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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
日ノ本ノ国、この世界
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ep.69 新たな魔剣使い




 建国より三ヶ月の月日が経とうとしていた。大陸暦198年も間近に迫り、民の目にもようやく「アッシア王国が無くなったのだ」という認識が強まっていく。

 目に見える戦いを終えても、まだやることは山積みだ。むしろ今から始まる"目に見えない戦い"こそ、アリサの目指す「豊かで優しい国」にとって重要な"国づくり"そのもの。


 さて、その新興国エル・アリアノーズにあって、アリサと竜基の主従二人は現在、国の中央部に位置する古き街……あの戦いがあった"旧王都"を訪れていた。


 クサカが死に、新たな国の御旗が立った、最終決戦の場所。


 三ヶ月経った現在は、大きな爪痕を残した戦いの処理も終わり、外壁や内装の修理に人々は取りかかっていた。

 とはいえ、この旧王都というのは貧困層と富裕層の差が激しかったせいかスラム街が非常に目立つ。


 生きている人間の顔に蠅がたかる光景など、竜基とて見たい訳ではなかったが……だが目を背けることは余計に出来なかった。


 現在はその貧困層への救済措置として、援助や、働ける者には仕事口の斡旋、キャンプを作っての人々の暮らしの安寧を図るべく、書類仕事に追われている。


 先の戦争にて力を発揮したシャルルやセイヴェルン卿が旧王都の問題解消に着手している他、軍備関係に当たっては外部顧問としてリューヘイをおいている。もうしばらくの間はエル・アリアノーズに滞在するとのことであったので、竜基が任せていた。


「……それで、シャルルからの報告書にあったけれど、宝物庫に思いの外いろいろあったの?」

「みたいだな。で、その裁量だけはアリサがやらないとまずいってことだよ」

「……そりゃまあ、そうね」


 そして、もう一つの、旧王都を訪れた理由。

 アリサと竜基は今、旧王城地下にある宝物庫の前に居た。頑丈な鉄の扉、その閂が兵士によってはずされるのを眺めながら、二人は会話を続けていた。


 なんでも、いくつか特殊な宝物があって手出しが出来ないのだとか。

 アリサ直々に判断を委ねられる宝物とは一体、という話ではあるが、竜基もアリサも薄々の見当はついていた。


「あ、アリサ様~!」


 背後を振り返れば、待ち合わせる予定だったシャルルの姿。長かった金髪をばっさりと切り捨て、駆け寄ってくる。


 彼にも、この一ヶ月で色々あった。

 王都に拘留されていたはずの兄の姿は、地下牢のどこにも無かったのだ。リューヘイたちに助けられてからというもの、王都攻略の際には必ず兄を助け出すと決めていたはずだというのに、その姿がない。


 死んだという連絡も無ければ死体もない現状で、今は手も足もでなかった。


「久しぶりですね、シャルルさん」

「リューキ殿! ご無沙汰しております」


 駆け寄ってきた彼の表情に、陰はない。毎日職務を全うし、今は今出来ることを、との彼の考えには竜基も感化されていた。

 

 ヒナゲシやリューヘイの記憶を取り戻すのも大事だし、いつか日本に帰りたいとも常々思ってはいるものの、今を生きることは大前提としてのしかかる。


 アリサとの、豊かで優しい国を作るという約束もまだ果たした訳ではないのだから、まずは一歩一歩進んでいくことがやはり大事だった。


「で、なのですが……一応アリサ様の命令通り、だいたいの宝物は資金源として捌きました。当然、一定のものは残し、それは分けてあります。……しかし、ちょっと我々では判別しがたいものがありまして」

