ーーー数日後ーーー
「ん・・・・・・、電話・・・・・・?」
久しぶりに家に帰って、非番を満喫していたら、突然ベルの音が響いた。何かの勧誘だろうか、と思って電話を取るのを止めたのだが、何度も何度も電話のベルが鳴っていた。
30分程、それが続くと流石にうっとおしくなってきてしまい、電話の子機を手に取った。
「はい、もしもし?」
「マック?大変だよ、大変。冗談抜きで大変なんだって。」
「落ち着いてくださいよ、何ですか・・・・・・。」
焦っている、というより、慌てているようにも聞こえた。先輩がそういう声を出しているということは、何か事件があったか、コーヒーをこぼしたかのどちらかだ。後者だったなら、即座に電話を切ってやろう。そう思いながら、次の言葉を待ってみた。
「マクレガーさんが、攫われたって、あのちっちゃい子が電話してきたんだよ、マック。」
「・・・・・・はい?」
「もう一回、言った方がいい?」
「いや、いいです。今どこですか、先輩?」
もし、本当にあの技師さんが攫われたというなら、前に会った時に話をしてくれた男の可能性が高いだろう、と考えながらソファから立ち上がる。何を目的にマクレガーさんを攫ったのか、ということも気になったが、それよりもその男のことの方が気になった。正直、その男の情報は何も出なかった。だからこそ、少し関係のありそうな技師のことを調べていたわけだが・・・・・・。
調べるうちに、その男よりも技師のほうが怪しくなってきたからこそ、調べる方針を変えて、技師を調べていたにもかかわらず、今回の事件だ。一体、何のために調べていたんだ、と苦々しい思いにかられながらも、今は出来ることをやらなければならない。
「今ね、この前マクレガーさんの癒えに行くときに寄ったラーメン屋にいるんだよ、クソ野郎。」
「だって、お腹すいたんだもん。」
「真面目に緊張感を持て!」
思わず、電話口の向こうにいるであろう相手に怒鳴りつけそうになったが、どうにか耐えることが出来た。今は、そんなことをしている場合じゃないと考えなおすことで耐えられた。一刻も早くあのラーメン屋に行かなければならない、実に腹立たしいことだが。
「先輩、なんで山盛りモヤシラーメンなんか食ってんすか?」
「てへ☆」
さすがに、この時ばかりは怒鳴りつけてしまった。
「アンタ、今どういう状況か分かってんのかよ!?」
「分かってるよ?今、食べ終わりそう。」
明らかに、モヤシを頬張る、というよりも詰め込んでいるのが視界に入り、頭が痛くなってしまった。
何が起きるか分からない状況で、よくもまぁ呑気にラーメンを食べられるものだ、と先輩を眺めながら思った。
「腹が減っては、戦は出来ぬ、って言うでしょ、マック。」
「律儀にスープ飲み干しながら言うな。」
音を立ててスープを啜る先輩を眺めて待ちながら、餃子を咀嚼する。俺が餃子を食べ終わる頃には、先輩も無事にラーメンを完食していた。スープもだ。
料金は先輩のクレジットカードでのお支払いだ。
「どうするんですか?先輩・・・・・・。」
「車あるから、大丈夫。追っかけようか。」
「どの車か分かってるんですか!?」
「ヘリで追っかけてもらってるから大丈夫。」
先輩の言葉に、思わず目を見開いてしまった。言い方は悪いが、たかが人形技師の1人のためによくヘリコプターを出動させてもらえたものだ。普通なら、そんなことは無理だ。
「だからマック、早く行こっか。」
「・・・・・・。」
真面目な表情の先輩を見ると、少し落ち着かないと、と頭の中を過ぎった。
先輩の車に、取り付け用パトランプをつけてから乗り込み、走り出した。
先輩の車、とは言ったが本当は署にある覆面パトカー用の車であって、先輩の車ではない。まぁ、先輩が勝手に使う頻度が高いので、先輩の車のような扱いになっている。いわゆる、暗黙の了解というやつだ。
組織の物を私物化するのは、いかがなものかと言いたいが、前例があるので、まぁ良しとしよう。
「マック!あの黒いセダンだって!法廷速度無視していい?」
「10キロ以内なら誤差ということにします、無理やりにでも!」
「そうこなくっちゃ!」
実はこの時、無線の電源が入れっぱなしだった為、ヘリの方の人達にダダ漏れだったのを、俺と先輩は知らない。