百人一首・第7首
「織姫と彦星か…」
あたしは七夕の話のことを考えていた。
7月7日なんてなんとなく一日を過ごしてたけど、織姫にとっては大イベントだよね…
それがあたしだったら、前世の織姫にすごく失礼じゃん!
ああ~織姫様~お許しを~!
あたしが手を合わせていると
「何やってるの?紅葉?」
後ろから声をかけてくる人…
「露!」
「そんなにびっくりしないでよ~まさか…意識してる?」
あたしはべしっと露をたたいた。
「お兄ちゃんだと思っただけだし。じゃあ!」
あたしはそう言い走り去った。
最近、ちゃんと露のことを見れない。
露を見ると顔が真っ赤になって…
あの時の真剣な瞳を思い出しちゃうから。
「失礼っ!」
放課後。
元気のいい一人の女の子が部室にやってきた。
「枯旅 紅葉おる?」
とその子が言うのであたしは手を挙げて
「あたしですけど…」
と言った。
「マジ?!いや~やっぱかわいい!お兄ちゃん似やな~」
お兄ちゃんのこと知ってるのかな…
「おい。天野原。紅葉に何を吹き込んでる?」
そう言い後ろからぬっと出てくるお兄ちゃん。
すると天野原は
「ごめんな~いや、やっぱり兄がかっこいいと妹もかわいくなるもんやなってな。ウチ、天野原 三笠錦とはクラスメイトや。今日はな、紅葉に話を聞いてほしくて来たんよ。」
悩み相談…
あたしは三笠を見た。
…この人が?
「あのな。ウチの名前の由来を教えてほしいんや。」
…名前の由来?
「天野原 三笠。母ちゃんも父ちゃんも由来だけ教えてくれへんのや。でも、この名の由来があるところだけわかるんや。それが…百人一首。」
百人一首に名前の由来…
あたしは天野原というのが出てくる百人一首を探した。
昨日の札もそういえば天野原だったな…
でも!
「これですね。」
あたしはそう言い一つの札を三笠に渡した。
そして息をすい
「天の原~ふりさけ見れば~春日なる~三笠の山に~いでし月かも♪」
三笠は目を見開いて
「本当にあった…」
と呟いた。
「はい。これは故郷を思い出す阿部仲磨の心境が詠われてます。そしてその故郷にあるのが三笠山…つまり三笠ですね。これは両親が三笠がいくつになっても自分達のことを忘れないでほしい…そんな願いをこめていたのでしょうね。」
あたしが言うと三笠は涙を流して
「そんなことしなくてもウチはずっと忘れないのに…」
と言った。
名前の由来…
あたしは考えてみた。
あたしも菅家が「美しい」と思った紅葉が好きだけど…
なんで紅葉だったんだろう。
お兄ちゃんも錦だし…
お父さんやお母さんはどうしてこの百人一首を選んだんだろう。
どうして…
菅家だったんだろう。
あたしはパチンとほおをたたいた。
「何を今さら。」
と呟き家路を急いだ。
紅葉…
この名前にこめられた願いって…
なんだろう。