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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
日ノ本ノ国、この世界
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ep.75 ヒナゲシと二人、昼下がり(後編)

後編だあああひゃっはああああ!!





『リューキはね、景色を眺めるのが好きみたいなの』


 知ってる。


『リューキの奴、スープ系の食べ物が大好きでさ』


 それも知ってる。


『リューキ様はいつも仕事に余念がありません』


 それも、知ってる。



 竜基に対して、一定以上の感情を持っている人間は、いつも僕にそうやって"自分の知ってる竜基"の話をしてくる。嬉しそうに……たまに、寂しそうに。


 竜基の話で盛り上がるのは良い。アリサも甘えたい時くらいあるだろうし、ライカは最近恋の芽が出たような初々しさだ。ファリンに至ってはもはや敬愛から陶酔の域に踏み込みそうなくらいで、論外だ。


 けど、あの子たちが言っている竜基は、凄くて、頭が良くて、国を導く英雄としての一面だけだ。


 僕に対して、竜基の話を振ってくるなんて。


 誰が、いつも一番近くであいつを見てると思ってるんだ。


 いつもナイーブで傷つきやすくて、その癖責任感だけは誰よりも強くて、全部一人で背負おうとして。

 頭の良さだって、知識が豊富なだけで要領はよくないんだ。

 まるで役に立たないなんちゃって武術と、膨大な量に膨らんだ書物の知識だけで、あいつは戦ってる。


 そしてよく疲れて寝落ちして、よくデスクの竹簡を枕にして寝てる。

 しょうがないからインクが顔にかからないようにして毛布をかけて、起きそうになったら温かい白湯を入れてあげると、妙に子供っぽい顔で笑うんだ。あいつ。


 あの時だけ、あ、同い年だったんだ。って思い出す。いつも一生懸命でまじめで頑張って、それでもどうしようもないことが起きて頭を抱えて、窮した状況で手も足も出なくても先頭に立って戦って……それで、ダメだった時に責任を背負い込んで潰れるんだ。


 ……あいつには、僕が居ないとダメなんだ。いや、違う。本当は。


 誰かがついてあげないとダメ、なんだ。


 それで、その誰かは、僕で良い。


 ほかの誰でもない。僕が竜基を支えるんだ。


「ヒナゲシ?」


 しばらく声をかけないで居ると、どうしたのかと横目でこっちを見る竜基。本当に、こうしてふつうに街を歩いていると同年代の男子って気がする。けど、この生真面目が服を着て歩いているような目の前の男は僕の上司で、それで、放っておくとすぐに崩れてしまいそうな奴。


 クサカが死んだっていう話を聞いた時、竜基はずっと塞ぎ込んでいた。それはしょうがないことだと思ったし、僕も辛かったけど、竜基はそれ以上に事情がある。


 あの日竜基に手紙を渡しに行って、彼からいろいろな話をされた。マリア・コンドー・アッシアは元々竜基と同じ場所の人間で、その世界には"魔剣戦記"っていうゲームがあって。


 クサカは、その世界では竜基と知り合いで、凄く偉い人だったということ。そして、リューヘイに至っては竜基の父親だと言うこと。


 知らない世界に放り出されて、やっと見つけた同胞は軒並み記憶を失っていて、竜基のことも、覚えていなくて。


 これ以上、竜基を痛めつけないでくれ。

 あの日話を聞いて、心底そう思った。

 竜基はどれだけ今まで、苦痛に苛まれてきたのか。僕と出会ったあの日も、ずっと、感情が溢れだして止まらなかった僕の罵倒を一身に受けていて。多くの人を殺めた行いを、一人抱え込んで懺悔して。死ぬかと思った戦いで、自分の作戦のせいだと慟哭して。そして、見つけた肉親は訳もわからないまま若返り、面と向かって他人扱い。

