第9話
「そういえば、この部屋に入る前にアウラって人からあの術陣の事を聞かれたんけど」
オズが周辺に気を配りながら先ほどのことをフレイに話した。
「話してないなら大丈夫よ。それにあの子は大丈夫」
何が大丈夫か、はオズには理解できなかった。しかしフレイが言うのなら大丈夫だろうとオズは考えた。そしてオズが考え事をしているわずかな時間にフレイが紅茶を入れ始めた。
オズは膝の上で寝ているリューイを起こさないようにしながら、フレイが入れてくれた紅茶を一口飲んだ。
「よくわからないけどフレイが大丈夫っていうなら放置かなぁ」
「そういってもらえると助かるわ」
オズとフレイは、とりあえず重要な話が終わった、というように紅茶を楽しんでいた。
「それにしても、よく寝ているわね?」
オズが空いている手でリューイの頭を撫でているとフレイが聞いてきた。
「人が多くて疲れたんじゃないかなぁ。前に比べたら良くなってきたけど、リューイって結構人見知りだし」
オズがフレイの質問に答えた。
「そうか、オズとは違うんだな」
うんうんと真面目な顔をしながらフレイは頷いていた。
「ボクと違うのはそうだけど、ていうか、リューイに関してはボクを基準に考えないでね」
「うーん、お前たち兄妹を見ていると、どうしても普通というか常識が崩れるんだよなぁ」
フレイが困ったような顔をしながら、オズたちに対して失礼なことを言ってきた。
「まぁ、ボクたちは、ちょっと人とは違うからね。仕方ないよ」
オズが何かを諦めたような顔をしながら呟く。
「そういえば、試験はどうだったんだ?」
フレイが急に思い出したかのように聞いた。
「今更それを聞くの?」
オズがその時のことを思い出したかのように苦い顔をした。
「何かあったのか?」
「うーん」
オズは言いよどんだ。しかしフレイは学院の講師である。隠していてもそのうちフレイにばれるだろうと考え観念したかのように言い始めた。
「ちょっとやりすぎちゃったかなぁっと思っているわけですよ」
「ちょっとってどれくらい?」
オズが茶化しつつ、フレイが具体的に話せという。
「うーんとねぇ……、エニスとじゃれあうレベル?」
「……それくらいならいいんじゃないか?もう終わったことだし」
オズが言い出したことに対して、フレイは顔を引きつらせながら答えた。
「そうだよね。試験は終わっちゃったから仕方ないよね」
急にオズが元気よくそしてニコニコと喋り始めた。
「それで、リューイはどうだったんだ?」
フレイは頭が痛いとでもいうように表情を作りながらリューイのことを聞く。
「ボクよりも火力は出てたね」
「それはそれで問題がありそうだが……、まぁ、過ぎたことだ。それにお前に負けたくないというか、いいところを見せたかったんだろう。」
「いいところを見せたい、か。ボクも頑張らなくちゃな~」
フレイが優しげな表情をリューイに向け、オズもリューイのために改めて頑張ろうと決意した。
フレイとオズの会話がひと段落付き、再びお茶を楽しんでいると研究室のドアがノックされた。研究室の主であるフレイがドアを開けた。
フレイがドアを開けた先にはシャロンとアンリ、リュディアそしてエニスがいた。フレイに促され室内に入る。その間オズは、シャロンたちに目も向けず、いまだ膝の上で寝ているリューイの頭を撫でていた。
「オズ、女王が来られたぞ。それと気づいているのなら、挨拶をしろ」
フレイがオズの無作法を咎める。
「別にいいわよ? リューイも寝ているのだし。それに、今更じゃない?」
リュディアがリューイを起こさないように、声を潜めながらオズのフォローをする。さりげなくオズを貶める事を忘れない。リュディアの言い分にフレイとエニスが頷いていた。
「女王陛下、このような形ですみません。また挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
オズを責めるような空気にオズが耐え切れなくなり、リューイを膝の上に乗せたまま、心のこもっていない謝罪した。オズの慇懃無礼といえる態度にシャロンとアンリは眉をひそめた。そしてオズに苦言を呈そうとしたところ、リュディアはオズが座っているソファーに近づいてきた。そして一言。
「オズ、その場所を換わりなさい」
「しょうがないですね」
オズはしぶしぶ頷き、リュディアはヨシッとガッツポーズを取り、喜びながらソファーに座る。しかしそんなリュディアの様子が気に食わないのか、シャロンが声を荒げた。
「お母様! いい加減にしてください!!」
「シャロン。急に大きな声を出してどうしたの?」
オズの膝の上のいたリューイを抱き上げながらリュディアは眉をひそめた。そしてリュディアがシャロンに対して、何故声を荒げたのか聞こうとした。しかしそれはリューイが起きたことによって叶わなかった。




