第16話
そろそろお昼の休憩が終わりに近づいた。ご飯を食べ終わったオズがとりあえず結界を解いた。
イルミアは表面上、普段通りだった。しかしオズから覚えていないといわれたことからか、少しショックを受けている様子だった。その様子をアルタナとフレイが目ざとく気づく。気づいたところでフレイは、何もしないが……。
アルタナは、イルミアが少なからずオズを思っていることに思い至った。そしてイルミアとオズとくっつけようと考えた。考えたが、そのオズは今、リューイと戯れていた。
そして、その様子をイルミアは少し羨ましそうに見ている。
外見が整っている者が多い耳長族。その耳長族であるアルタナの目から見てもイルミアは十分過ぎるほどに美少女だった。輝くような銀髪を一纏めに肩から流し、大きくパッチリとした碧眼。背は14歳という年齢の割には低く、胸はほぼない。胸に関しては種族特性なので仕方がない。
自他ともに認めているロリコンであるアルタナも隙あれば、リューイのように抱き着こうとするほどに可愛らしい少女。それがイルミアであった。
そんなイルミアがチラチラとオズの様子を窺うように見ている。多分オズはイルミアが見ていることに気づいているだろう。気付いているのにも関わらず何故見ているのだろう、としか思っていないはずだ。アルタナはそう考えた。事実オズもそう思っていたのだった。そのあたりさすがオズの姉弟子といったところだろう。
姪でもあるイルミアの為にアルタナは自分が一肌脱ぐかとオズに見えないようにやる気を出す。
しかし無情にも時間は過ぎていくのであった。
アルタナがそんな決意をしていた時、フレイはご飯を食べ終え、一緒に昼食をとった人達に声をかけてから席を立ち食堂から出て行った。
そしてオズとリューイの二人もイルミアに一声かけてから、フレイに続くようにその場を後にした。
その間アルタナは、上の空だった。そんなアルタナにイルミアが声をかけた。
「ねぇ、叔母さん。急にどうしたの?」
「うーん、どうしましょうか」
「叔母さん!!」
「う、うぇ!? どうしたの、イルミア?」
イルミアがアルタナの肩を揺すりながら強めに声をかけた。驚いたのはアルタナだった。そんなアルタナにイルミアは再度声を掛ける。
「叔母さん。急にどうしたの?」
アルタナは、一瞬呆けたような表情をしていた。しかしイルミアの言葉を聞いた途端、急にニヤニヤとした表情をした。ニヤニヤとしたアルタナを若干気持ち悪げに見ていたイルミアだったが、だんだんと心配そうにアルタナを見る。
「叔母さん。頭、大丈夫? ダメそうならヴェルダンディ先生に伝えてくるよ?」
「いやいや、何気に酷いよ?」
「だったら急にニヤニヤしないでよ……」
イルミアがアルタナに対して毒を吐いていた。
「それにしてもイルミアの王子様がオズだったとはねぇ」
いまだニヤニヤしているアルタナがイルミアに対してそう言った。その言葉の意味を理解したイルミアは一瞬で赤面した。
「おおお、叔母さん。ななな、なにを言っているのかな?」
一瞬で顔を赤くしたイルミアが、慌てたように口にする。
「やっぱりそうなんだ~」
ニマニマしたアルタナがイルミアをいじる。イルミアは、顔を赤くして恥ずかしそうしていた。そして、イルミアは固まった。
アルタナは可愛らしいイルミアとの会話に聞き耳を立てている人がいないか周囲を見てみた。
しかし、アルタナとイルミアのここまでの会話は、すべて小声で行われていたことや。今この食堂にいるのは、アルタナとイルミアの他には食堂で働いている人たちだけだった。このためかアルタナとイルミアの話は誰にも聞かれてはいなかった。
このことにアルタナは一応、安堵していた。
「前から聞こうとは思っていたけど、まさかオズをねぇ……」
「オズは、かっこいいし、強いから……」
イルミアが頬を染めながら言う。
「あぁ、そうだった。イルミアはそういう子だったわ」
アルタナはため息をつきながら今後のことを考える。
「かっこいいうえに強いんだよ!! それに助けてくれたし」
「わかったから。少し静かにしようね?」
「うぅ」
アルタナに少し静かにして、と言われ頭を小突かれたイルミアは恨めしそうにアルタナを睨む。
「はぁ、オズの事いろいろと教えてあげるから、そんな目で見ないの」
アルタナがため息をつきながらイルミアを窘める。
「ほんと!? 絶対だよ!! あ、それじゃあ私はもう行くね」
イルミアは、アルタナにオズの話をすると言われ喜んだ。そして、壁に掛けてある時計に目を向け食堂を後にした。
「…若いっていいわねぇ。って、もうこんな時間じゃない!! 急がなくちゃ」
アルタナも時計を目にして慌ただしく食堂を後にした。




