五話 授業初日(上)
剣術の授業だけで結構長くなってしまったので上下に分けることにしました。
翌朝、早速ロイドによる剣術の指導が始まった。
俺が授業を熱心に希望した、ということで、授業は朝六時から行われ、内訳としては、座学二時間、トレーニングや、練習試合などが五時間の計四時間となっている。今は座学の授業が行われているところだ。
「この世界には4つの流派があることは知っているな?その流派を言ってみろ、クリス」
「はい、攻撃を主体としている北方流剣術、防御やカウンターに特化している南方流剣術、兵法などの策を駆使して戦う西方流剣術、そしてすべてをバランスよく取り入れている東方流剣術の4つです」
「うむ、よく知っているな。これから行う訓練では、それぞれどのような剣術が向いているのかを判断する、いわゆるテストを行う。明日以降はその剣術にあったトレーニングメニューにするため、手を抜かないように」
「「はい!」」
俺とアリスはしっかりとした返事をする。これは授業の最初にロイドに授業の最初と最後に行われる挨拶や、返事ははっきりとした声で行うように、と言われているからだ。
その後は、八時になるまで座学を続ける。その時に教わったことを要約するとこういうことだ。
まず、四大流派はそれぞれ三竦みのようになっていて、北方流剣術は南方流剣術に強く、南方流剣術は西方流剣術に強い、そして西方流剣術は北方流剣術に強い。東方流剣術は全てをバランスよく取り入れているため、すべてを相手にすることが出来る。だが、基本的にはそれぞれに合った流派で訓練をするのが一般的であるらしい。
そして、この流派にはされぞれ段階があるらしい。これは初級、中級、上級、聖級、超級、神級という六つの段位で、神級には一人しかなれないらしい。表し方的には○○流剣術○級というように表すらしい。ちなみに魔法は水魔法なら水聖級魔法師のように最初に魔法の属性が入り、後は級+魔法師となるらしい。
これは、その級の技や魔法が一つでも使えればその級を名乗ってもいいということなので、結構アバウトだ。ただし、先ほども述べたが、神級には、新しく覚える技が無く、神級の人間を倒すか、神級の人間が死んだときに開かれる超級のみが参加できる大会で優勝しなければならないらしい。
ここまで習ったところで八時になり、座学の授業が終了となって、いったん休憩をはさんで訓練に移行する。
俺とアリス…元の世界の桐生秋雨と桐生時雨は、いつも学年で五番以内に入るほどには頭がよかったが、やはりこういう世界に来たのならば剣を使ったり魔法を使ったりしてみたいとは思う。だが、日本人の性なのか、こういうことは危ないと思っている自分も一緒にいるから、ちょっと不思議だ。
休憩の時間が終わり、訓練が始まる。最初にロイドは俺とアリスの前に何やら分厚い服を地面にそっと置き、その隣に木刀が二本おかれる。
「その服は中に錘が仕込んであって、2キロほどの重さがある。それは訓練をするときに必ず着ろ。訓練にもなるからな。その隣の木刀は、片方は錘入り、もう片方はただの剣だ。錘入りの方は訓練で使う。入っていない方は、練習で試合をしたりするときなんかに使う。
今日のテストには錘の入っていない木刀しか使わんから、服と錘入りの剣は部屋にでも置いておけ」
まるでドラ●ン●ールみたいだな…と思ったが、この世界では通じないだろうからツッコまないでおく。
「それではテストを行う。まずは反復横跳びからだ、そこのラインに並べ」
ずいぶんと体力テストチックだな…
「それでははじめ!」
どこから取り出したのか、ホイッスルを口に銜えてピッ、と音を鳴らす。それを合図にして反復横跳びを始めた。
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
「よし、シャトルランも終わったな」
俺たちはほとんど休みなく体力テストの内容をやらされ続けた。握力やハンドボール投げなんかはそんなに疲れないからいいけど、上体起こしや、五十メートル走なんかは一度にやるととても疲れる。
俺とアリスは中腰のような体制で、はあはあと息を整えながらゆっくりと顔を上げる。
「よし、それじゃあ最後にこの剣の柄を握ってみろ」
ロイドの指差す先には、石に半分剣身が埋まっている、半透明な剣があった。これを握って何になるのか、という疑問が浮かぶが、何か意味があるのだろうと思って質問はしない。もっとも、単に疲れていて聞く気になれなかっただけかもしれないが。
まずは俺が剣の柄を、精一杯の握力で握りしめる。
すると、先ほどまで半透明だった剣身が燃えるように真っ赤な赤に変色した。これほどまでに見事な赤は、日本で暮らしていたときにも見たことはない。
それに、はじめてこの剣を握る俺が驚くのはしょうがないかもしれないが、握らせてきたロイドまで驚いているのはなぜだろうか?…もしかして、赤っていけないの?
「これは驚いた…これほどまでに見事な赤が出るとは…このような赤は聖級、いや、超級の人間でなければ出せぬかもしれん」
えっと…とりあえずこれはいいことなのか?
「うむ…とりあえずこのことは後回しだ。アリス、おまえも同じようにやってみろ」
「は、はい!」
次はアリスの番なので俺が手を放すと、先ほどまで炎のように赤かった剣身が見る見るうちにもとの無機質な半透明に戻っていく。
そしてその半透明になった剣の柄を今度はアリスが握る。すると先ほどは燃えるような赤に染まった剣身が、今度はどこまでも深く、それでいてどこまでも澄んだような、これまた表現しづらくも美しい藍に染まった。そしてそれを見るロイドの顔は、先ほど俺が剣を握った時と同じように、驚愕に染まっていた。
「まさか二人ともにこれほどの剣の才能あるだなんて…やはり俺では役不足か?いや、しかし…」
ロイドは驚愕に顔を染めた後、下を向いて何かをぶつぶつと呟いている。
「お父様、お父様!」
「う、うぉお?!な、何だいクリス?」
先ほどまでの教官モードから、素のロイドに戻って、素っ頓狂な声を上げる。
俺は剣身の色とか、そんなことよりももっと大切なことを聞きたかったのだ。
「お父様にお聞きしたいことがあります。それは…あのような便利なものがあるなら最初っから使えばいいじゃないですか!それなのになぜあんなめんどくさい運動をさせたのですか!」
そう、俺はずっとあの体力テストの意味を聞きたかったのだ。なぜならあんな便利な道具があるのだったら体力テストをする必要はないではないか。というよりは、体力テストは何のためにやったのだろうか。
ロイドはいきなり大声を出されたからか、愛する娘から怒られたからなのか、先ほどの威厳をみじんも感じさせない、ただの尻に敷かれる若旦那の顔つきになっていた。
「い、いや、それはだね、あの道具は疲れている状態?というより疲れて自分の内にある気が表に出やすい状態になっていないと反応しないいんだよ、うん!」
ロイドは早口で聞かれたことに対する答えを言うが、そのことが情けなさをより増長させていることに本人は果たして気付いているのだろうか?
結局、その後も同じような疑問を持っていたらしいアリスと俺に責められ続けて、残りの授業時間は使い切られた。
そしてセレナはお昼の時間になって帰ってきた俺たちとロイドの姿を見て、頭に?マークを盛大に浮かべていた。