第6話
オルテシア王立魔術学院の入学式はつつがなく進んだ。具体的に言うと自棄を起こしたエニスの襲撃が起こらない程とても平和的に終わった。
オズが少しだけ気にしていた入学生の代表挨拶をしたのは、オルテシア王国第1王女のシャロンだった。そしてシャロンの挨拶は素晴らしいものだった。
入学式が終わり、オズはリューイを連れて家に帰る準備をしていた。
「……オズ、なぜ帰る準備を始めている?」
フレイはリューイを抱っこしながらオズにそう疑問を呈した。そしてフレイがオズに話しかけ、リューイを抱っこしたことによって、周囲がざわついた。
「えっ、あのヴェルダンディ公爵様が親しげにお声をかけたわ」
「ヴェルダンディ公爵様のお弟子さんが入学したって本当だったんだ」
「お弟子さんなの? 私はヴェルダンディ公爵様の御子息様とご令嬢様とお聞きしました」
等々、様々な声が聞こえてきた。
オズはフレイがとても有名なのは知っていた。しかし、自分たちまで注目されているとは、考えていなかった。オズもリューイも周りが騒めいていることに驚いていた。
「オズ、リューイもキョロキョロするな。堂々としていればいい。何せ私の弟子で子どもなんだから。それと勝手に帰ろうとするな」
フレイのこの発言でさらに周りは騒めき、沸き立った。
「この後何かあるの?」
オズは極力周りの反応を意識しないように、普段通りに言った。
「この後はクラス分け試験があると説明しただろう」
フレイが呆れつつそう口にした。
「いや、説明されてないし」
「リューイも聞いてない」
オズとリューイが二人して聞いていないと反論した。これにはフレイは少し焦ったような顔をした。しかしそれはほんの一瞬だけだったためかオズ以外には気づかれなかった。
「フ~レ~イ~」
オズがジト目でフレイを睨んだ。
「まぁ、そんなこともあるさ。それよりもオズ、クラス分け試験は考えてやれよ?」
「うん? わかった」
フレイが誤魔化し、終盤はオズにだけ聞こえるように言った。そしてオズも了解した。
「リューイ。オズの言うことをしっかりと聞くんだぞ。それと困ったことがあったらすぐ、私に言うんだぞ?」
「わかった。にぃの言うことを聞いて、フレイに相談すればいいんだね」
「そうだ。リューイはいい子だな」
フレイはリューイの頭を優しく撫でながら、言い聞かせるように言った。リューイはフレイに撫でてもらって気持ち良いのか目を細めていた。
「オズ、リューイ。試験が終わったら、私の研究室に来てくれ。場所は職員に聞けばわかる。ちゃんと来るんだぞ?」
フレイが真面目に話していたのだが、オズが欠伸をしていたためオズの頭に向かって初級の狙撃魔法を撃ち続けながら話した。初級の狙撃魔法でも至近距離から撃たれれば、気絶してもおかしくはない。しかしオズは痛がっているだけだった。
「ん、わかった。リューイ、試験が終わったら、フレイ探しに行く」
「わかった。わかったから魔法を止めて」
「わかったならよろしい。では、また後で」
そう言いながらフレイは、オズに魔法を撃つことをやめて、オズとリューイから離れていった。
フレイから離れたオズとリューイの周りには、多くの人が二人の様子を伺っていた。
そんな中、魔術学院の講師と思われる眼鏡をかけた女性が入学生たちに声をかける。
「みなさん訓練場に移動して下さい。場所がわからない人はついてきて下さい」
その言葉によって多くの入学生たちが移動し始めた。オズとリューイは、場所がわからなかったのか移動している人たちの後をおしゃべりしながらついていった。
そんな二人を遠くから眺めていた二人の少女がいた。
「アンリ。護衛が必要ないということをクラス分け試験で見せましょう」
「はい。シャロン姉さま。頑張りましょう」
これから、クラス分け試験なので二人の少女は気合を入れていた。
移動をはじめる多くの生徒を学園教師たちが見ていた。
「今年は楽しみですね」
一人の教師が言った。
「そうですね。王族が二人、そして、ヴェルダンディ先生のお子さんというかお弟子さんもいますからね」
等々、学園教師陣は好き勝手話していた。