八話 ある日の休日と年子の兄弟①
キリが悪いですが投稿します。
最初の授業が始まってから、早くも五か月が経過した。俺たちは順調に技や魔法を覚えていき、今では剣術でも魔法でも、それぞれ中級の技|(魔法)を使えるようになっていた。
今日は一週間のうち、唯一の休みの日だ。こんな日は大抵部屋で寝るか、今俺がしているように町に探検に出かけるか、と言ったところだ。しかも、暇なのかなんなのか、必ずアリスも俺に付いて来るのだ。それは、昼寝であろうと、探検であろうと、トイレであろうと(さすがに止めたが)、何でも付いて来る。一回俺が「カルガモか!」と突っ込んだら、「お姉さまは私と子作りがしたいんですね!でも私たちまだ年齢が…」などという素っ頓狂な答えが返ってきて以来俺はそれを許可している。なぜか悪寒がしたからだ。
それは置いておいて、今日は俺たちが住んでいる城下町…ハスバーの城下町に買い物に来ていた。これは探検と市場調査を兼ねている。
この年になると、地球ならば幼稚園や保育園などと言った場所に通い、友達を作ったり、常識や算術、言語などを学んだりするのだろうが、こちらの世界にはそういったものがないので、市場調査や探検もそういうことを見て覚えるための行動だ。
俺がそのことをアリスに伝えると、アリスは「さすがお姉さまです!」なんて言って喜んでいたけど、なぜ喜んでいたのだろうか?
と、そんなことを考えていると、アリスが心配そうにこちらを見ていることに気づいた。俺は「何でもないよ」と言ってアリスの横に並んで、再び歩き出す。アリスも俺が大丈夫だとわかると、再び元の調子で歩き始めた。
さて、市場調査を始めるか
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市場調査と探検は、夕方には終わり、今は家へ戻るために店の多い商店街から離れた市民街の外れの方をアリスと歩いているところだ。
これも一応探検の一環だが、この辺りは公園が何か所かあるぐらいで、他は特別面白そうなものはなさそうだ。
それならさっさと家へ帰ってしまおう、そんなことを考えていると、俺たちの百メートルほど先にある、比較的大きめの公園の方から、甲高い女の子の悲鳴が聞こえてきた。
それを聞いた俺とアリスは、互いに頷きあうと、ダッ、という効果音を鳴らしそうな勢いで走り出した。俺たちは普段から走り込みなんかをしているおかげで、四歳児にしてはありえないほどのスタミナと総力を持っていたので、公園に到着するのに二十秒はかからなかった。
俺たちは急いで中を確認するためにキョロキョロと公園の中を見回すと、公園の中央のあたりで女の子と男の子が三人の大人に連れて行かれそうになっているのが見えた。男の子の方はぐったりとしていて、顔にも痣があることから、あの大人たちに殴られて気絶させられたのだろうということがわかる。
女の子の方は、大人に口元を押さえられながら、じたばたとして必死に抵抗しているが、やはり大人には力負けしているようで、あっさりと押さえつけられている。
俺はそのことに怒りを覚え、初級魔法のサンダーを大人たちの足元に打ち込む。すると大人たちはビクッと驚き、手から二人は解放されて地面に落ちた。
大人たちは何事かとこちらの方を見て、顔を驚きの色に染めていた。無理もないだろう、なんせ魔法を撃ったのが、先ほど掴んでいた子供とほとんど変わらないぐらいの背丈の子供だったのだから。
俺はそんな大人たちの様子など全く気にせずに、叫ぶ。
「おい!お前らなんでこんなことをしてるんだ!」
俺の言葉に一瞬ビクッとするが、リーダー格らしき大人が、今度はニヤニヤとしたいやらしい笑みを顔に浮かべてこちらに言葉を返してくる。
「こんなこと?一体何のことだ?」
俺はその反応にブチギレてしまいたくなるが、その衝動を抑えて話し合いに応じる。
「だから、なんでその子たちを攫おうとしているのかって聞いてるんだよ!」
怒気が強まってしまったが、相手はそんなことなどまったく気にせずに言葉を返してくる。
「ああ、そのことか!なんだ、最初からそう言ってくれればよかったのに。それでなんで攫おうとしているかって?それはこいつらを奴隷として売りさばいてやろうと思ってるからだよ!」
その言葉を聞いた女の子がビクリと震える。どうやらなぜ連れて行かれるのかは聞かされていなかったようだ。
こいつらは奴隷商のようだ。
奴隷商とは名の通り、奴隷を売ることを仕事にしている輩だ。この世界では一応奴隷制度も認められてはいるが、そこまで人気があるわけでもない。
それはなぜか。答えは奴隷の年齢にある。基本的にこの世界で奴隷となるのは25歳以上の女である。歳の盛りを過ぎた女には女の価値もない、と、とある本に書いてあった。
それ故に奴隷商はまだ若い子供を攫い、教育を施すことで高い値段で売りさばこうとするのだ。今、目の前で行われていたこともそういうことなのだろう。
だが、そういったことは許されることではない。
俺は内にあふれる怒りを相手に悟られぬように冷静を装って腰に掛けてある木剣に手を掛け、引き抜く。練習で使っているのは錘が入った重いものが大半なので、今腰に掛けている木剣はかなり軽く感じる。
俺は何度も練習した突進突きの構えを取る。相手はそれが突進突きの構えだとわかると、相手も腰に掛けていた鉄の剣を引き抜き、南方流剣術の受け流しの構えで構える。
