上げる。

 3人は最初の目的地であるマールの大門をくぐった。


 日も暮れ始め、辺りはオレンジ色に輝いている。

 石が敷き詰められている道には多くの人々が行き交う。

 商店街なのだろう。

 買い物を楽しむ者や、今晩のおかずを探している者。

 いかに多くの商品を売るかを競いあっている売り人。

 こっちの世界に来て初めての光景にかおりは圧倒されていた。



「まず宿か?」

「宿の前に質屋に行きましょ。お金がないもの」



 かおりはあの男の人から受け取ったペンダントを眺めた。



「そう言えば名前聞かなかったな」

「そうね」



 かおりはそれをポケットに仕舞おうとした刹那、すれ違う少年に手を叩かれ、ペンダントを離してしまう。

 その少年はすかさず落ちたペンダントを拾い、走って逃げる。


 かおりは間抜けに、あっ、と呟くだけだった。



「このやろう!」



 康貴は自慢の脚力で少年を追いかける。

 人混みを掻き分けながらの追いかけっこ。

 手馴れているのか意外にも速く、なかなか追いつけない。



「クソ!」



 少年は角を曲がり裏道に入る。康貴も上手く曲がるが、次の瞬間には少年は視界から消えていた。



「あっれ?」



 少し進んでキョロキョロ見回す康貴。



「見失ったか」



 後から追ってきていた槇とかおりが追い付くと軽くそう言った。



「でも、そこまで頭良い訳じゃないわね」



 かおりが冷静にそう言いスタスタと、居場所を知っているかのように歩いていく。

 槇と康貴はよくわからないままかおりに着いていく。



「ここかな?」



 着いたのは人目から隠れるように佇むドアだった。



「かおりすごい」

「まぁね。本当は砂道だから足跡追っただけなんだけどね」


 照れくさそうに説明する。


 槇はそのノブに手をかけ開け、ゆっくりと開ける。


 中は暗かった。



「ほら、今日は美味しいもん食えんぞ」



 少年の声であろう。それは薄らと明かりの灯っている方からであった。

 3人は忍び足でそっちへと向かっていく。



「今日はシチューにしよう。ジャガイモとニンジンと牛乳買って」



 ろうそくの明かりが目に入る。

 槇は思いきってその明かりに飛び込む。



「返して貰おうか」



 ナイフを抜き、人影に向ける。

 しかし槇の緊張はすぐに切れた。



 そこに居たのは、さっきの12歳くらいの男の子と、9歳くらいの女の子だけだった。

 どちらも耳が長く尖っていた。

 童話に出てくるエルフとかいう種族なのだろうか。


 男の子は女の子を庇うように抱きしめ槇を睨む。

 女の子は恐怖にぶるぶると震えていた。



「ったく。これじゃぁ怒る気にもなれんな」



 槇はナイフを仕舞い、その場に座った。



「取り合えず返せ」



 槇は2人に左手を差し出した。

 ビクビクしながら抱き合っている2人を見て、槇はどことなく罪悪感に苛まれた。



「返せ」



 少し強く言うと、少年はペンダントを手放し床に落とす。

 槇はそれを拾った。



「今日はシチューなんだな? かおり、オレもシチューが食いたい」



 そして2人を見ながらそう言い放った。



「シチュー? じゃぁ、買い物行ってくるわね」



 槇は後ろにペンダントを投げ、それをかおりがキャッチする。



「オレも着いてく」



 先に外に出たかおりを追いかけて、康貴も出ていった。

 それを確認し、いまだにビクビクしている2人を見ながら、また溜め息を吐いた。



「なぁお前ら、母さんとか、どうしたんだ?」



 そう聞くと、睨んでいる少年の視線が下がり、少女はすすり泣く声をあげた。



「ちっ。そういう場所かよ、……ここは」



 ジメジメとした空間に太陽の明かりは入らず、小さくなったろうそくの申し訳程度の火が今この空間の唯一の光源であった。

 床は土が剥き出しで、そこに藁を敷き詰め寝床のようにしている。


 槇はいまだに抱き合ったまま会話をしようとしない少年と少女をぼんやりと眺めていた。

 ストリートチルドレンとまでは言えないが、こんな屍が入るような空間に身寄りのない子ども2人で何日も生活していたのであろう。

 生活するために盗みを働くのは良くないことだが、こんな子どもが出るまでに劣悪な政治を繰り広げた国に苛立ちを隠せないでいた。



「こんなところかよ」



 槇はまたそう呟いた。

 その言葉にびくつく2人。

 そんな行動どうでもよかった。

 会話もなくただ、お互いがにらめっこをしているだけの時間。

 無意味に火が揺らいでいた。


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