転生は突然に
更新は不定期です。
「おい、おまえらちょっと異世界行って来い」
事の発端はくそ親父のその一言だった。
その親父の一言に俺、桐生秋雨(きりゅうあきさめ)と妹の時雨(しぐれ)は凍りついた。なぜならいきなり俺たち兄弟に無関心だった親父がそんなことを言い出したからでもあるし、異世界などという小説やアニメの中でしか見聞きしたことのないところに行け、などという不条理を言われたからでもある。
「おい、いきなり何を言ってるんだ?」
俺はその疑問に対する答えを求めるべく親父に問いを返す。隣ではさっきまでやっていたゲームのコントローラーを持ったまま口を開けて固まっている時雨がいる。
「だーかーらー、おまえらちょっと異世界行って来い。安心しろよ、業者さんもちゃんとチート能力ぐらいはつけてくれるらしいぜ」
その言葉に俺の疑問はさらに深まった。チート能力? それに業者ってなんなんだ?仮に異世界があったとして、そこに俺たちが行くことでこのくそ親父に何の得があるんだ?
俺も時雨と同じように口を開けて呆然としていると、俺たちの部屋のある2階に通じる階段をドタドタと上がってくるものがいた。数は2人、3人・・・いや、もっと多いのかもしれない。
「あー、じゃあこいつら連れて行ってください。金は指定の口座によろしくお願いします」
すると部屋の中に4人ほどの男が入ってきて俺たちの両肩をつかんで外に連れ出そうとする。そうか、俺たちはこのくそ親父に売られたのか・・・
俺はその事実を漠然と受け入れながら外に連れられていく。隣で時雨がバタバタと抵抗しているが、時雨の右側にいる男が注射器のようなものを時雨に刺すと、ガクリと時雨は意識を失った。
さらに俺を押さえている男もそれを俺の腕にさしてきた。俺は何か抵抗をすることもできずに意識を失った。
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次に俺が目を覚ましたのはどこかの研究室のようなところだ。どうやら俺は椅子に縛られて身動きが取れないようにされているらしい。その上、口にはガムテープが貼られていてしゃべれない。
俺は首だけを動かして辺りを見る。隣には俺と同じように縛られている時雨がいる。どうやらまだ意識は戻っていないらしい。さらにあたりを見回すと、一つ目立つものを見つけた。それは扉だ。しかしそれはただの扉では無く、青い光を放っていて、まるでRPGなどに出てくる転移装置のようだった。
がちゃ、という音に俺は内心ビクッとしながら、その音のした後ろを振り返ろうとする。が、首は90°程しか動かず、その音を鳴らしたものを見ることが出来ない。
しかしそれはコツ、コツと近づいてきて俺たちの前までやってきた。
そいつは白衣を着た男で、明らかに研究員です、と言わんばかりの風貌をしていた。
その男は時雨をゆすって起こした。そして時雨が起きたところで話し始めた。
「ようこそ、桐生秋雨君に桐生時雨君。私はここの所長をしている戸塚(とつか)というものだ」
その戸塚という男は部屋の奥にあった椅子を引っ張ってきて自分自身もそれに腰かけると説明を再開した。
「最初に言わせてもらうよ。君たちはお父さんに売られた。その事実は呑み込めるかい?」
「はい」
「なんだ、意外と元気じゃないか」
戸塚はうんうんと頷くことを繰り返している。
一体こいつは何を考えているんだ?時雨は青い顔をしながらうつむいてしまっているが大丈夫だろうか? 俺は戸塚の話を聞きながらそんなことを考えていた。
「それならさっさと話を進めさせてもらおうかな。まず君たちにはこれから異世界に行ってもらう。そしてその異世界のデータを集めてきてもらうことが君たちに課せられた使命だ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 異世界ってなんだ?外国か何かのことを言ってるのか?」
「異世界は異世界だよ。君は異世界転生物の小説とかは読んだことあるかい?それと同じ異世界だよ」
俺はまだこの戸塚が言っていることの意味がよくわからなかった。だってそうだろ?いきなり異世界に行ってくれ、と言われたうえにフィクションなんかであるようなものの世界に行けるだって?冗談も休み休み言ってほしいところだ。
しかしこの戸塚という男は嘘を言っていないように思える。確証のようなものはないが、そう思わせることが出来るだけの何かをこの男は持っているように思える。
「ふむ……どうやらまだ信じていないようだね。
まあいいさ、実際に行ってみればわかることだろうしね」
戸塚は俺たちの手を引いて先ほどの青い光を放っている扉の前まで移動した。
そして俺たちの後ろに回って再び話し出す。
「いいかい、今からいうことをしっかりと聞いておくんだよ。
君たちが今から行く世界は剣あり、魔法あり、モンスターありのトンデモ世界だ。そしてその世界で君たちが生きていけるように僕たちは一つだけチートスキルを授けてあげる。ただそれは本人の一番本質的にあるところから来るものだから選ばせてあげることはできない。それにこちらから君たちが今から行く世界への干渉も出来ない。
そして最後に一つ。君たちは0歳からの第二の人生を歩むことになる。どんな家の子になるかもわからない。そこは完全に運だね。
よしそれじゃあ行ってらっしゃい!」
「お、おいちょっと!」
「キャァァァァア!!」
戸塚のその言葉と同時に俺と時雨は青い光の中に押し込まれた。