七話 技
「今日はお前たちに技を教えたいと思う」
ロイドは騎士団でもそうしているのだろうかという仁王立ちでそう告げた。
俺たちは初日の授業以来剣術の授業では打ち合いばかりをさせられていた。といっても、最初の二時間はもちろん座学をやったし、素振りやランニングなどの体力トレーニングもやってはいたが、基本的には俺がとにかく攻め続け、アリスがそれを受け続け、隙が出来たとアリスが感じたらそこに打ち返す、といった打ち合いを続けていた。
これは剛の剣を持っている俺に向いている北方流剣術と、静の剣を持っているアリスに向いている南方流剣術を同時に鍛えるために行われているものらしい。
最初こそ「お姉ちゃんやめて！」とか「お姉ちゃんをたたきたくない！」と言っていたアリスだが、俺が「これは強くなるためには必要なことなんだよ。強くなって親父を見返そうぜ」と部屋で二人だけの時に言うと、「わかった！」と年相応の笑顔で返してくれて、それ以来はまじめに打ち合いをするようになった。時折聞こえる「お姉ちゃんは渡さないんだから…」という謎の呟きをする以外はアリスは至って真面目な生徒だ。ロイドは「時々寒気がする」と言っていたが気にしない、というより気にしたら負けだ。
魔法の授業の方も、魔力の扱い方的なものを永遠習ったり、ファイヤーやらウォーターやらの基礎魔法を永遠やらされたりで正直つまらなかったところなので、ちょうどよかった。
「今から教えるのは北方流剣術、南方流剣術のそれぞれ初級の技だ。この技は誰にでもできる簡単な技だが、あまり適当にやると自分がけがをするから気を付けるんだぞ！」
父上殿…最初の方は教官モードだったのに、後半はちょっとお父さん気質が混ざっていますよ？
「まずは北方流剣術からやるぞ。クリス、よーく見ておきなさい！」
ロイドは剣を中段に構えると、剣をぐっと握り正面を見た。すると木剣はいきなり青っぽい光を発し、ロイドは普通の人間ではあり得ないような素早い動きで剣を前に突き出し、空をものすごい速さで突く。
技が終わると先ほどまで青い光を発していた木剣は元の無機質な茶色に戻り、ロイドは剣を下げて「ふぅ…」と小さく息を吐く。
「どうだ、すごいだろう！これは『突進突き』という北方流剣術の基本の技でな…」
ロイドがドヤ顔でそう言う。
俺とアリスは驚きで声も出せず、口を呆然と開くだけだった。だって、だって…
「「剣が青く光るだなんておかしい！」」
俺とアリスの思考が完全に一致した瞬間であった。
だっておかしいではないか。地球にあったVRMMO物の中でしか見たことのないようなものが、今目の前で繰り広げられたのだ。それにこの世界はゲームの中ではなく、異世界だ。いくらなんでもスキルはないだろう。
俺たちがいきなり叫びだしたことに驚いていて呆然としていたロイドが、思い出したかのように口を開く。
「え、えっと、どうしたんだい？」
やはりロイドはこのようなことに耐性が無いらしく、初日の授業のときようにお父さんモードに戻る。そんな父親に一抹の不安を感じなくもないが、今はそんなことを考えている暇はない。
「お父様、なぜあの件はあのような光を発したのですか？」
俺がそう尋ねると、しどろもどろになりながらだが一応返答してくれた。
「そ、それはだな…たしかこの世界を作った神である『ソレイヤ神』の加護を受けているからだとか、こうだとか…って聞いたような気がする。すまん、この辺りはうろ覚えなんだ」
とりあえずこういうことは気にしたら負けなんですね。はい。
アリスもあまり納得してはいないようだが、とりあえずは流しておくことにしたようだ。
「授業を止めてしまって申し訳ありませんでした。続けてください」
「む？それでは続けるとしよう。…次は南方流剣術の技だな。クリス、ちょっと俺に打ち込んできてくれないか？」
「わかりました」
俺は剣を大上段に構え(身長的に届かないため)、ロイドに向かって、思いっきり木剣を振り下ろした。
「はぁ！」
ロイドの剣が先ほどと同じように光り始める。しかし先ほどとは違って、その色は緑だ。
俺の剣がロイドの剣に当たる感触を手に受けたその刹那、俺の剣はロイドの剣に受け流されて、俺は大きく体制を崩される崩される。そしてそのまま受け流すために斜めに構えられたロイドの木剣が俺の顔の横まで飛んできて、そこでピタッと止められる。
「これが南方流剣術の基本技、『止水流し』だ。これからの授業は、クリスは突進突き、アリスは今の止水流しを覚えるまでずっと同じことをやってもらう。これを覚えられたらまた別の技を教えてやるからがんばれよ」
再び教官モードに戻ったロイドによってこの日の剣術の授業は終了した。
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