第35話
例外はあるが、この世界での戦争の勝敗を左右する損耗率は大体3割だと言われている。
つまり、戦争で勝利するには3割以上減らすことが重要になってくる。
戦争の始まりは、双方が降伏勧告の使者を立て、使者が陣に戻ることから始まる。
今回の戦争でもこれまでの慣例通り進み、そして戦争が始まった。
☆★☆
「えーっと。ここまでは、予定通り?」
「そうだな。ここまでは大体予定通りだ」
オルテシア王国側の陣地とパロット帝国側の陣地、両方の陣地が見渡せる場所で、黒いブカブカのロングコートを着た人物と、戦場では場違いな、それこそ貴族のパーティーにでもすぐに行けそうなドレスを着た綺麗な女性が話していた。
ふいにドレスを着た綺麗な女性が、黒いブカブカのロングコートを着た人物の不自然なほど盛り上がった背中部分に、慈しみを込めた表情を向ける。
「リューイもそこなら大丈夫だからな?」
「フーレーイー。くるしー」
不自然なほど盛り上がったロングコートの背中部分から出てきたリューイが、フレイに文句を言う。
フレイは、文句を言うリューイをあやしながら説得をしていた。
しかしフレイのリューイへの説得は難航していた。
「リューイは、フレイと行くの」
リューイのウルウルの上目遣いでの懇願に最終的にはフレイが折れた。
「オズはそれでいいのか?」
「……うーん。うん。それでいいよ」
オズも少し考えた後にリューイがフレイに付いて行くことを了承した。
「じゃあ、ボクはもう行くね」
そう言って、オズはその場所から霞のように姿を消した。
「さて、リューイ。私たちも行くよ」
「……うん」
リューイは、オズが姿を消した場所をじっと見つめながら、フレイに生返事を返した。
そんなリューイを抱き上げながら、フレイはゆっくりと歩き始める。
「……オズと一緒にいたかったか?」
腕の中でじっとしているリューイにフレイがそう聞く。
「……うん。でも、にぃは、こういう場所にリューイがいると悲しそうな顔をするから……」
「そうだな。オズは確かにそういうところがあるなぁ。それに、私だって、できればリューイをこういう場所に連れてきたくはないんだよ?」
抱えているリューイと顔を合わせながらフレイはそう言った。
「リューイがわがまま言って、ここまでつれ来てもらったから、おわるまでフレイといる」
涙をこらえる様にリューイはフレイにしがみつきながら言い切った。
そんなリューイをあやしながらフレイは、歩み続ける。
「うーん。そんなこと気にしなくてもいいんだぞ? もっと私たちに甘えていいんだぞ?」
「……そうなの?」
「そうだぞ」
フレイに慰められているリューイは、少し恥ずかしそうにフレイの肩口に顔をうずめた。
そんな風に甘えるリューイを抱きしめながら、フレイは自らの持ち場にゆっくりと遠回りしながら、向かっていった。




