第41話
「う、うーん。うん?」
フレイの腕の中にいたリューイがついに起きたらしい。
「リューイ。起きたか?」
リューイの顔を覗き込みながらオズが聞く。
「っえ、え。お兄ちゃん?」
「あ、ああ」
オズに顔を覗き込まれたリューイが恥ずかしそうに顔をうずめていた。
「おい、リューイにオズ。一体どうしたんだ? 訳が分からないのだが」
フレイが不思議そうな顔をしてリューイの変化について聞いてきた。そのリューイは恥ずかしそうにしつつ、フレイの腕の中から脱出しようともがいていた。だが、フレイはリューイ離すまいと抱いていた。
そんな二人の様子を見ながらオズは口を開く。
「ボクも実は良く分かってないんだ。多分だけどあそこに、【門】を開いてその先に行ったせいだとボクは睨んでいる」
「私も【門】なら開いたことはあるが中には何もなかったぞ?」
フレイの腕の中から脱出しようとしているリューイを逃がすまいとしながらオズの説明に疑問を投げかける。
「まぁ、詳しくは後で話すから。それよりも今は、アレを消さなくちゃ」
「そうだな、そうしよう」
オズは【結界】内で暴れている【マガツカミ】に視線を移しながらフレイに言った。
フレイもまだ、【マガツカミ】がいることに気が付いたようで顔を引き締めていた。尚、その間もリューイはフレイの腕の中から脱出しようともがいていたが……。
「リューイ。アレの対処をお願いしたい」
「うん? あぁ、アレね。お兄ちゃんでも無理だったの?」
フレイの腕の中で必死にもがいていたリューイはオズの問いかけに質問で返した。
「言い訳になるが、準備が足りなかった」
「へぇ、珍しいこともあるもんだ」
リューイはそんなオズの様子をニヤニヤとしながら見ていた。
「まぁ。そんなわけで今できることを精一杯やったから、身体がだるいんだ」
オズはそっぽを向きながら呟いた。
「わかった。さっさと終わらせるよ。いつまで、この状態でいられるか分からないし」
そう言ってリューイは、フレイの腕の中から出ることを諦め、魔力を練り始めた。
「……オズ」
「あぁ、多分だけどリューイには複数の人格があるとボクは考えている。そして今、表層に出ているのはリューイの別人格だと思う」
「別人格?」
オズの説明にフレイが怪訝そうな表情を浮かべた。
「詳しくは分からないから推測だけど……。まぁ、後でリューイ本人に聞いてみればいいよ」
そう言ってオズは説明を投げ出し、リューイの様子を見る。リューイはちょうど魔術の発動の準備を終えたらしく、オズに確認の視線を向けていた。
オズが頷くとリューイは魔術を発動させた。
「【浄火】」
そう一言リューイが呟いた。
すると今までオズが張った結界内で暴れていた【マガツカミ】が、急に自身の無数に生えている腕や手をむしり取り、それらから離れるような仕草をしていた。
しかしオズの張った結界はそこまで広くはなかった。そのため自身が切り離した手や腕から大して離れられなかった。やがて【マガツカミ】は苦しむような悲鳴を上げ始めた。
急におかしな行動を取った【マガツカミ】の様子を驚愕の表情で見ていたフレイは、説明を求めようとリューイに視線を向ける。
フレイから視線を向けられたリューイは、それに気づかずただ悲しげに【マガツカミ】を見ていた。その様子から今は話を聞けないと思ったフレイは、視線を【マガツカミ】に戻し、さらに驚愕した。
【マガツカミ】は白く神々しいような炎に包まれていた。
リューイが魔術を発動したときに切り離していた腕や手は、姿かたちをまったくもって残していなかった。
やがて【マガツカミ】は、悲鳴を上げられなくなったのか辺りは静かになり、激しく動いていた無数の腕や手が力なくぶら下がっていた。