「基本的には、残すか否かの判断だけすれば良いと思うのですが」

「いえ、我々としては残すべきと判断したのですが、これらに関してはアリサ様にも確認していただく必要ありと考えまして」

「なるほどね。わかったわ、入るわよ」


 開かれた扉を睨み据え、アリサは宝物庫に足を踏み入れる。後から二人も続くように入ったが、竜基の想像していたものよりは、宝物庫というのは簡素なものであった。


 宝物庫といえばもっとこう、キラキラとそこら中が輝いているのを思い描くものだが、その気配は全くない。むしろ雰囲気は温度湿度が一定に保たれた蔵に似ていた。


「左側に避けてあるものは、残すべきだと我々が判断したものです。問題は、正面に鎮座しているその数点――」

「魔剣、か」

「――さすがはアリサ様。さようです、すべて形は違えど、これらは魔剣です」


 三人の前に並べられた魔剣は、三つあった。どれも形は違うというか、そもそも"剣"の体裁を為しているものは一つもなかったのだが……。


 一つはブーメランだった。外周が刃になっており、あまり無闇に触れることは出来なさそうだ。


「結局これも、適合者が居なければ何も出来ないのよね」

「魔剣の大きな欠点でもあるが、むしろ適合する魔剣と出会っている魔剣使いの確率を考えると……惹かれ合う何かはもしかしたらあるかもしれないね」

「惹かれ合う、何か、か」


 思案げなアリサの表情。


 魔剣というものは、適合する使い手と魔剣が邂逅して初めてその力を発揮する。つまるところ、魔剣とその使い手がお互いを自覚しない限り魔剣使いは誕生し得ないのだ。


 目の前にあるブーメランも、きっと未だ姿を見せぬ担い手がどこかにいる。もしかしたら農民かもしれない。騎士なのかもしれない。学者かもしれない。それは、誰にもわからない。


 その担い手候補ないし担い手が死ぬことで、次代へと移り変わるが、その次代も魔剣を手にしない限りは自覚することはないし、魔剣もこうしてただただ適合者を待つことしか出来ない。


 担い手を持たない魔剣はたいがいが研究施設に送られたり、担い手を探す為に国が魔剣を手に村を巡業することもある。

 だがどちらにせよ予算がかかるため、エル・アリアノーズないしアッシア王国では執り行うことが出来ていなかった。


「……それに、そもそもスラム街をどうにかしないことにはな」

「そうね」


 旧王都は、ある種農村よりも衛生管理が行き届いていない節が見受けられた。これでは担い手が誕生しようとすぐに死んでしまう。


 そのあたり、魔剣使い至上主義のオルセイス連盟などは人命に対して、国民に関しての管理がまだ行き届いているほうだった。


「魔剣使いを見つける為の、何か共通点のようなものはないのかしら」

「並外れた力を持っていたり、かな。彼らは常に体内に魔力を宿している。だからライカも平気で俺を担いで遊びに拉致ったりするだろ?」

「それはそれでどうなのよ」


 若干げんなりとして、アリサは竜基を半眼で睨む。そんな主従のやりとりを、後ろでシャルルが楽しげに見つめていた。


「とりあえずこのブーメランはおいておこう。もし担い手が現れた場合に必要だし、敵に渡すくらいなら手元に」

「それが賢明かしらね。……次は、これか。むしろこれが一番得体がしれないというか、なんというか」

「……魔剣、と称するのにこれほど似合わないものもないわね」


 続いて二人が視線をやった魔剣は、本当に魔剣と呼称していいのかさえわからない代物だった。


 なにせ。


「……なにこのたまっころ」

「水晶、と考えるのが妥当だろうな。唐突に子供みたいに指さして服を引っ張るな」


 ねーねーあれなに。

 とふざけ半分で竜基の服の裾を引っ張る彼女に、落ち着きなさいとばかりに両肩に手をおく竜基。まるで兄妹か何かのように見えるその光景とは反対に、怪しげな青白い光を内部に灯す水晶がある。


 得体の知れない、と竜基が言ったのも尤もで。この世界における不可思議なものはだいたいが魔剣と称されるから"魔剣"と呼称したものの……これはマジックアイテムと呼んだ方が早そうだった。


「これにも担い手が居るんだろうなあ」

「まあそりゃ……居るんでしょうけど。この水晶で何をするのかしら。鈍器?」

「まさかの発想すぎて何も言えない。……いや、何か占ったりするんじゃないか?」

「占術? もしかして必ず当たる占い、とか? ……それはなんだか現実味が無いわね」

「水晶を鈍器にする案よりは百倍は筋が通ってると思う」


 じゃあ投げつけるのよきっと。とどうしても物理戦闘に持ち込みたいのか、アリサはそう言ったきり水晶を左側へと避けた。

 ブーメランとともに、保存が確定したらしい。なんだかんだでよくわからないものだし、現状は保持が安定だろうとは竜基も考える。


「で、ラストか」

「ラストだな」


 最後の魔剣。これをより分けて、一応宝物庫での作業はおしまいだ。

 この流れから言って保持の方向にはなるだろうが、二人はどこか楽しくなっていたのだろう。ノリノリで最後の魔剣に目を向けて……竜基は固まり、アリサは首を傾げた。


「……これは、何でしょうね? なんだか、一番剣っぽくはあるけど……それにしては小さいし、こう、ぱっとしないわね」


 その黒い物体を手に取ったアリサはそう言って訝しげな表情を崩さず検分を始めた。いったいこれが何であるのか。剣身らしきものは、ある。せいぜいがアリサの拳三つ分でしかないが。加えて、鞘がない。ガイアスの剣も鞘はないが、あれはあれで全うな剣なのは誰の目にも明らかだ。

