第45話
パロット帝国とオルテシア王国の戦争は、両国と隣接するカトレア皇国が主だって停戦を進めた。
オルテシア王国としては、パロット帝国には何度も苦渋をなめさせられているので今回の停戦の条件にパロット帝国からの謝罪と賠償を求めることにした。
オルテシア王国としては謝罪と巨額の賠償を得られれば良いと考えていたが、それだけだと舐められる可能性があった。そのため帝国の栄えている交易都市の割譲を求めることにしたようだった。
それに対し帝国は猛烈に王国の主張に反発した。反発したのだが、オルテシア王国側が事前にパロット帝国が今回行った【マガツカミ】と思しきモノを召喚したことなどを今回の停戦を進めていく各国に説明していた。
そのためか、すんなりとオルテシア王国の主張の大多数は認められたのだが、勝ちすぎることを嫌ったのか、一部の主張を取り下げることにした。
やはりオルテシア王国としては、長年の仇敵であり王国側から見た無駄な誇りを無駄に肥大したパロット帝国に頭を下げさせた事が一番大きかった。
プライドばかり高いパロット帝国が謝罪し、賠償金を払ったことで、オルテシア王国民は戦勝ムードに湧いていた。
オルテシア王国に住む者の長年の仇敵に勝ち、事あるごとにしてこなかった謝罪をしたという事実は、パロット帝国の周辺国に対しても大きなインパクトを起こしていた。
そんな中戦勝ムードは、戦時中は休校になっていたオルテシア王立魔術学院でも起こっていた。しかしその盛り上がりは、オルテシア王国民が多い一般クラスで盛り上がっていた。
特待生クラスに所属している者たちは、そんな暇があれば自身のスキルアップや研究に費やしていたからだった。
そしてそれは今年入学してきた特待生クラスのメンバーでさえ同じだった。
しかし、講義間の休憩時間に仲良くなった者たちで雑談する程度には関心があった。
「それにしても、今回の戦争で大きな被害が出なくて良かったわよね」
戦勝ムードに浮かれたのかシャロンがぽつりとそうこぼし、その言葉を耳聡く拾ったのがイルミアだった。
イルミアは持ち前の明るさと礼儀正しさで、特待生クラスの生徒たちや二人の王女と仲良くなっていた。
「王太子殿下が軍を率いておられたのですよね?」
「そうよ、イルミア。貴女、出征の式典を見なかったのですか?」
シャロンが訝し気にイルミアに聞く。
「はい、ちょうど里に用事がありまして……」
イルミアは申し訳なさそうにしていた。
「そうよね、戦争がはじまるかもって時だものね」
「えぇ、そうなんですよ」
シャロンとイルミアが話していたところに一人の少女が話しかけたそうにウズウズとしていた。
「何人もの宮廷魔術師様たちも参戦したとか?」
イルミアがそう聞いたところその少女がまざってきた。
「リコルが聞いたところ【赤熱の魔女】エニス様や【守護者】のリース様とリオン様がご出陣なされたと聞いているです。あぁ~、御三方にぜひ会ってみたいです」
エニスやリース、リオンの三人は若い世代では注目の的になっている。エニスの炎を使った破壊力満点な魔術やリース、リオンの地味に見えるが堅実な結界に憧れる子供たちはとても多かった。
その三人の活躍を思い浮かべて夢見心地になりながらリコルが会話にまざった。それに乗っかるようにイルミアが二人の王女に質問をした。
「そういえばシャロン様とアンリ様は、エニス様やリース様リオン様にお会いしたことは御座いますか?」
「えぇ、あるわ」
シャロンがそう答えた。
「エニス様は豪快な方でしたね」
苦笑交じりにアンリがそう言った。
「いいなぁ。いいなぁ。リコルもぜひともお会いしたいです」
リコルはやはり興奮していた。
その後も女生徒同士でお話していたが講義がはじまる鐘が鳴るまで続いていた。
午前中の講義が終わり、お昼休みに入る時間に特待生クラスの副担任を務めているアウラとフレイが教室に入ってきた。
「とりあえず全員いるな?」
フレイが教室を見渡しもしないで疲れたように言ったが、すぐさまイルミアが答えた。
「オズさんとリューイちゃんがいません」
「あぁ~。あいつらは、まぁ、後で私から伝えとくから今はいいとして他はいるな?」
二人の特別扱いに教室内は一瞬不満に包まれたが、いつものことだと思いなおし不満を押し込める者もいた。
「じゃあ、アウラ。後はよろしく」
そう言ってフレイは教卓に根を張るように座った。普段のフレイらしくなかったが、疲れているのだろうと勝手に生徒たちは思いそっとしておくことに決めた。
そして、アウラは困ったように喋りはじめる。
「えーっと。戦争のせいでしばらく学院が休校扱いになっていたので、カリキュラムの変更がありました。本来なら来年以降に選択制のカリキュラムを組む予定だった対人戦が解禁され、必修科目となりました」
アウラがその他にも細々とした情報を伝え、アウラとフレイは教室を出ていった。
対人戦の講義が解禁されるというのは生徒たちに大きな衝撃をもたらし、男子や一部の血気に逸った女子たちはやる気に満ちていた。
そんな中でイルミアは対人戦の解禁について考えていた。
―――やはり、オルテシア王国の宮廷魔術師様方が出征したという噂は、本当のようですね。それと、先の戦争で魔術の有用性がさらに高まったという事でしょうか。
イルミアが頭の片隅でそんなことを考えながら、クラスの友人たちと雑談を続けるのであった。




