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第18話

 王都の夜は明るい。それは多くの店が遅くまで活気づいているからだろう。


 大衆酒場などに仕事を終えた者たち一日の疲れを酒で癒すものなどが騒いでいる。


 そんな通りに面した盛況な大衆酒場とは違う、奥まったところにある酒場で騒ぐ者もいる。


「あぁ。今日も負けた」


「ボクは最終的には勝ったからいいかな?」


 一人は、服装は地味だったが使われている素材が高そうな服を着ている青年で、育ちの良さを感じさせる立ち居振る舞いをしていた。もう一人の青年は黒のロングコートを着ていた。そして、二人とも周りに人がいないのを良いことに、騒いでいた。


「ボクが言うのもなんだけど、エドさぁ、こんなところで飲んで騒いでいて良いの?」


「問題ない。私は妹たちと違って成人しているから自己責任になる。なったらいいなぁ……」


「なったらいいなぁって……。ちょ、飲むペース速すぎ。もっと味わって飲めよ、もったいない」


「オズ。何度も言うが私は、酔いにくいから大丈夫」


 酔いにくいと言いながら若干、目を据わらせてエドが反論する。オズから見たら十分酔っているように見える。だが、オズは過去の経験、具体的には酔ったフレイの影響からここでエドに酔っているとは言えなかった。


 エドとオズ、二人で周りを気にしない楽しい時間はそう長くは続かなかった。


「ここにいたか、悪ガキども」


 エドとオズ、二人とも聞き覚えのある声だった。オズは声がした方を向くと3人の男性が入り口に立っていた。二人は騎士団のシャルルとニウムだった。もう一人は、白髪交じりの短い黒髪のチョイ悪オヤジ風の男性だった。


「アレクさんじゃないですかぁ。どうしたんですかぁ」


「いや、王太子殿下と宮廷魔術師殿が酒に酔って管を巻いている。っていう事を聞いたからな。俺達も同席させてもらおうか?」


 アレクと呼ばれたチョイ悪オヤジ風の男性が相席してもいいか聞いてきた。


「いいですよぉ」


 酒により目が据わり始めたエドが、相席を許可した。


 注文を取りに来た店員にシャルルとニウム、アレクがエドと一緒のものを頼んだ。


「それにしても、俺達が見つけて世話になったこの居酒屋に、エドたちが入り浸ると思わなかったな」


「ボクは入り浸ってないですよ? 今日は誘われただけです」


 ありもしない事実を認めるわけにはいかない、とオズはぴしゃりと言った。そして、ニヤニヤと笑うアレクに一矢報いるためにオズはたとえ話をした。


「それに綺麗なお姉さんたちがお酌してくれるお店に行くよりは健全でしょう?」


「それもそうだな。それにそういうお店だとエドがはっちゃけそうで怖いな。ついでに保護者も怖い」


「はっちゃけるとかの問題ではなく、酔っぱらった王太子殿下とか格好の獲物ですよ? ついでに言えば女王陛下には怒られますね」


「でしょう? なので隠れ家的なここに来ているんですよ」


 オズのたとえ話にアレクとニウムがそろって嫌な顔をしていた。


「ところでオズよ。今日の訓練は前に比べれば手を抜き過ぎじゃないのか?」


 一人メニュー表を眺めていたシャルルのこの言葉にオズは顔を顰める。


「時間を掛けなかった、という点では確かに手を抜きましたね」


「フム、という事は新しい術でも考えたのか?」


「まぁ、詳しい事はまた今度という事でお願いします。ここで言える事は広範囲術式を使ったという事だけです」


 オズが詳しい事は話せないとシャルルに告げる。シャルルとしても魔術のことついて詳しいことは理解できてない。だからオズの話に関して鷹揚に頷くのみだった。


 そして注文していたものが来てテーブルの上に並べられていく。


「随分と味が濃そうなものばかり頼んでいたんだな……」


 テーブルには味が濃そうな色をした串焼き、から揚げ、漬物などが多数並んでいた。


 そのことにアレクが呆れを多分に含んだ表情をしていた。


「酒を飲むには味が濃い物がほしくなるでしょう?」


「まぁ、そうだけどな」


「高血圧が心配ですね……」


 オズが持論を展開し、アレクもしぶしぶという風に同意をしていたが、ニウムが病気の心配をしていた。


「まぁ、死ぬときは何やっても死にますからね。それなら死ぬまでに人生を謳歌したいじゃないですか」


「それもそうだな」


「……健康にも気を使いましょうよ」


 オズがまたしても持論を展開しアレクも納得をしていた。ニウムはやはり健康が気になるようだった。


「しかしなぁ、オズ。その考え方はわかるが、健康で長生きしたいとは思わないのか?」


「どうしても困ったら魔術がありますからね。―――それにボクの身体は常人とは大分違いますから。でも気遣ってくれてありがとうございます」


 つまみを食べながら酒を飲んでいたシャルルがオズを気遣う様子を見せる。


 しかしオズは何処か諦めたような表情をし、気遣いは無用とでもいうような言葉を紡いだが、最後にはシャルルに感謝をした。シャルルは気にするなと手を振っていた。


 それから酒宴は続いていく。


「それでどうします」


 酒宴が終わりに近づいて行ったころオズはあることに気が付いた。


「どうしたんです?」


 途中参加ながらオズとエド以上に酒を飲んでいたニウムが普段と変わらずに応対する。


「えーっと、エドのことですよ。もう寝ちゃっていますよね?」


「うん。そうだな。気持ちよさそうに眠っておる」


「……酒瓶を抱いてな」


「どうやって帰るんでしょう?」


 エドは途中で限界が来たのかいびきをかいて眠っていた。


 オズの確認によりシャルル、ニウム、アレクが若干だがお酒の影響とは違う汗をかいていた。そしてお互いに顔を見合わせていた。何か良い手はないかと。


 しばらくして妙案が思ついたのかアレクがシャルルと目配せしてオズに提案をした。


「……よ、よしここの代金は儂たちが払うからオズ、後は頼んだ」


「そうですね。後日私たちも呼び出されるかもしれませんが、今日はオズ君に任せるのがいいでしょう」


 シャルルの提案にアレクも頷き同意をした。ニウムも同意していたがシャルルとアレクに釘を刺していた。


「……では、仕方ないのでエドを連れて、王城に行って女王陛下に顛末を説明してきます」


「えぇ、頼みます。私も後から向かいます」


「ご馳走様でした。それでは失礼します」


 オズとニウムがお互いのこれからの行動の確認をしていた。そして確認が終わるとオズはエドを抱えてその場にいた、アレク、シャルル、ニウムに挨拶をしてその場を後にした。


「お会計をして我々も行きますよ?」


 ニウムのその言葉でシャルルとアレクは、会計を済まそうと店員を呼び、会計を済ませた。


「ほら、行きますよ?」


 これから女王陛下に説明をしなくてはならないという事でアレクとシャルルの足取りは重かった。


 ニウムはそんな二人に急ぐように告げた。


 この時シャルルはこの有能な副官を恨めしい気分で眺めていた。


 結局、この日、オズとアレク、シャルルとニウムは女王陛下から御叱りを受ける事はなかった。







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