 この真っ黒い魔剣らしきものは、どうにも剣と呼称するには抵抗があった。……それも先ほどの水晶ほどでは、ないのだが。


 ところで、自分がひたすら考えているというのに竜基からの返事がない。独り言を言っているみたいで寂しいし、先ほどまでやる気満々で検分していたのだから手伝ってくれてもいいじゃない、と非難混じりの視線を向ければ。


「リューキ?」

「……あぁ、いや。その、魔剣だが」

「なんか持ち手のお尻に穴が空いてて、鍵束に紛れてそうよね、これ」

「まあ、そうなんだけど」

「何よ、歯切れ悪いわね」


 どこかこう、困惑気味にその魔剣もどきを見つめながら、後頭部を掻いて煮えきらない言葉の羅列を吐いていた。


「いや、これの適合者かどうかは知らないんだがな?」

「何よ」

「これが滅茶苦茶似合う奴なら、俺たちの仲間に居るんだよ」

「……は?」


 竜基は、「なぜこんなものがあるんだ。やっぱり伝説の日ノ本ノ国があるからか……?」とつぶやいてから、アリサを真正面に捉えて呟いた。



 この武器の名前は、クナイと言うんだ。



















「あ、あの、りゅ、りゅきしゃま、ここここれはな、なにを」

「いや……プレゼント? かな」

「ひぁ!?」


 どうしてこうなった。


 竜基はため息混じりに目の前の少女を見る。黒装束に身を包み、黒いポニーテール。対照的に真っ赤に染まった頬と、ライカよりも小柄で華奢な体躯。


 一人にして一個。たった一人の諜報機関。


 NINJAファリンの姿がそこにあった。


 旧王都の訓練場はあまり被害を受けていなかったからか広く使え、竜基の斜め後ろには腕を組んだアリサの姿がある。


 適合しなければ宝物庫に戻す、という話ではあったが、なんだかファリンの反応がとても面白くないアリサだった。


「何がプレゼントよ。ファリンもリューキの前でだけあんなテンパってるし」

「まあそう言うなって。……しかし、いい加減俺に対する恐怖心は拭えないものか」

「しんじゃえりゅーき」

「ファ!?」


 不穏な発言を聞いて慌てて振り向くも、唇を尖らせてそっぽを向く少女が一人居るだけ。なんだかいたたまれなくなって正面を見ると、なんだか「待て」を食らって潤んだ瞳でこちらを見る少女。どっちもいたたまれない。


「あ、あのあの、ほ、ほんとうにいただいていいんですか?」

「適合すれば、の話なんだがな」

「あ、が、ががんばりましゅ!! ……ぅぁ」

「……難儀だなあ、この子も」


 ここしばらくは竜基を前にしても噛まなくなっていたのに何故だ。と竜基自身は思っていたが、それは仕方のないことだ。プレゼント、などと聞いて落ち着いていられるほど、小心NINJAの肝は据わっていなかった。


「じゃあ、ちょっとこれ持って」

「あ、は、はい! ……あ、これ」

「…………!」


 片鱗は、あった。


 ライカやガイアスとは別ベクトルでの異常な身体能力。

 殺す気の魔剣使いから逃げ仰せるほどの脚力と動体視力。

 そんな彼女は、もしかしたら魔剣使いの素養があるのではないかと、ひっそり思ってもいた。


 しかし、まさか。


「わ、わ! わわ!!」


 握った瞬間、空中に無数に現れるクナイ。自分で驚いてどうするとも言いたくなったが、それ以上に竜基とアリサは目を丸くする他ない。


「す、すごい! 全部別々に動く……! ぁ、ぁう……言うこと聞いてぇ……!」


 まるで満天の星空が頭上に現れたかのような数に、動揺しながらも徐々に徐々に制御を為していくファリン。

 その表情はゆっくりと、戸惑いから喜びへと移り変わっていく。


「うわ、怖」


 そしていつしか彼女を五重ものクナイの輪が纏い、ゆっくりと彼女を中心に、まるで衛星のように回りだした。


「……"千刃桜舞"」


 ぽつりと、ファリンが呟く。その瞬間、円環の如く彼女の周りを周回していたクナイたちが一斉に上空へ解き放たれ、訓練場の壁に幾重にも突き刺さった。その刺突時の壮絶なまでの轟音たるや、まるでガトリングでも掃射したかのようで。


「わ、わ! すごいです!! よ、よくわかりませんがありがとうございますリューキ様!!」

「うのわ!? おま、おまクナイ持ったまま抱きつくな!!」


 いつの間にか消滅した大量のクナイに、感極まったファリンが竜基に抱きつく。


「あ、こら! なんでそういう時だけアグレッシブなのよ!」


 えへへと嬉しそうに笑う彼女が自分のしていることに気づき、恥ずかしさでまた大量のクナイを噴出させるのは別の話。





 エル・アリアノーズに新たな魔剣使いが誕生した瞬間だった。

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