第28話
砦内の会議室を静寂が包んでいた。ポリポリとお茶菓子をつまむ音など誰にも聞こえはしないのだ。
「それにしても、貴方がここにいるとはねぇ」
フレイがシュライブを一瞬見やり懐かしそうに呟いた。呟きは聞こえなくとも、様子を窺っていた双子は、不思議そうな表情をする。しかし、双子は声を掛ける勇気を持てなく事態が動くことを祈っていた。
「では、一応こちらも自己紹介をするか?」
フレイが出されたお茶を飲みながらシュライブに聞く。当然この問いかけは何となく居心地が悪そうな双子のためだったりする。いまだにエニスは、お茶菓子をリューイと争うように食べているため無視をする。
シュライブは顎髭を撫でながら少し考えこんでいた。考えていた間、双子にばれないように双子の様子をうかがっており、そこでフレイの意図を察した。
「……お願いします」
「では、誰からやる?」
フレイはニヤニヤしながら双子を見やり、そのせいで視線が双子に集まる。双子は顔を恥ずかしそうに赤く染め、立ち上がった。
「リース・ヴェルナです」
「リオン・ヴェルナです」
双子は余程、恥ずかしかったのかそれだけ言うとすまし顔で座ってしまった。尚、双子の耳は真っ赤だった。その様子を見ていたフレイは、ネズミをいたぶるようなネコのような表情を一瞬つくったのをオズは見ていた。
「お前たち、何を恥ずかしがっているんだ? 若いんだから、20歳らしく当たって砕けろ」
フレイがニヤニヤしながら言う。フレイの暴言? に双子は羞恥か怒りかわからないが顔を真っ赤に染めた。貴族としての教育を受けている双子に声を荒げる真似などできるはずもない。自身の年齢をばらされた羞恥と怒りをどうすればよいのかも分らず、ただただ隠れるように小さくなるだけだった。
その様子に満足したのかフレイはとても艶々したとても良い笑顔をしていた。
いつも双子にからかわれたり皮肉られたりするエニスは、いまだにお茶菓子に夢中になっており、双子が恥ずかしがっている様子に気が付いていない。
エニスとお茶菓子を競い合うように食べていたリューイは、一人で椅子に座っていたのだが、いつの間にかオズの膝の上に移動して、オズに寄りかかるように寝ていた。そのオズも当然とでもいうように優しく頭を撫でていた。
フレイのおかげか室内は何とも言えない雰囲気になった。その雰囲気の中オズは何かを考え、エニスのほうをちらっと見た。
「えーっと。ボクはオズと言います。寝ているのは妹のリューイです。そこの腹ペコはエニスです」
オズもフレイに負けずに空気を何とも言えないモノにする。
フレイが連れてきた人物たちが、名前を名乗ったので必然的に一人の幼く見える兵士に視線が向く。向くといっても向いたのは、事態を面白がり、空気を壊していくフレイとオズ。そして八つ当たりするかのような険しい視線を向けている双子。真面目、実直という言葉が似合いそうなシュライブだけだったが……。エニスはお腹がいっぱいになったのか机に突っ伏しており、時たまいびきのような音が聞こえるので寝ているのだろう。本能に従う、野生という言葉が似合いそうであった。
幼く見える兵士は、室内にいる人物たちに見られ涙目になっていた。そしてシュライブに助けを乞うような視線を向ける。オズとフレイはその様子を見て、雨に濡れて震えている子犬を幻視した。
幼く見える兵士がシュライブに、助けてという声がまるで聞こえてくるようだった。
「あぁ、俺の娘のメリルだ」
シュライブが頭を掻きながらメリルの名前を呼ぶ。呼ばれたメリルは、恥ずかしそうにしていた。
シュライブの娘という言葉にオズとフレイが驚いたような表情をした。
「オズって言ったか。お前のその表情を見るとやはり俺のことを知っているな? ヴェルダンディが言うわけがない。なのになんで知っている?」
シュライブが若干険しい眼をしてオズを睨む。いつの間にか起きていた、エニスはやるのかと嬉しそうにファイティングポーズをとっていた。
「調べればわかることですよ。という言い訳は通じないようですね」
オズは何処か困ったような表情をしてフレイを見る。そしてフレイは頷く。
「メリルだったな。双子とバカを寝る場所に連れて行ってくれ」
「メリル、頼む」
フレイの様子にシュライブはただ事ではないと感じメリルに命じる。メリルはシュライブの真剣な様子を見て、頷き案内しますといい席を立つ。双子とバカと呼ばれたエニスは、不機嫌そうにしていたがフレイの逆鱗には触れたくなかったのか、言われた通りメリルの後についていく。
4人が出ていったのを確認し、フレイが結界を張った。
「そこまでやることか……。お嬢さんはいいのか?」
シュライブは両手で顔を覆いながらリューイがいてもいいのか聞き、フレイは頷きながら言う。
「お前だから言えるんだぞ? まぁ、知っているのは私とごく一部の王族だけだがな」
フレイは笑っていた。その様子にもう引き返せないかとでもいうように諦めを滲ませたシュライブは、しっかり聞くという態度を取るのであった。