 挙げ句今度は、旧知の人が、自分を庇って死に……間際に記憶を取り戻す。


 もう、もういいだろう。


 いくらなんでも、ひどすぎる。


 この世界は、何度竜基を追い込むのか。

 そのままにしておいたら、竜基は遠からず潰れて死んでしまう。


 世界が竜基を追いつめるなら、僕はずっと竜基と共に居る。


 その役目は、僕のものなんだ。


「……んーん、なんでもない。じゃあ、いこっか」


 多少強引にでも、竜基を外に連れ出して。


 息抜きになればいいな。


 でも。


 二人きりで居られるこの時と、高鳴る胸の感情は。


 僕がきっと、そんなきみと一緒に居たいからって、思っているせいなんだ。


 どうしようもなく矛盾して苦しいよ……竜基。















 サブウェイを二人で楽しむ竜基とヒナゲシ。

 その背後、しばらく離れたところに二人の少女の姿があった。


「ずりーよな? あれずりーよな?」

「ライカちゃん……あの、目が怖いです。 あと、斧は、危ないです」

「んだよおめーだってクナイ離してねーじゃねーか」

「だ、だってこれは……リューキ様から、貰った……ぷ、ぷれ……」

「顔真っ赤にして俯くんじゃねーよむかつくから」


 赤髪の少女と、黒装束に身を包んだ少女。どちらも年代は同じくらい。それだけならなにも問題は無いのだが、片や大斧を担ぎ、片や空中に十数本のクナイを浮かせていて一般人から見れば恐ろしいことこの上無い。


 もっとも、彼女らは長屋の屋根の上に居るので、あまり視認されることはないのだが。


「ったくよー。なんでヒナゲシばっか一緒にいんだよ。あたしなんて最近全然、話すらできてねーのに」

「そ、それはライカちゃんがリューキ様の部屋に入るのをずっと躊躇ってるからじゃぁ……」

「うっせー……な、なんで前はあんな抱きついたり出来たんだあたし……あほかよ……」

「は、恥ずかしいのです」


 ところで、この二人。ちょこちょこと会話を交わすことはあるものの、ファリンがよく出払っているので、周りには仲が良いことをあまり知られていない。

 だが、なんだかんだで同年代ということと、村からの仲ということも相まってこうして有事には二人で寄り合う。


 竜基がとられたままで居られるか、というライカの意気込みであった。


「……で、でも、みーにリューキ様の尾行なんて……!」

「おめーいつもやってんじゃねーか」

「あ、あれは尾行じゃないです! リューキ様をお守りしてるんです!」

「一緒じゃんか」

「違うんです!」


 猛然と首を振って否定するファリンに、ライカはやれやれと肩を竦めた。いずれにしても、竜基とヒナゲシがよからぬことに及ばないかという不安はずっと付きまとっているのだ。それをどうにか出来ない限り、ライカの心に平穏は訪れない。具体的によからぬことと言って思い浮かぶのは、せいぜいがキスくらいのものなのだが。


「あのー、ちょっといいですか?」


 そんな時だった。

 屋根の下……サブウェイから一本外れた道から、声がかかったのは。


「ん? ハルトじゃねーか」

「ハルトさん、さっきからずっと居ましたけどなにかご用ですか?」

「気づいていたなら声かけてくれてもいいのでは……?」


 二人揃って眼下に視線を落とせば、手を振っている金髪の文官。ハルト・ド・セイヴェ――この城に、ヒナゲシと竜基の補佐として修行にきている青年だった。

 ファリンは最初から居ることを知っていた風だが、あえて無視していたのかとハルトは若干涙目になる。

 だが、善良なファリンがそんなことをするはずもなく。


「ち、違うんです! またヒナゲシさんに言われてお買い物かと思ってました!」

「……ヒナゲシさんも大概ですよね、ほんと。そんな共通認識ができあがるほど僕をこき使って」

「でも仕事量はハルトさんが一番少ないですけど……」

「言わないで! 僕はまだまだってことくらいわかっているんです!」


 屋根裏からちょこちょこ竜基の執務室を覗いているファリンだから、周囲の事情くらいはほかの誰よりも知っているのだった。

 ハルトは小さくため息を吐いてから、ずっと上に向けているせいで違和感が生じ始めている首をさすりつつ、ライカとファリンを見やる。


「で、何の用だよ」

「ああ、それなんですが。うちの上司たちのお出かけ、追跡するのをちょっと遠慮してもらいたいなって」

「……なんでそれ知ってんだ」

「ライカが訓練場を飛び出した理由を兵士から聞いたからですよ……」

「うぐ」


 なぜそれを。とお、腕を引いて嫌な顔をするライカ。隣で困惑するファリンと合わせて、ハルトは諭すように言葉を続ける。


「リューキさんはああ見えて最近とても疲れています。それを副官であるヒナゲシさんが、気晴らしにと。そういう訳なので、リューキさんを疲れさせたくないんです。全然お休みを取れない人ですし、今日くらいは」

