第10話
「ん、みゅぅ~、う~」
可愛らしくむずかりながらリューイはリュディアの胸の中で起きた。リューイは、意外と人見知りをする。そして当然といってよいのか、寝起きのリューイは特に人見知りが激しい。
「う、うわぁぁぁああああああん。グス、……にぃ~、フレイ~、ヒグ、……どこぉ」
リュディアは困惑した。大好きなリューイに泣かれた、という理由で困惑し、呆然としていた。そしていまだ泣き止まないリューイをリュディアは固まっていたが、気を取り直して頑張ってあやしている。あやしているがその結果は芳しくない。リュディアは、3人の子どもを育てた母親としての意地とリューイが慕っているオズに任すかで揺れていた。そんな葛藤の中でもリュディアはリューイを必死にあやし続けていたが、いまだリューイが泣き止む気配はない。そしてリュディアにとってこの状況では一番傷つくであろう言葉をオズが言い放った。
「リュディア様。リューイが嫌がっていますので、こちらで預かります」
この言葉にリュディアは頬を引きつらせて固まった。そしてリューイはいまだ泣き続けている。泣き続けていたがついにというか手足をジタバタと動かし暴れ始めた。リュディアはその様子にハッとなり、慌ててオズにリューイを任せることを決めリューイを渡した。
オズは暴れるリューイをまずはソファーの上に座らせた。そしていまだジタバタと泣き暴れるリューイを正面から抱いて、背中をポンポンとたたく。
「リューイ。落ち着け。兄ちゃんはここにいるぞ」
オズの言葉と抱きしめられた安心感からなのか、リューイは大分落ち着いてきた。リューイのジタバタ攻撃が終わり、号泣が半ベソくらいになった。オズはしばらくの間そうやってあやしていた。
「リューイ。落ち着いたか?」
「グス。うん」
オズはリューイが泣き止んだことを確認し、リューイから離れようとした。しかし、オズが離れようとしたところ、リューイはオズにヒシっと抱き着き、離れようとしなかった。
その様子を見ていたリュディアが、ほっとした表情を浮かべていた。内心では、可愛いリューイを泣かれてしまったことにリュディアは、少なからずショックを受けただろう。しかし、泣き止んでオズにヒシっと抱き着いたのを見て、微笑ましいものを見る目に代わっていた。
そしてリューイが泣き止み、フレイの研究室にいる面々にフレイが紅茶を振る舞い、一息ついた。
「これおいしい」
フレイの入れた紅茶の美味しさにアンリが驚いた声をあげた。
「そうなのよね~。昔からフレイは紅茶を入れるのをうまかったわよね~」
リュディアがフレイを褒めていたが、褒められていたフレイはどこか納得がいかないように口をはさんだ。
「ありがとうございます、リュディア。しかし、私よりもオズが入れた紅茶のほうが、色も香りも味も良いですけどね」
フレイはリューイをあやしているオズのほうをちらりと見ながら、そう返した。
この言葉に驚いたのが、リュディアとアンリだった。リュディアは、フレイとの付き合いが長いために、フレイが入れる紅茶の味を良く知っていたために。アンリは紅茶がとても大好きなため、よく紅茶を楽しんでいた。そのため今フレイが入れてくれた紅茶がとても美味しいと思っていた。そのためにフレイが言った、「私よりも紅茶を入れるのがうまい」という言葉に驚いたのであった。
「今度はオズに紅茶を入れてもらおうかしら」
「!? それはぜひお願いします」
リュディアがそうつぶやき、アンリが興奮したように言った。
「それは難しいんじゃないかな?」
そんな二人にフレイが水を差すような言葉を言った。オズはリュディアとアンリ、フレイが紅茶の話題で盛り上がっている間、リューイをあやし、遊んでいた。そんなオズに対して案の定シャロンが突っかかっていった。
「ねぇ、聞いてますの?」
「……」
オズは猫のようにじゃれてきているリューイの相手をしていたため、やはりというか反応を返さなかった。というよりも、自分が話しかけられていると思っていないほど、堂に入った無視であった。
「あなたですわ、オズさん」
「ッ!? 急に大きな声を出して、どうしたんですか」
オズは急に大きな声に驚き、オズにじゃれていたリューイもビクっと肩を震わせた。急に大きな声を聞いて怖かったのか、またもリューイはオズにヒシっと抱き着いてきた。そしてオズはリューイに安心するようにと「大丈夫、大丈夫」と言いながら頭を撫でてあげていた。
オズははじめ声を荒げたシャロンに気を遣っていたが、リューイがヒシっと抱き着てきた瞬間、オズはシャロンに対して気を遣うということをやめた。やめたというよりもオズにとって、シャロンに気を遣うよりも、ヒシっと抱き着いてきたリューイとの優先順位が違ったためだろう。もちろんオズにとっては、一国のお姫様であるシャロンと自分の可愛い妹のリューイは、比べるまでもなくリューイのほうがとても重要であった。
そんなオズの様子が気に食わなかったのか、さらに声を荒げようとしたところでまた研究室のドアがノックされた。




