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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 最終章
68/81

ep.66 王都急襲戦(下)

本日8/10の更新は前々回(ep.64)より始まっております。どうぞそちらから三本続けてお楽しみください。

 玉座の間に轟音が響きわたる。



「うるぁあああああああああ!!」

「フッ……!!」


 ウルフレーダの鋼糸とリューヘイの変幻自在が至るところでぶつかりあう。ぎゃりぎゃりと互いの鉄を削りながら火花を散らし、すべてが相殺されてはまた攻撃に翻りの繰り返し。

 右手を振るうウルフレーダの表情も、先ほどまであった余裕は消し飛び歯を食いしばっている。それだけリューヘイという男の魔剣が恐ろしい証拠だが、むしろそのリューヘイの魔剣である変幻自在を全てはじき返すという所業がもはやその強さを物語っていた。


「っは、相変わらずリューヘイ殿は強いねぇ!!」

「余裕ぶってんじゃねぇ……!!」


 変幻自在の黒き無数の鞭がウルフレーダの顔面めがけて襲いかかる。軽くバックステップしてそれを回避すれば、彼が元いたフロアがものの見事に微塵へと姿を変える。


 恐るべきはその切断力と、膨大な魔力。


 リューヘイという男の魔剣、オルセイス連盟でも最強認定が下されたこの男の強さは、ただ単純な広範囲無双ではなく、その黒き刀が踊り狂う間一切の攻撃が魔剣によって弾かれる堅牢さにあった。


「ッチィ、ぜんっぜん攻撃に回れねえの。さすがだねリューヘイ殿」

「……お前もここで塵に変えてやる」

「それはごめんだな!」


 へらへらと、表ではそう笑う。だが、口を開くことに回す脳のキャパシティすらもったいないのも事実だった。

 リューヘイという男に限り、"魔力切れ"の可能性は殆どないと言っていいだろう。ましてや、し向けた二千の兵も隣のガイアスという男と一緒になって軽くのしてきたくらいだと言うのだから。


