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第11話

 シャロンがオズの態度に怒って声を荒げようとしたちょうどその時、コンコンとドアをノックする音が響いた。そして、ノックをした人物の気配は、よほど慌てているのか忙しなくドアの前をウロウロしているのがオズの目に浮かんだ。この時点でオズは、ドアの外にいる人物が誰だかわかった。わかったので、ドアがノックされるまで談笑していたフレイとリュディアに視線で了解を取り、研究室のドアを開けた。


「アルタナ、どうしたんです?」


 オズは、耳が長く先がとがった金色の短い髪をした女性に声をかけた。


「ありがとう、オズ。こちらにリュディア陛下がいらっしゃると思うのですが……」


 アルタナと呼ばれた女性は、オズに感謝をした後に部屋の中をキョロキョロと見渡しながら言った。オズとフレイは、アルタナがなぜキョロキョロしているか、すぐに理解した。理解したが、あえてキョロキョロしている理由を聞かなかった。


「アルタナ。何か急ぎの用があったのではないですか?」


 フレイは、キョロキョロしている理由を問わずにそんなことを聞いた。


「あぁ、そうです。リュディア陛下、近衛の方たちが……」


 アルタナはキョロキョロするのをやめ、言いづらそうに視線をずらしながら言った。その動作に目ざとく気が付いたリュディアはため息をつきながら言った。


「はぁ、それは仕方ないですね。シャロン、アンリ、近衛の方と先に帰って下さい。私は、フレイとお話があります。と伝えてくださる?」


「わかりましたわ」


「はい、お母さま」


 リュディアがシャロンとアンリそう指示した。


 シャロンは素直に、アンリは少し名残惜しそうに返事をして立ち上がり部屋を出ていこうとした。


「アルタナお二人を案内してください」


「わかりました。では参りましょう」


「アルタナ。お願いね」


「はい、陛下」


 シャロンとアンリが部屋を出ていこうとした時、フレイがそう口にし、アルタナが了解をした。そのことに対してリュディアが感謝を示した。そのやり取りにシャロンとアンリは安堵したかのように表情を浮かべた。二人はまだ学園内の地理がまだわからなかったので送ってもらえるということに安堵したのだろう。そして部屋を出て行った。


 しばらくしてアルタナが戻ってきた。


「アルタナご苦労様です」


「ありがとうございます」


 リュディアは戻ってきたアルタナに労いの言葉をかけた。アルタナは改めて室内を見渡した。今、室内には部屋を見渡しているアルタナ、椅子に座っているリュディアとフレイ、オズそしてオズの膝の上で紅茶のカップを持っているリューイがいた。


「ッ、ひゃあ」


「ッ、うお‼ 危な⁉」


 アルタナは素早く動いた。あまりに唐突なアルタナの奇行にリュディアが驚き声を上げた。オズは反射的に対物理に重きを置いた防御魔術を発動させてしまった。


 そして、アルタナはオズの足元で倒れていた。どうやらリュディアではなく、オズに襲い掛かったようだった。


「アルタナ姉さまはどうしたのですか?」


 アルタナの突然の奇行にリュディアは頬を引きつらせ、アルタナをつい昔の呼び方で読んでしまった。女王として様々なことを経験していたリュディアだったが、慕っていたアルタナの奇行にとても驚いたようだった。


 リュディアはフレイの下で一時期、教えを受けていた。その時にアルタナと出会い、姉と慕うようになった事をリューイ以外のこの場にいる全員が理解していた。リュディアが私的な場でアルタナのことを姉と呼んでも大した問題ではない。


 オズの足元に蹲っているアルタナにリューイが近づいて行った。


「もう少しでわかりますよ」


 フレイが呆れたようなため息を零しながらリュディアに言った。


「大丈夫?」


 リューイがアルタナにそう声をかけた。


 蹲っていたアルタナが、擬音が付きそうな勢いで起き、リューイに抱き着いた。


「あ゛ぁ~、リューイちゃんの匂いがするぅ~。癒されるぅ~」


 アルタナがリューイに抱き着いて、リューイの匂いを嗅いでいた。それはまさにリューイたんクンカクンカスーハーといった感じだった。


 そのうちアルタナはリューイを抱きながらワシャワシャと撫でまわしていた。ワシャワシャと撫でまわされているリューイは、嫌がることもなく大人しくしていた。


「……っえ? あの聡明だったアルタナ姉さんが? え?」


 フレイはその様子を我関せずという姿勢を貫き、オズは内心苦々しく思っていながらもリューイが、嫌がっていないのであればまぁ良いかと思っていた。リュディアは過去自身が慕っていたアルタナの変貌ぶりにいまだついていけていなかった。


 それでもリュディアはアルタナの変貌ぶりを何とか消化しようとしていた。


「……フレイ、アルタナ姉さんは、どうしてこうなっちゃたんですか?」


「そうねぇ、簡単に説明すると……、リューイがアルタナの好みにどストライクだったんでしょうね?」


 フレイが遠い目をしながら、リュディアの質問に答えた。


 しばらくリューイを撫でまわしていたアルタナは、唐突にリューイを撫でまわしていた手を止めた。そして急にそわそわと落ち着きを無くしたように、周囲を気にし始めた。このときアルタナは緊張していた。アルタナはエルフの中でも特に魔術の知覚に優れている。魔術の発動の兆候を感じたのだろう。そしてこの魔術を発動させようと準備している人物へ声をかける。


「……この感じは、オズ君かな?」


「へぇ、これでわかりますか。さすが、耳長族ですね」


「種族で呼ばないで。それと、その発動させようとしている魔術をこっちに向けないで‼」


 アルタナは慌ててオズを説得しようとし、魔術を解除させようとしていた。しかしそれは結果的に必要なかった。


「オズ、それくらいにしなさい。アルタナもなにか用事があったんでしょ?」


オズは、フレイに窘められようやく魔術の起動式を解除し込めていた魔力を霧散させた。


 魔術の起動式を解除させたことが分かったアルタナは緊張を解き「オズ君の魔術はほんっとにシャレにならないんだから、やめてよね」などと口を尖らせながら呟いていた。


 そんなアルタナをフレイは窘める。


「アルタナ。私たちも暇ではないのですし、いい加減用事を話しなさい?」


「えぇ~、もう少しリューイちゃんを―――うわ!?」


 アルタナが無駄口をたたこうとした瞬間、フレイがオズにも使っていた初球の狙撃魔法を間髪入れず放った。フレイの技術は初級ということも考慮しても超一流といっても問題ないほどの技術であった。そしてそれをよけたアルタナも素晴らしかった。


「ふざけたことを言っていないで早く用事を済ませなさい」


 フレイはため息をつき、威嚇の意味も込めて、先ほど放った初級の狙撃魔法よりも強い狙撃魔法をアルタナに向ける。先ほど放った初級の狙撃魔法との違いは殺傷性があるか、ないかの違いしかなかった。要するに威嚇の意味も込めた狙撃魔法は殺傷性が高く、アルタナを脅すにはちょうど良かった。


「わかりましたから、それだけはやめて」


 フレイの研究室にアルタナの悲鳴が響いていた。








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