第7話
「あぁー、失敗した」
「にぃ、何を失敗したの?」
「うーん、いろいろとね……」
オズがため息をつきながら頭を抱えてうずくまっていた。そのオズの頭をリューイは、よしよしと撫でていた。
クラス分け試験は、一言でいうとオズとリューイの独壇場だった。
クラス分け試験の内容は、初級魔術を的に当てるというものである。試験では、魔術の質と威力を見る。魔術の質とは魔力操作がうまいか否か。魔力操作がうまいと魔力の無駄がなくなる、なくなれば必然的に威力も高くなる。次に魔術の威力は、純粋な魔力量を見る。魔力量が多いと魔術の威力は強くなる。そして、試験にはあまり関係ないが使用魔術への理解というものもある。魔術への理解が深ければ深いほど質もよくなり威力も強くなる。そして、魔力も無駄なく流し込める。要するに魔術への理解が高ければぶっちゃけると魔力量が少なくとも高威力の魔術を放つことができる。
オズの魔術は、質、魔力量、そして魔術に対しての理解も深かい。ここまで言えばオズが落ち込んでいる理由はわかるだろう。そう落ち込むほどにやりすぎたのだった。
しかしこれにはワケがある。まず不運だったのが、オズが何故だか一番目に試験を受けたことだろう。オズは、周りの人の結果を見て魔術の威力を決めようとしていたのだが、一番目なら当然周りの人がどのような威力で魔術を放つかはわからない。わからないから手加減してやった。具体的にはエニスとじゃれあう程度の威力。
初級魔術でありながら上級魔術並みの威力を出す魔術を放ってしまった。そして、リューイもオズに負けじと高威力の初級魔術を放ってしまった。
その結果として、目立ちたくなかったオズは落ち込み、リューイが慰めるという構図ができてしまった。そして二人を多くの生徒が遠巻きに眺めひそひそと会話していた。
漏れ聞こえてくる会話は、凄いなどとオズとリューイをほめるものが多く、お近づきになりたいと会話している者もいた。そのくせ声をかけてくる者はいなかった。もはや腫れ物に触れものだとオズは感じた。最もオズ自身は、オルテシア王国の宮廷魔術師なので腫れ物扱いは慣れているのだが、嫌なものは嫌なわけでありまして……。
「リューイ、さっさとフレイのところ行って帰ろっか?」
オズが早くこの場所から離れたいのかリューイを抱きかかえながら提案した。
「にぃ、急にどうしたの?」
抱きかかえられたままの状態で、リューイが特に嫌そうにするでもなくそのままの状態で聞いてきた。
「うん?ちょっと心の安寧を…」
「にぃ、変なの」
「じゃぁ、行こうか」
オズがリューイを地面に下しながらフレイの所に行こうとした。しかし服の裾をつかまれて立ち止まる。オズは立ち止まり服をつかんだのが誰かと思い振り向いた。
「にぃ、おんぶ」
振り向いた先には、やはりというかリューイがいた。そして手を広げてねだっていた。
「はいはい。わかりました」
一瞬、面倒くさそうな顔をしたオズは諦めたようにリューイに背中を向けてしゃがむ。そしてリューイが飛びつくように背中に乗ってきた。その衝撃に苦笑いしながらオズはリューイをおんぶしながらフレイの研究室を探しに行った。
オズの背中で幸せそうにしているリューイを感じる限り、こんなところでリューイの癇癪に付き合いたくないというオズの考えが、リューイにばれることはないだろう。
リューイをおんぶしながらオズは学院の中を歩く。時折制服を着た生徒と思しき人にフレイの研究室を尋ねる。その際背中でいつの間にか寝ていたリューイを微笑ましいという様子で見ていた。
フレイの研究室の近くで入学式の会場から試験場へと誘導していた学園講師らしき女性にオズは声をかけられた。
「オズ君だったわよね?」
「えぇ、そうですが」
オズはなぜ声をかけられたのだろうと思案する。
そんなオズの考えを読み取ったのか女性が自己紹介をする。
「あぁ、私は学院の教師でアウラといいます」
「ボクは、オズといいます。背中で寝てるのは妹のリューイです。それで、何かボクに御用ですか?」
「ええ、疑問に思ったことがあったから聞きたかったの。あなたが試験で最初に使おうとしていたヴェール方式でない魔術運用方式について――」
「――それについてはお答えできかねます。それはヴェルダンディ公爵にお聞きください」
オズがアウラの話を途中で遮り答えられないと伝える。
「そうですか。残念です。ところで話は変わりますが、何か困ったことがあれば聞きますよ?先生ですから」
アウラは残念そうに言いつつ最後は元気に去っていった。
「何だったんだ?」
オズは疑問に思いつつも目的地であるフレイの研究室へと向かう。