二話 誕生日
幼年期は時の流れが速いですが気にしないでもらえると嬉しいです。
俺と時雨…いや、アリスが異世界に転生してから早くも五年が経過して、今日は俺たちの五歳の誕生日だ。
最初こそ、この世界に戸惑いもしたが、徐々に俺たちはこの世界の文化にも慣れてきて、この世界を楽しむようになってきた。なぜならこの世界には暴力を振るってくるような父親がいないのだから…
そう言えばまだこちらの世界についてあまり述べていなかったと思う。
まずこの世界自体には名前が無いらしい。父に聞いたら、頭に?マークが浮かぶような答えに困ったかを押していたからな。かわりに父の書斎に先月アリスともぐりこんで地図やこの世界の文献を読み漁った。
その結果、この世界は四つの大きな大陸でできている、ということがわかった。ちなみに今俺たちがいるのはアルティカ大陸という西南の方にある大陸の、王都にある城下町らしいらしい。
これはアリスと二人で外に遊びに行ったときに街の看板に地図があったのを見て知った。
次に自分たちの正確な名前がわかった。俺の名前はクリスティア・ハルベルトと言うらしい。ハルベルト家はそこそこの名家らしいが、そのあたりはまだよくわからない。そしてアリスの名前はアリスティア・ハルベルト、父と母はロイド・ハルベルトとセレナ・ハルベルトというらしい。
そして俺とアリスが一番興味を持ったのは剣と魔法だ。やはり戸塚が前に言っていたようにこの世界には剣と魔法というものがあって、かなり普及しているらしい。
俺とアリスはロイドの書斎にあった『初級魔法を使うには』という本を持ち出して、町はずれの空き地のようなところで練習をしてみた。
まずは一番簡単だと書いてあったファイヤーという魔法を使ってみることにした。本に書いてあるとうりに詠唱をすると俺の数メートルほど前に小さな炎が現れた。どうやら成功らしい。続いてアリスも同じように詠唱をする。アリスも俺と同じように数メートル前に炎が現れたので成功したらしい。
結局、その日は五大魔属性と言われているらしい火、水、風、土、雷(エーテルではないらしい)の一番初歩と言われているファイヤー、ウォーター、ウインド、サンド、サンダーをそれぞれ練習した。
話は最初に戻るが、今日は俺とアリスの誕生日だ。
そして、今日俺とアリスは、誕生日プレゼントとして剣術と魔法を習いたいとお願いするつもりだ。
「「ハッピーバースデー!!!」」
ロイドとセレナがそう言ったことをきっかけに俺とアリスの誕生日パーティが始まった。このパーティには俺とアリスのお披露目会的な意味合いももあり多くの貴族やらなんやらがやってきているらしい。みると俺たちと同じくらいの子供までいるようだ。
まず俺はロイドに、アリスはセレナに連れられて、パーティの参加者に挨拶」回りをすることになっていた。俺とアリスは1歳になるころにはもう言葉がはっきりと話せていたので、礼儀作法を習っておけば挨拶は余裕でできる。
「初めまして、ロイド・ハルベルトの娘のクリスティア・ハルベルトと申します」
「これはこれはご丁寧にどうも。私は―――」
このような感じで挨拶は流れ作業のように進んでいった。
誕生日プレゼントが山のように集まってアリスと二人で戦慄いたり、同年代の子供達と友達になったりと、誕生日パーティはとても楽しかった。
そして、誕生日パーティが終わり、参加してくれた方々を見送った後、俺たち4人はハルベルト邸のリビングに戻った。
「ふぅ、二人ともお疲れ様」
ロイドが気遣いの言葉を言ってくれる。
「二人ともとっても偉かったわよ」
セレナも同じように言葉をくれた。
「いえ、私たちの方こそ、このような盛大なパーティを開いていただいたのですから当然のことです。それで、お父様とお母様にお願いがあるのですが…」
「うん、なんだい?」
「私とアリスに剣術と魔法を教えていただきたいのです」
俺がそう言うと、ロイドとセレナは目を見開いて驚いていた。ちなみにこれは俺が女口調で話しているからではない。
「どうしてそんなことを思うんだい?普通魔法にしても剣術にしても早くて6歳からしか教わらないものだよ」
ロイドは多少落ち着いたのか、言葉を返してくる。
「私とクリスは予てより魔法と剣術を習いたいと思っておりました。しかしなかなか言い出すきっかけがなく、今日になってしまいました。お父様、お母様、どうか私たちに剣術と魔法を教えてください」
アリスが頭を下げたので俺も同じように頭を下げる。
ロイドとセレナはどうやら考え込んでいるようで、頻りに小声で会話をしたり唸ったりしている。
「クリスとアリスの気持ちはよくわかった。しかし、今すぐ教えるには剣術をするための体力や、魔法を扱うための地力が足りない。そこで、明日誕生日プレゼントとして何冊か本を買ってきてあげよう。それで魔法について勉強し、毎日運動もすること。それを1年、来年の誕生日の日まで毎日できたら剣術と魔法を教えてあげよう。どうだい、それならいいかな?」
「わかりました。それでは明日から早速頑張らせてもらいます。それではお父様、お母様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
俺とアリスは二人で使っている寝室に行く。
「周りの子たちよりも頭がよくて、天才だとは思っていたが、こんなにも早く魔法と剣術を勉強したがるとはなぁ」
クリスとアリスのいなくなった広いリビングではロイドとセレナが会話を続けていた。
「えぇ、どこで勉強したのか算術や読み書きも出来ていましたしねぇ」
セレナは前に部屋で文字の練習をしていたクリスとアリスを思い出しながらそう言う。
クリスとアリスは物覚えがよく、言われたことはすぐに覚えていったし、普通だったらやんちゃなはずのこの時期にも落ち着いていて、まるで大人みたいな雰囲気を感じさせていた。
「きっと勉強熱心なあの子たちのことだから毎日しっかりと勉強をするだろうし、運動もするだろうな。そうしたらあいつに教師を頼もうと思うんだがいいかな?」
「ええ、あの子だったらしっかりやってくれると思うしいいんじゃないかしら」
大人たちの会話はクリスたちには聞かれることがなく、夜は更けて行った。