 その分の魔力など微々たるものにすぎないだろうし、ウルフレーダの魔力総量と比較しても、まだおそらく余りあるほどの魔力を控えていると見て間違いないだろう。


 リューヘイという男は、伊達に大陸最強ではない。


「ってなるとぉ、あっちに期待がかかるねえ」


 黒き斬撃を凌ぎながら、一瞬だけ視線を向けた先。そこでは大斧を構えるエリザの手下の魔剣使いと、ガイアスという男が相対していた。


「こんなど田舎にリューヘイ殿とタメ張れる魔剣使いが居るとか考えたくなかったなぁおい」


 嘆息するも、ウルフレーダの言葉に悲壮感は無い。

 なぜなら、魔力総量で言えばあのガイアスという男は、リューヘイほどの脅威ではなかったからだった。


「オラオラオラァ!!」

「ぬぐ……ふん!!」

「うおっと!」


 ましてあのバトルアックス使いは地面を隆起させる力を持つ防御型の魔剣使い。"風"という、攻撃には余り向かない能力を武器とするガイアスとは相性が良いといえるだろう。


 いや、そんな強引なバトルスタイルでリューヘイとタメを張れるほどの威力をもっていることがもうウルフレーダにとっては訳が分からないのだが。


「世の中広いねえ!」


 ウルフレーダはそう快活に言って、リューヘイの猛攻を跳ね除けていく。


 余裕はある。なぜならば、こちらにはまだ、隠し玉があるのだから。


 エリザにちらりとアイコンタクトを送れば、彼女は小さく笑って頷いた。

 良い性格をしていると思う。それを言ったら、自分もそうなるのだが。


「うおりゃああ!!」

「っ!?」


 その時だった。地面が突然真っ赤に熱を帯びたと思ったら、火柱として噴き上がったのは。まるで火山の噴火のように、次々と別の場所から火柱が噴き上がる。


「なんっだっ!?」


 聞こえた声の主を見れば、一番戦力として数えていなかった魔力の少ない赤髪の少女。彼女が斧の石突を地面に叩きつけ、魔力を蜘蛛の巣のように張り巡らせている。


「まさかあの幼女……!!」





「灼熱・炎陣よ地を舞踊れ!!」





「バースト持ちかよ赤髪幼女!! ふざけんな魔境かアッシアは!!」


 舌足らずな声で叫ぶ赤髪の少女だが、その威力ったらバーストなのだから恐ろしい。地面から次々至るところで噴出するあの火柱に触れれば、たちどころに体くらい蒸発しかねない。


「ぎゃあああああああああああああ!!」

「おいおい、やられてんじゃねえかエリザの魔剣使いよぉ」


 ちらりと見れば、バトルアックス使いは回避が間に合わずもろに地面から焔の粛正を受けていた。一瞬にして炭と化した男から、からんとバトルアックスだけが落ちる。魔剣というものは、自分のもそうだがどうしてこうも壊れないのか若干謎ではある。だがあの焔を食らえば自分も炭になることが把握出来ただけよしとしたいのがウルフレーダの本音だった。


「っち、厳しいなぁ……」


 舌打ちして、リューヘイをちらりと見る。どこから火柱が上がるかわからないのに、軽やかなステップでどんどんとウルフレーダを追いつめるあの肝ッ玉は見習いたいと思いつつ……嘆息した。


「しゃあねえわ。バーストってもんが知られてる場所ならまぁ……俺もちょっと本気出すか。っと、いや、その前にあれか。エリザの策がはまれば逃げちゃってもいいか」


 エリザを見れば、余裕の表情で自分の後ろにたたずんでいた。どっちかと言えば守りながら戦うのは面倒だからいなくなってほしかったが……作戦を考えればそれも仕方のないことかと割り切る。


 とりあえずは、エリザの策が発動するのを待つとしよう。


 そう思った矢先に、事態は変転する。

















 ウルフレーダとリューヘイ、バトルアックス使いとガイアスの激闘を、竜基、アリサ、クサカの三人は玉座の間の入り口付近から見守っていた。これ以上離れれば危険だし、近づいても危険。そのぎりぎりの箇所で戦況を見守ることしか出来なかった。


「こういう時、戦えないっていうのは歯がゆいな」

「む? 竜基は"戦いたくない"と申しておったが……」

「そんな、自分の感情を優先して良い時じゃないことくらい俺も分かってる。あいつらに任せるしかない、守られるだけの存在であることが、申し訳ない」

「ふむ……」


 クサカと、言葉を交わす。

 瞳は戦闘に向けたまま、こうするしか出来ない自分が悔しかった。

 エリザをとらえに回ろうにも、玉座の最奥に佇む彼女のところに行こうとすれば確実に戦いの邪魔になるし、命はないだろう。


「でも、ライカのバーストさえ始まれば勝てるわ。その機を狙いましょう」

「……そう、だな」


 腕を組むアリサは、そう言ったきり戦況を睨む。彼女が一番、エリザと決着をつけたいはずだった。その彼女が動かずに我慢している以上は何も出来はしなかった。もとより出来ることなど何もないのだが、それでも。エリザを倒し、この城に旗を立てることが出来なければ、革命は成功ではない。今まで戦ってきた自分たちに申し訳ないことだけはしたくない、というのが本音であった。


「でも……エリザは何であそこにいるんだ……?」


 その疑問に、クサカとアリサは一様に竜基を見た。どういう意味だとでも言いたげなその目線に、竜基は自分の考えを口にする。


「エリザは俺たちと違ってここに居る必要はない。ウルフレーダも、彼女が早く逃げた方が消えやすいだろう。それなのに彼女が居る理由。いやそもそも彼女が玉座に俺たちをおびき寄せた策は、リューヘイさんが俺たちと共に居た段階で破綻してるはずなんだ。なのに、どうして……?」


