第39話
「今すぐここから離れろ!!!」
突然脳内に聞こえた端的な怒声に王国軍の兵士たちは帝国軍の本陣方面から溢れてくる禍々しい魔力と同じく驚いた。また、一体何が起きているのか分からないという恐怖も出ていた。
そのおかげか、王国軍の兵士たちの撤退は順調に進み、王国軍の兵士で禍々しい魔力に飲み込まれる者はいなかった。
オズは、意識を失っている帝国軍の兵士が禍々しい魔力のエサになるのを防ぐために、掛けていた術を切り意識を取り戻させた。
「武器を捨てて今すぐここから離れろ!!!」
オズは帝国軍の兵士たちに降伏勧告と撤退を進める怒声を響かせた。
はじめ、帝国軍の兵士たちは戸惑っていたが、すぐ異変に気付き速やかに武器を捨てて逃げ始めた。
それでも撤退をせずに禍々しい魔力飲み込まれ、発狂している指揮官と思える人物もいたが……。
「オズ!! 状況は?」
切羽詰まった声で急に現れたフレイが、オズに現在の状況説明を求めた。
「王国軍と帝国軍、両軍の撤退を進めさせた。多分だけどアレが現れてる」
「まさか、アレが現れたか……。そうなると両軍に撤退を進めたのは正解か……」
まさに驚愕とでもいうようにフレイは目を見開いていた。
「<10年戦争>のときほど強力ではなさそうなのが、救いかな」
「お前がそう言うという事は、何とかなりそうか?」
「まぁ、何とかできなくても、しなくちゃね」
オズはフレイにこれまでの状況と自身が感じたことを説明していた。それを聞いたフレイは、何かを考えている様子だった。
「……リューイはどうした?」
オズは先程からチラチラとフレイの腕の中で気を失っているリューイを見て、一体何が起きたのか聞いた。
フレイは、オズと離れた後のことやこれまで起こったことを簡単に説明した。
「そうか。ただの気絶ならいいけど」
オズは、とりあえず自身を落ち着かせるために大きく息を吐いた。
「それでどうする?」
フレイが不安そうにオズに聞く。
「リューイの能力が使えない状況でアレを相手にはしたくないけど、そうも言ってられないよね?」
「…私がやろう」
「いや、フレイだと多分相性が悪い」
フレイが覚悟を決めてオズに告げるとオズは、フレイでは倒せないと言った。
「そうだとするとオズも相性が悪いだろう?」
フレイはムッとした顔を取り繕おうともせずにオズに言う。
「それじゃあ、リューイが起きるまでサポートをよろしく」
オズにそう言われ、フレイは素直に頷いていた。
「じゃあ、できる事だけをやりましょう」
オズはそう言うと自身の魔力を急速に圧縮し始め、自身の魔力容量に空きを強制的につくった。そして容量が空いた分以上に周囲の魔力を回収し、自身の魔力と混ぜながら圧縮させた。
禍々しい魔力や負の感情を呼び起こすナニかはオズやリューイに向けても伸びていった。いったが何かに弾かれるようにしてやがて消滅していった。
その間フレイは、リューイをオズに任せて帝国軍の本陣後方から溢れ流れてくる禍々しい魔力や負の感情を呼び起こすナニかを薄めて広範囲に散らしていた。
禍々しい魔力や負の感情を呼び起こすナニかを一か所に集めると良くないことが起こりそうだという勘をフレイは信じて精いっぱい薄めて散らしていた。
実際フレイの勘は当たっていた。禍々しい魔力や負の感情を呼び起こすナニかは、魔術陣の中心に吸い寄せられるように蠢いていた。それらもフレイは勘に従って、散らそうとしていたが、長期間こびりついた汚れのようにしつこくへばりついていた。
「オズ! まだ時間はかかりそうか?」
フレイがオズに視線を向けるとオズは、座っているのにもかかわらず額に大量の汗を浮かべ、息を荒くしている姿があった。
「……大丈夫。そろそろ……」
そう言ってオズは立ち上がった。




