第8話
「フレイいる~?」
オズがノックもせずにフレイの研究室に入っていく。
「オズ。ノックをしろといつも言っているだろ」
フレイが呆れつつオズをたしなめた。
「フレイ以外の気配はなかったし、索敵の魔術も使ったからボクが来たのは、わかってたでしょ?」
「それでも、ノックをしろ。お前の腕は知っているがもしもという場合もある。それに基本的なマナーだぞ」
オズは、誰もいなかったから問題ないといい、それに対してフレイが苦言を呈す。
このままではお説教が始まると思ったオズは早々に白旗をあげた。
「わかった。今度から気を付けるよ」
「その言葉も何度目だ?まったく、しっかりとノックをして入れよ?それで、リューイはどうした?」
「ボクの背中で寝てるよ」
オズが背中で寝ているリューイをフレイに見せる。
「そうか。で、お前の目から見て王女様たちはどんな感じだ?」
急にフレイが王女様たちの印象を聞いてきた。オズはこの質問が、魔術のことについてだとすぐに感づいた。
「王女様たちって確か、14歳くらいだっけ?まぁ、いい線いってるんじゃない?」
オズは二人の王女について、自分の正直な評価を口にした。
「ほう、どうしてそう思った?」
フレイがなぜオズがその評価をしたのか気になったのだろう、そんな質問をした。
「うーん、……なんとなく?」
フレイは表情を消し、手のひらに魔力を集め始めた。それを見たオズは凄く慌てた。
「えーっと、ほら、あれ、あれだよあれ、さっきの試験だよ。それでそう思った」
慌てていたためか軽くパニックを起こしたオズ。それでも先ほどの試験でそう評価したといった。
「オズ。いつも言ってるだろ。魔術師ならば感覚的に伝えるのではなく、理論的に伝えろと。それでも理論的じゃなかったがな」
フレイが呆れの表情を滲ませながら手のひらに集めていた魔力を霧散させる。その行為によって、オズは、攻撃されるかもしれないという緊張を解いた。そして背中のリューイを来客用のソファーに寝かせ、オズも隣に座る。
「他の生徒よりも魔力量も多いし、魔力操作もうまかった。それでも、リューイや昔のボクには遠く及ばないけど」
「ふむ、そんな感じか……。それとお前もそうだがリューイと比べること自体がおかしいぞ。言い方は悪くなるがあの子は私たちとは違う。それはお前も理解しているだろ?」
フレイはリューイが眠っていることを確認してリューイの話をする。オズもリューイの頭を優しくなでながら言う。
「まあね、嫌というほど理解はしているつもりだよ。何せ、ボクたちが望んでも踏み込めない領域に平然といるからね」
言っていることはきつめに聞こえるが、オズの声音は優しかった。
「あの魔術を使えばお前も限定的にだがその領域に片足を突っ込んでいる、と私は見ているがな」
フレイがにやにやと笑いながら、オズも褒める。しかしオズは眉根を寄せる。
「それはおいておいて、喫茶店でも話したと思うけど、やっぱり王女様の護衛をするんだよね?」
オズはこの話題が続くのを嫌い、話をそらした。
「あぁ。それは宮廷魔術師の特殊任務になるから給金も出るぞ」
「給金は出ればぶっちゃけどうでもいいんだけど。どうせ我らが敬愛する女王陛下の王命なんでしょ?」
言外に仕事でしょ。とオズが問いかける。その言葉にフレイが満足気に頷く。
「そうだ。女王陛下からの直々のご指名だ。それに、護衛ならお前ほど優秀な者は今の宮廷魔術師にもいないからな。私や女王陛下も安心できるだろう」
「でもさぁ、何故だか王女様たちに嫌われてるような気がするんだよね」
「誰が?」
「ボクが」
「まぁ、それでもお前なら大丈夫だろう?」
「大丈夫っちゃあ大丈夫だけど、あまり気が進まないんだよね」
「ほう、それはどうしてだ?」
フレイがオズを軽くだが威圧して聞く。
しかしフレイの軽い威圧をものともせずオズは自分の意見を述べる。
「いや、王命には従うよ。仕事だからね。でもなんかやる気が出ない」
やる気のなさそうな声でオズが言った。
「なんだ、いつもの事じゃないか。なら、問題ないな」
「いつも以上にやる気が出ない。なんでだろう、何かわかる、フレイ?」
「モチベーションの話か?なら、期限が区切られていない。ということもあるんじゃないか?」
「そうなのかなぁ?」
オズがだらけた感じになり、フレイとのやり取りが適当になってきた。
「お前のことなんだ。私にわかるはずがないだろう?」
適当になってきたオズとの会話にフレイは軽くだが呆れを滲ませていた。