第46話
オズとリューイが普段なら学院に通っている時間なのだが二人の姿は、王宮にあった。
事の起こりは、先の戦争の報告の為に王都に戻り、自宅でゆっくりとしていたかったオズが、文字通り自宅でゆっくりとしていた日だった。戦争での療養という名目の名に。
オズが療養していた期間には戦勝パーティーなどがあった。しかしオズは、頑なに療養という言葉を使い一切パーティーなどには参加しなかった。実際には参加しなくてはいけなかったのだが、療養という言葉をごり押しして戦勝パーティーなどの行事の欠席を勝ち取った。
しかし、見た目、大した怪我をしていないことがまずかった。女王が心配をしたことが発端になり、見た目無事に見える状態なのが何故か貴族にばれたのだった。
そのため、嫌味を言ってくる貴族連中が多くなり、ついにはそうした貴族たちの不満を抑えきれなくなり、女王は仕方なく登城命令を出したのであった。
だが、オズは見た目大きな怪我をしてはいなかったが、身体の内面の状態は非常にまずい状態だった。
強制的に魔力を圧縮、循環させたために体内にある魔力をためる袋や通り道がボロボロになっていたのだった。その副作用で身体が熱を持ち重篤な風邪のような状態が続き、身体の内部では、魔力が抜け魔力をためる袋に魔力をためられない状態が続いていた。
そのため、魔術の行使に普段以上の時間がかかり、その癖普段以下の威力しか出せなかった。この状態で外に出るのは危険だと判断したオズは文字通り引きこもり、療養していた。
しかし無理をすれば普段のように魔術を使えないこともないのだが、そんなことをすれば後々魔力を体内に貯められないという後遺症が出る恐れもあるためオズは、療養していた。
戦勝パーティー以前からオズが療養に入ったために、戦争の報告ができる人物はフレイしかいなかった。そのフレイは多忙を極めていた。そのため、戦勝パーティーを欠席した見た目大した怪我をしていないオズに、すぐさま報告のため登城しろと遠回しに女王に上奏する貴族もいた。
事情を知っている女王リュディアやフレイが何とか抑えようとしていたが、ついには抑えきれなくなり報告の為に登城命令が出た。
そのため、オズは王宮に仕方なく登城したのだった。
王宮の一室でオズはいつもの黒いロングコートを羽織り行儀悪くソファーで横になっていた。そのオズの近くには孵化装置が鎮座しており、部屋の中央には何故かついてきたリューイが部屋にあるお菓子を貪っていた。
「リューイ。そんなにお菓子を食べるなー」
オズのどこか覇気のない言葉にリューイは反応したが、無視することに決めたらしくお菓子を口に運ぶのをやめなかった。余談だがお菓子を食べているリューイは、部屋付きのメイドさんたちに好評だったらしく、お菓子が無くなるとすぐさま追加を持ってくる状態が続いていた。
しかし、メイドさんたちに甲斐甲斐しくお世話されているリューイはこの後に悲劇が待ち受けることをまだ知らなかった。
オズはソファーでだらりと横になっていたが、ふと急に身体を強張らせた。無論メイドさんたちに甲斐甲斐しくお世話されているリューイはその気配に気づかなかった。
ドアがノックされてフレイがドアを開けて室内に入ってきたからであった。
まずフレイが目にしたのは身体を強張らせ、ソファーで横になっているオズ。オズは、体調が悪いこともあって指導は入れないことにした。
しかし、リューイの姿を見るとフレイは怒鳴りたくなったが、グッと堪え事情を聞こうとした。猫なで声で。
「なぁ、リューイ―――」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
フレイの猫撫で声にリューイ自身もまずいと思ったのか、顔を蒼白にして食べていたお菓子をお皿に上に戻しながら、ひたすら謝っていた。
「はぁ、リューイ。なんで謝っているんだ?」
ことさら優しい声を使いながらフレイがリューイに質問した。
「おかし、たくさん、たべてたから」
消え入りそうな声でリューイが答えた。部屋付きのメイドさんたちもリューイを助けようとしているが、フレイは家庭の問題ですとでもいうような態度で無視していた。
「何度も言っているだろう? お行儀よくしろと? お菓子をたくさん食べるのは、まぁ、許すが、がっついて食べないの? それから―――」
フレイの教育的指導が入りリューイは泣きが入っていた。その間部屋付きのメイドさんたちも背筋をピンッと伸ばしてフレイのありがたいお話を聞いていたのだった。
フレイの教育的指導が終わり、リューイや部屋付きのメイドさんたちが落ち着いた頃、思い出したかのようにソファーで横になっているオズに話しかけた。
「そういえばオズ、どんな感じだ?」
「うーん。まだまだ」
横になったままフレイの問いかけに答えた。答えたがオズの声に元気はなかった。
「報告の席には出れそうか?」
フレイは苦笑をこらえながらオズに慈しみの視線を向ける。
しかしそんなオズの顔色は悪かった。フレイに叱られてからソファーで横になっているオズの胸元に抱き着いて甘えていたからだった。
フレイの質問にオズは胸元で甘えてくるリューイをあやしながら告げた。
「むり」
オズの返答にフレイは困ったような表情を浮かべていた。
「回復薬とかは使えないか?」
「上級以上じゃないと多分意味がないと思う。というか、中級までの回復薬はフレイが調合してくれたじゃん」
「うーん。厳しいか」
「それに自然回復のほうが魔力回路も強くなるし」
「それもそうか」
喋るのも億劫そうに言うオズにフレイは納得し、これからの用事を頭の中で組み立てる。
その間、リューイはオズの胸元で眠ってしまっていた。そんなリューイを呆れ交じりにフレイは見ていたが、やがて諦めたようにオズに視線を移した。
「仕方がない。お前のその格好が気になら無さそうな者を呼んでそれで報告とするか」
フレイが苦虫を噛み潰したような顔をして、部屋から出ていこうとした。その際メイドさんたちに一声労いの音場を掛けていくのを忘れてはいなかった。




