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第36話

 王国軍と帝国軍、両軍入り乱れ周辺に怒号が響き、血のにおいと土のにおいが立ち込めている。


 その戦場の中、王国軍の後方の陣地に3人の女性がいた。


 一人は身軽な軽装をしており、残りの二人は同じ黒色のローブを着ていた。


 軽装の女性はイライラしているのか、足を小刻みに揺すったりして、落ち着きがなかった。


 対照的にローブ姿の二人は用意された椅子にジッと座っていたが、それが逆に緊張の表れに見えた。


「ジッとしてくだされないかしら」


 黒いローブを着たリースが余りにも落ち着きがない軽装の女性に文句を言う。


「あ゛ぁ? なんか問題でもあんのか?」


 文句を言われたエニスは、リースの発言にすぐさま反応し、殺気を混ぜながら威圧する。


「リース。今ここで内輪もめは良くないと思うの。それにエニスさんも威圧しないでください。周りの兵士たちが気にしていますわよ」


 リオンがリースとエニスをなだめ始めていたが、なにやら陣地の外が騒がしくなってきた。


 エニスは帝国軍がいつでも来てもいいように攻勢魔術を放てられるように魔力を練り始める。


 リースとリオンは帝国軍がもうすぐそこまで来たのかと思い、慌てて自分たちが得意とする特異な魔術【イージス】を起動し始める。


 この【イージス】がなぜ特異と言われるかというと、偏に机上の空論とまで呼ばれた【連結魔術】という技術からできたことからだった。


【連結魔術】とは二人以上で一つの魔術を行使するという一見簡単そうに見える魔術運用方式を使う。しかし実際は、今まで誰一人として、できる者がいなかった。そのため【連結魔術】を使う魔術は机上の空論とまで言われるようになってしまったのだ。


【連結魔術】が机上の空論とまで言われたのは、魔力も指紋のように個人個人で差があり、まったく同質の魔力など存在しないと実証されたからだった。


 しかし、リースとリオンの双子は、双子だからこそなのか、ほぼ同質の魔力を有していた。このことから数少ない文献から【連結魔術】を研究し始めた。そして、成果として、【イージス】を過不足なく使えるようになり、そのことで晴れてオルテシア王国の宮廷魔術師に任じられた。



 閑話休題



 リースとリオンの双子が起動しようとした魔術は結局のところ、起動させなかった。そしてエニスもすぐに練っていた魔力を霧散させた。


 陣地の外から兵士を引き連れてきたのが、フレイと彼女に手を引っ張られるように連れられているリューイだった。


 エニスとリース、リオンはいやいやと首を振り駄々をこねているようなリューイを見て唖然としていた。


 そんな風にリューイが駄々をこねるのを滅多にというよりも初めて見たからだった。リューイ自身は意外とオズには駄々をこねたりしていたが、こうした人前やオズがいない場面では、猫を被るせいか自分を出すという事は滅多にしていなかった。


「フーレーイー。ここはイヤ」


 半分泣きが入っていそうな声にフレイが困ったように手をつないでいない方の手で頬を掻いていた。そして暴れだしそうなリューイを抱き上げて、あやしはじめた。


「えーっと、フレイ様一体どうしたんですか?」


「ん? リオンか。どうしたかと言われれば、リューイが突然駄々をこねはじめたというのが正しいかな?」


 リオンの問いにフレイは困ったように、そして未だグズッているリューイをあやしていた。







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