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第26話

「荷物も持ってきたし、エニス、リース、リオンが来るまで待っていましょうか」


 王城内の応接室で寛ぎながら、フレイがオズ、リューイの二人に言う。


「3人が来るまではゆっくりと寛いでいますか」


 オズの膝の上でうつらうつらとしているリューイの頭を撫でながら、オズがフレイにそう答えた。そしてオズたちは応接室の中で自由に過ごしていた。


 しばらくして、部屋の外で慌ただしい動きがあり一応オズとフレイが気配を探る。そうして問題がないと判断し、オズは持ってきていた孵化装置の中にある魔石に魔力を補充したり、卵に直接魔力を与えてみたりしていた。その様子をフレイが初めて見たらしく頬を引きつらせた挙句、諦観がにじんだ表情を浮かべていたりしていた。


 オズはフレイの表情に気づいてはいたものの何も言われなかったのを良いことにその作業を続けていた。リューイはその間オズの膝を枕にしていた。


 オズが孵化装置の調整を終え、リューイを起こさない程度に身体を伸ばしていた時に部屋がノックされた。


 そして部屋のドアが開かれ、二人の人物と御付きの人が入ってきた。


「「こんにちわ。ヴェルダンディ公爵様」」


「リースとリオンか。もうそんな時間になるのか?」


「えぇ、もうすぐ12時なるところです」


 フレイの疑問にリースが何もないところ(マジックスペースと呼ばれるアイテムを出し入れできる空間)から見事な銀細工の懐中時計を出し、確認をした時刻を答えた。


 ちなみにだがマジックスペースと呼ばれる魔術で魔術師の魔力量と術の精度により許容量や時間の動きが代わる。今回の戦争では、オズとフレイはマジックスペースに入る荷物だけ相当数入れており、ほぼ手ぶらでこの場にいる。なお魔力量、術の精度が高くても生き物は入らない。


閑話休題


「もう、そんな時間になるのか」


 フレイが部屋付きの侍従に軽食を頼みながら呟いた。軽食が来るまでの間、入れなおした紅茶を楽しんでいた。


「そういえば、エニスはまだ来ないの?」


 軽食をつまみながらオズがエニスの話題を持ち出した。オズの膝を枕に寝ていたリューイはオズに起こされて、軽食をモグモグとつまんでいた。


「あー、エニスはまだ寝てるんじゃないか?」


 フレイが投げやりに言う。さすがにこの言葉には、リースとリオンの双子がとても驚いたような表情を浮かべていた。


「冒険者の方はお寝坊さんなのね」


「フレイ~。エニスって傭兵じゃなかったっけ?」


「あぁ、確かに傭兵団を率いていたな。今じゃ抜けたみたいだが」


 リオンの勘違いをオズとフレイが直し、リオンが恥ずかしそうな顔を……しなかった。


「どちらも似ていて紛らわしいですわね」


リースが呟いたその言葉と同時にいきなり応接室のドアが開かれた。


「何の話をしてたんだぁ?」


 エニスが応接室に入ったところで、周囲の慌ただしさが遅れてやってきた。


 フレイはその様子に頭を抱えたくなる衝動に駆られた。そして応接室のドアから外に出て、二言三言話すとドアの外の慌ただしさはなくなった。


「エニス。お前にはリューイと一緒に礼儀作法の勉強が必要だな?」


 フレイが応接室の外から戻った第一声だった。先ほどのエニスの態度がとても気に食わなかったのだろう。フレイは額に青筋を浮かべ怒気を放っていた。エニスは学習能力が低いのだろう。フレイが怒っているという事が分かり、あからさまにビビっていた。しかし中には、この状態のフレイに物申せる人物もいた。


「フレイー。エニスと一緒はイヤー」


 リューイだった。虫の居所も悪いフレイは、リューイにも当たりそうになったが、大人力で聞き流そうとした。しかし結論を言うと続く言葉によって聞き流せなかった。


「あ゛ぁ、オレだってこんなチビと一緒に勉強なんて嫌だわ」


「エニスはバカだからべんきょー嫌いでしょ?」


 そして、エニスとリューイの罵り合いが始まる。


「バーカバーカ」


「チービチービ」


「あんぽんたん」


 子ども如く口喧嘩をするエニスとリューイ。その様子をみて頭を抱えているように見えるフレイ。自分たちは関係ないとでもいうような態度のリース、リオンの双子。どこか遠くを見ているような目でその様子を見ているオズ。


「どうしてこうなった?」


 未だお互いの悪口を言い合う二人を見ながらオズが呟いていた。


 リューイとエニスの子どもの如く可愛らしい? 罵り合いは唐突に終わりを告げた。怒ったフレイによる程良く加減された魔術によりビリビリと痛い目を見た。リューイは、魔術抵抗が高すぎるために何が起こったのか分からず、ケロっとしていた。


 罵り合いをしていた相手がフレイによる魔術で急に意識を失ったためにリューイは落ち着きを取り戻した。というよりもリューイにもピリッとした刺激があったはずなのだが、まったく気にしてはいなかった。


「今のフレイー?」


「あぁ、そうだな」


 リューイの質問にフレイがこめかみをほぐしながら答えた。


「「今の相当威力が高かったわね」」


「うーん。ちょっとピリッとしただけだよ?」


 リース、リオンの双子が慄きながら呟いた。そしてそのつぶやきをリューイが拾いフレイの魔術の感想を述べた。


 双子はエニスと同じで、リューイのことをそこまで詳しくは知らなかった。知っていることは、自分達では敵わなく、フレイにも認められているオズの妹だという事だけだった。そのリューイは今フレイにお説教を受けている。


「「貴方の妹さんはすごいわね」」


 どこか遠い眼をしながら双子がオズに言った。そのオズも先ほどまでのリューイとエニスの醜態に遠い眼をしていた。


「あぁ、リューイはボクよりもすごいよ」


 オズは遠い眼をしたままそう返した。この言葉にオズはシスコンなのかなと双子は思ってしまった。いくらオズが凄いと言ってもリューイは10歳、まだ子どもと言える年齢だ。そんな年齢なのでオズの言葉をどうしても身びいきとしか双子は受け取れなかった。


 そんな気配を察してかオズは言う。


「シスコン気味なのは理解してるけど能力に関してはボクよりリューイのほうが冗談抜きにすごいからね」


「「シスコンなのね」」


 少し双子からオズに向けて、さげすんだ眼が飛んできた。しばらくして双子はシスコンから視線を外した。ちょうどフレイによるリューイへのお説教が終わったらしく、若干涙目になったリューイが早速オズに抱き着いてきた。


「よし、バカも気を失っているし、今のうちに前線の中継砦に飛ぶよ」


 フレイが一仕事終えたような朗らかな笑顔で言った。エニスはフレイに首根っこを掴まれてグデっとしており、未だ気を失っていることが分かる。


 エニスをそこら辺の丈夫な荷物を運ぶようにオズが、雑に運んでいく。


 運んでいく先は、転移の術式場。ここから、前線にある中継砦に飛ぶ手はずになっている。


「持っていくものは転移陣の中に入っているならすぐにでも飛ぶから」


「大丈夫です。それではお願いします」


 係りの兵がそう言うとオズとフレイが、転移陣に魔力を込め始めた。転移陣が一瞬光ったかと思ったら、荷物と宮廷魔術師たちは消えて、転移陣の煌めきはなくなっていた。









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