第40話
「……大丈夫。そろそろ……」
オズはそう言ってふらつきながらも立ち上がり、リューイをフレイに預ける。
「本当に大丈夫なのか?」
リューイを受け取りながらこの様子を見たフレイはオズに心配の視線を向ける。
「ようやくたまった」
オズは自身が今唯一使える【マガツカミ】への対抗できる魔術を使用する。
「フレイ、散らさなくていいよ……。【浄化】」
オズはフレイに指示を出した。フレイが散らしていたモノは、まるでオズに対抗するように急速に魔術陣の中心に集まっていった。
そこにすかさずオズが【浄化】の魔法を使った。
「GYAAAAAAAAAAA」
耳をつんざくような何かの悲鳴のようなものが聞こえ始めた。
遠くで耳を澄ませてそれを聞いた者は耳から血を流し一瞬のうちに絶命した。
「やっぱり準備が足りてなかったか」
息を整えながらオズは悔しそうにそう呟いた。
「!!? しかし、ただの人間同士の戦争にあの武器は持ち出すのは契約違反にあたらないか?」
「あの武器ねぇ。確かに言われてみるとそうなんだよね……。それも含めて一度お伺いしなくちゃいけないかな?」
「!!? あそこに自由に行けるのか!!」
「リューイがいればたいていの場合は行けると思うけど、どうなんだろう?」
「そうか…。ではついて行ってもいいかな?」
「まぁ。その辺の判断を下すのはボクじゃないし。でも黙っててね」
オズは語尾に特に力を入れてフレイに言う。
「わかっている」
フレイはオズに釘を刺されたがどことなく、嬉しそうだった。
二人がそんな会話をしているうちに、魔術陣の中心部分から人の手や腕らしきものが無数に出てきた。しかしあくまでそれは人の手や腕らしきものだった。
「……今ので、出てきちゃったか」
オズは表面上厳しい表情をしていたが、内心ではこれだけで済んで良かったとも思っていた。前回出てきた【マガツカミ】はもっと巨大で遥かに禍々しかったからだった。
その人の腕と手らしきものの集合体は、周囲の禍々しい魔力や負の感情を呼び起こすナニかをすべて吸収しているかのように動きを止めていた。
そして動き始める。
「仕方ない【結界】を張るか」
オズはそう呟いて、自身の貯めていた限界に近い魔力のほとんどを使って人の腕と手が無数に生えた【マガツカミ】の周囲に結界を張り、座り込んでしまった。
「お、おい、オズ?」
リューイを抱きながら心配そうにオズに声を掛けるフレイ。
「大丈夫。【マガツカミ】の周囲に特別な結界を張ったからしばらくは平気だと思う。その間にさっきよりもしっかりと魔力を圧縮しますか」
息も絶え絶えにオズは言う。
実際、【マガツカミ】は周囲の結界に阻まれて行動できないでいた。そして、動けないでいることにイラついてきたのか手や腕を使って、【結界】を攻撃し始めた。
しかし、今張ったオズの【結界】はそれこそ、前回の現れた【マガツカミ】の攻撃にも長時間耐えられるほどの圧縮魔力を使っている。それよりも劣ると思われる今回の【マガツカミ】に破壊できる代物ではなかった。
「う、うーん。うん?」
そして、フレイの腕の中でリューイが動いた。