「……変なことしねーだろーな?」

「……男女の仲という話はお聞きしていませんから、たぶん大丈夫かと」

「……だ、男女の仲…………」


 さらに表情をひきつらせるライカだが、しばらくうんうんと唸ってから、ファリンを一瞥して、頷く。


「わぁった。け、けど、それでヒナゲシとリューキがくっついたらハルト焼くからな!!」

「冗談になってないところがやたら怖いですねぇ!? ふぁ、ファリンさんも何か言ってください!!」


 大斧を担ぎ、威嚇するライカ。魔剣使いにそんなことをされては本当に死んでしまう、と隣の少女に助けを求めるが如く視線を向ければ。


「……」


 大量のクナイが彼女の周りに浮遊して、かつ切っ先は全てこちらを向いていた。

 ついでに瞳にハイライトがない。


「……ふぁ、ファリンさん?」

「えっ!? あ、いえ、はい!」


 一瞬のうちに消滅したクナイの群。

 ほっと一息つけたが、なんだか本性を垣間見た気がしてならない。


 とりあえず、やれることはやったのだ。あとは、ヒナゲシがどうにかするだけ。


『りゅ、竜基と出かけてくるから!!』

『お、デートですか?』

『そ、そそそんなんじゃないし!! いいかいハルト! 僕はそんなにね! 不埒な言い方は……!』

『この前ヒナゲシにデートに誘われた、ってリューキさんが』

『い、いいいい言ったかも! 言ったかもしれない、けど!! けど!! でもそ、そんなあれではなく!』

『らしくない論理の欠けた物言いですが……それも悪くないと思いますよ。ほら、堂々と"デートに行ってくる"と言ったらどうですか。そしたらちゃんと仕事のフォローもしておきますから』

『…………で、デートに行って、きます』

『視線が泳いでるわ顔は真っ赤だわ……ヒナゲシさんは表情豊かですね』

『う、うるさいな!! じゃ、じゃあいってきます!!』


 思い返すと、愉快な上司だ。

 だが。


「……ちゃんと結果出してくださいよ? これだけフォローしてるんですから」


 願わくば、あの二人の上司が幸せになれるように。

 ハルトは小さく口元を緩めてから、城に向かって歩きだした。


「さぁて、もう少し仕事頑張らないといけませんね」

















 ヒナゲシと竜基の二人は、サブウェイを通り抜けた後、しばらく南に向かって進んでいた。その奥になにがあるのか、知らない竜基ではない。だが、黙って先導するヒナゲシについていくことしか、できなかった。


 こっちにはなにもない、戻ろう。


 そう言うことだってできる。実際確かに、二人で息抜きに出かけるという目的の上では、サブウェイの裏手、その南方面には何もない。


 だが、逆に。別の理由があれば、当然その奥に"ナニカ"はあった。

 陽の当たる心地良い丘。城下街の中でも、とある目的がなければ人が近づかない神聖な場所。


 夕暮れの近くなってきたこの時間、当たり前のように人は居ない。


 元々一般市民が来るような場所ではないのだ。王城にてそれなりの地位がないと入れない場所。証拠に、見えてきた入り口の前には門番の兵士が二人立っている。


 ヒナゲシはそこを顔パスで通りぬけ、鉄製の門を開けて中に入った。

 竜基も兵士に軽く礼を言ってから内部に入り、赤く染まった陽光を背に受けながら、ヒナゲシの背中を追う。

 どう、声をかけたら良いのかなんてわからない。

 それ以上に、この場所に一歩一歩足を踏み込む度に胸がずきずきと痛む。


 此処は、墓所。


 それも、エル・アリアノーズ軍に関係のある者だけが入っている墓所だ。


「……いつの間にか、あれから一年以上も経っているんだね」


 背中を向けたまま、夕焼け空を見上げてヒナゲシは言った。


「昔話を、してもいいかな?」


 振り向いた彼女の表情はとても儚く、そして綺麗だった。

……はい、次回あれです。


共通ルート ヒナゲシ#2 です。分かってたことなんや……分かってたことなんや……なんでみんな予測出来ちゃってるの……こわいよ……

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