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第19話

 オズがエドワードを王城に届けた時にはもう真夜中といっていいほどに時間が過ぎていた。なお、エドワードを送り届けた時点で幸いだったのは、エドワードの保護者で女王でもあるリュディアや宰相などのお歴々に会わなかった事だろう。


 そのためエドワードを送り届けたオズは対して時間もかからずに王城から出られた。出られたが、王城はいつもに比べ騒がしかったのがオズとしては少し気がかりだった。


 王城から出たオズは、グリフォンの意匠が施された懐中時計を取り出してから時間を確認し、このままフラフラとしよう決めた。


 にぎわっていた酒場などのお店もこの時間になると、もう店じまいを始めている。


 閑散とした大通りをオズは一人で歩いていた。


 しかし、そんな真夜中でもやっている店もある。魔道具や素材を売っている店である。オズはそのような店を当てもなく冷やかしていく。


 冷やかしていた店がどんどんと店じまいをしていることにオズは気づき、空を見た。


 空は白み始めていた。そして朝早くから開く料理を出す店が下ごしらえなどの準備を始めていた。そこかしこから良いにおいが漂う中、よく卵を買っている顔なじみの店で、オズは面白い物を見つけた。それは微弱ながらも魔力を発していた大きめの卵みたいなものだった。


「おっちゃん。これは?」


 挨拶もほどほどにオズは気になっていた卵? を指さしながら聞いた。


「おぉ、オズか。それは食えるか良く分からん。何せとても固いからな」


 オズにおっちゃんと呼ばれた卵屋の店主は笑いながらオズが気にしたモノの説明をした。


「へぇ。じゃぁ、それをもらおうかな?」


「いいのか? 多分食えないぞ?」


「そんなのを置いておくなよ……。それで値段は?」


「う~ん。銀貨1枚でどうだ?」


 卵はこの世界で非常に高価な食品だった。栄養が他の食物に比べると高くまた、魔法薬の材料にもなる非常に便利な材料でもあった。卵一個の値段が銅貨25枚になる。ちなみにだが、銅貨100枚で銀貨1枚になり銀貨100枚で金貨1枚になる。一般的な平民が一日に使うお金は銅貨6枚程になる。一ヶ月は30日で1年が10ヶ月。平民が一年で使うお金は大体だが銀貨18枚程になる。


 それを考えれば、食べられるかどうかわからない魔力を発する大きな卵みたいなものが卵4個分の値段とは意外とよい買い物だとオズは感じた。


「わかった」


「まいどあり」


「あぁ、そうそう、またこれと同じなのを見つけたら教えてくれよ?」


「わかった。オズが来るまで取っておくようにしておくよ」


「ありがとう」


 オズが感謝し大きな卵の代金に色を付けて払った。


 そして、その大きな卵を抱えてオズは、ルンルン気分でそれこそスキップをしながらヴェルダンディ邸へと帰っていった。





☆★☆




オズがヴェルダンディ邸へと着くと早速、朝食の準備を始めた。


 準備といっても、いつもしていることだった。まずフレイとリューイが起きる時刻に合わせてお湯が沸くように術式をセットする。そしてサラダ用の野菜の下処理を終えたところで朝食の支度を終えた。


 朝食の支度を終えたオズは、ヴェルダンディ邸の地下にある自身の研究室に向かった。そして先ほど買った大きな卵を使った実験をしていた。実験といっても卵を割ったりせず、卵の中身に危険がないような実験にとどめる予定だった。


 オズは、この不思議な大きな卵が何かはわからなかったが、生きている卵だと、産まれたがっていると感覚的に理解しており、孵化させようとしていた。


 そこで卵が好む温度を調べることから始めた。好むといってもなんとなくといった感覚的なものでしかなかった。


 ゆっくりと温度の調整をしていると卵から不思議な――心地よいという――感覚があったのでオズはこの卵が好む温度を知ることができた。知ることができるといっても卵からの不思議な感覚だよりだったが……。


 オズは研究室に大量に置いてある資材、特に多かった銅を使い、卵が好む温度に調節するという魔術式を刻んだ魔道具、孵化装置を作り上げた。卵が好む温度に調節するという魔術式自体は、大分前にオズが創り出した部屋の温度を調節するという魔術式を改良したため、一から創り出すという苦労はしていなかった。


 その卵をオズは早速、孵化装置に入れ起動した。孵化装置の中にはオズが、面白半分で魔石――魔力が蓄えられている石――を大量に入れておくことも忘れなかった。オズとしては卵が魔力を発していたことから、何となくだが魔力も吸収するのではないかと考えたためだった。


「これの研究で卒業できないかな?」


 オズは意外にも学院生活のことも考えていた。


 そしてこの卵が孵るまでまだまだかかりそうだった。





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