俺は小声でアリスに、魔法での援護を頼むと、「わかりました」と小声で返事が返ってきたので、突進突きを発動する。
体に力がみなぎっていくのがわかる。ダンッ、という音を鳴らしながら地を蹴る。
相手はニヤニヤとしながらこちらを見ている。こちらを完全になめきっている証拠だ。
「彼のものに大いなる加護を与えよ、《フィジカルフォース》」
アリスの魔法の発動と同時に、自分の体にさらなる力がみなぎるのがわかる。
相手の大人はいきなり俺の速度が上がったことに驚き、一瞬力が抜ける。俺はその隙につけ込んで、一気に剣を突き出す。突進突きの威力に魔法による身体強化の力が上乗せされたそれは、男の剣を突き破り、そのまま男の鳩尾あたりに深く突き刺さった。
男は苦悶の表情を浮かべ、そのまま5メートルほど後ろに吹っ飛び、後ろにいた男たちに激突した。
俺の技を喰らった男はそのまま白目をむいて泡を吹いて意識を失った。
俺はその隣にいる二人の男たちを睨み付ける。
「おい、おまえらもやるか?」
子供といえど、リーダー格の男を一撃で倒したのだ。他の男たちは顔を青くして、「覚えてろよ!」なんて言うありきたりの言葉を叫び、泡を吹いた男を抱えて走り去ってしまった。
俺はその光景を満足しながら見守っていると、後ろからアリスがやってきて、「さすがお姉さまです!」なんて言ってきたので、頭をなでてやる。この4年でだいぶ女扱いにも慣れてきたようだ。
「あの~?」
横から控えめな声がかかってくる。どうやら先ほどまで気絶していた男の子のようだ。
「あ、あの私とお兄ちゃんを助けてくれてありがとうございました」
隣にいる女の子も話しかけてくる。話を聞いている限り、この二人は兄妹なのだろう。
それに、先ほどは気付かなかったが、この二人はエルフだ。それも、リファのようなハーフではなく、純粋なエルフの子供のようで、髪は綺麗なエメラルドグリーンで染まっている。ただ気になるのは2人の服装がやけにみすぼらしいところとぐらいだ。
「いえ、当然のことをしただけです。私はクリスティア・ハルベルト、こっちは双子の妹のアリスティアです」
「えっと、僕はテリー、こっちは妹のティナです」
「よ、よろしくお願いします!」
「あの、お二人の姓はなんというんですか?」
アリスの素朴な疑問に、テリーとティナは苦虫を噛んだような表情になってからこう言った。
「初対面の人に言うようなことではないと思うんですけど、僕たちはエルフの里から追い出されたんです」
俺とアリスはそのことにとても驚いた。なぜならエルフの里はとても内向的で、里の者同士で団結しているからだ。
「あの、それはなんでです?」
「僕たちは里の掟を破ったんです。だから追い出されてもしょうがないんです」
「そんな…」
俺はそのことに言葉も出なかった。エルフの里の掟がどれほど厳しいかがわからなかったということもあるし、それだけのことで、と思うところもあったからだ。
「じゃあ二人は住むところがないんですか?」
俺の言葉に二人はコクリと頷く。
「じゃあ家に来ませんか?きっとお父様やお母様も許してくれるでしょうし」
「それはいい考えですね、お姉さま!」
俺のその言葉に今度はテリーたちが驚いた。
「え…いいんですか?」
俺たちはその言葉に肯定の意味で笑顔でコクリと頷く。
二人はまだ考え込んでいるようだったが、やがて2人で見つめあい、コクリと頷くと、こちらを見てきた。
「迷惑でないなら、よろしくお願いします」
テリーのその言葉を合図に、二人は小さな体をぺこりと曲げる。
俺とアリスはその言葉を聞いて、顔をほころばせながら家への道を歩いた。俺たちの後ろには、まだおどおどとしてはいるが、しっかりとついてきている二人の兄弟の影があった。
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家への道を歩きながら、俺とアリスはテリーとティナにたくさんの質問をした。
それをまとめると、次のようになる。
まず、二人は同い年ではあるが、双子ではない。いわゆる年子というやつらしい。何でもエルフの子供は人間とは違い、受精後約5か月で出産をするらしい。歳は俺たちと同じ6歳らしい。
次に、やけに言葉が話せるな、と思い、それを質問すると、エルフは知能が高く、総じて頭の発達が早い、ということを教えてもらった。むしろ同い年の俺たちの方がおかしいと、逆に突っ込まれてもしまったが。
次に聞いたのが魔法や剣術は使えるか、ということだ。エルフはこの世界でもやはり魔法や運動能力に長けた存在だと、前に読んだ本に書いてあった。そのことを聞くと、「普通は7歳になったら親から教えてこらえるんだけど、僕たちはその前に里から追い出されちゃったから…」と、なんとも言いづらい空気になり、そこで話が途切れた。
まあ会話が止まったのは現在進行形でのことだが。
と、思っていたら屋敷が見えてきた。現在の時刻は5時50分。門限に設定されている6時にぎりぎり間に合った。
「着いたよ。二人とも」
俺はそういって二人に声をかける。貴族街に入ったあたりから少しびくびくとしていた2人だったが、俺たちの住んでいる屋敷を見ると、それはガクガクへと変貌していた。
今回の話は今までで初めて4000文字を超えました。…テスト前なのに何やってんでしょうねw
次回は逆に超短くなると思います。そのうえ6月の23日までは超忙しいので、いつ投稿になるかはわからないですが待っていてくださるとありがたいです。