 エリザがそこに居るのは、なぜなんだ。


 思考を働かせながらちらりと、エリザを睨んだその時のことだった。

 視線を併せてニヤリと笑みを浮かべた彼女を見た瞬間、竜基の脳裏で全てがつながる。


「自分たちをここに居させる為……? 違う! 俺たちをここに釘づけにする為だ! まさか!」


 気づく。魔剣使いは今眼前で必死に戦っている。ライカも合わせ、敵には二人、こちらは三人で有利な戦いを行っている。


 だからと言って……






 相手の魔剣使いが二人だけだなどと、誰が言った?







「灼熱・炎陣よ地に舞踊れ!」


 ライカのバーストが発動する。


「ぎゃああああああああああ!!!」


 バトルアックス使いが死滅する。

 チャンスだ!


「ガイアス、戻ってきてくれ!!」


 叫ぶ竜基の声を聞いたかガイアスは振り向き、


 その瞬間、目を大きく見開いた。


 ガイアス、それはどこを見ている。


 まさか、自分たちの背後ではなかろうな。


 イヤな汗をかき、振り向く。


 そこには。


「絶牙・螺旋獄の針閃!!!」

「ルー・サザーランド!?」


 幽鬼の如く生気の抜けた金髪の男。


 竜基が振り返り切るよりも先に右手に装着された太い穿針が振り上げられる。


 その標的は、アリサ……ではなかった。



「リューキ!!」


 アリサの悲鳴が上がる。どこから現れたのか分からないルー・サザーランドの狙い目は、明らかに自分……竜基だった。


 狙われるは心臓。回避は間に合わない。


 その針が纏う棘すらも視認出来る至近距離。


 貫かれる。


 そう、脳裏を掠める言葉。


 どうしようもない状況に出る後悔は、もっと早く気づけばよかったというもの。


 背後でエリザが、嗤った気がした。





「ぐあああああああああああああ!!!!!」


「……え?」


 断末魔をあげるべきは自分。


 ならば何故、痛みすら感じることなく立っていられるのか。


 針の切っ先は、竜基の心臓を穿つ直前で止まっていた。


 何故か。ルーが寸止めした訳でもない。


 答えは簡単で、ブレーキがあったからだ。


 ブレーキ?


 そういえば、竜基にはさっきからルーの姿が見えない。


 その代わり、眼前に突きつけられた切っ先からぽたぽたと垂れる、鮮血。


 そして、広い、背中。



「……ぁ?」


 混乱する、竜基よりも先に。


 激昂する怒鳴り声が響きわたる。



「てえめええええええええええええええ!!!!」


 竜基の右耳ぎりぎりを掠めるように、風の刃が突き抜けていった。


 その先で、どさりと倒れる音。同時に、目の前にある針が、ずるり、と引かれていった。


 金属音を地面に鳴らして、ころころと転がる。


「クサカアアアアア!! 無事かおおおおい!!!」


 駆け寄ってくる、足音が背後から。声と、そのどたばた音でガイアスだとはっきり分かる。


 じゃあ、心配してるのは自分ではなく、クサカなのは何でだ?


「…………く、さか……?」


 両手を抑えて、涙を瞳にためて立ち尽くすアリサ。


 何だそのリアクションは、と竜基は思う。


 まるでクサカに何かがあったみたいじゃないか。


 ……何かが、あったみたいじゃないか……。



 どさり、と、音がして。竜基の前にあった広い背中は視界から消えた。その代わりに、風の刃によってまっぷたつにされたルー・サザーランドの姿が見える。


 ああそうか、さっきの風の刃は、ルーに向けて。


 じゃあ、倒れているのは誰だよ。


 誰だよ、おい。


 胸に風穴ぶち開けて、どくどくと赤黒い血を流しながら倒れ伏しているのはいったい誰だ。




「ちっ、ナグモ・リューキを殺すことはできなかったのね」

「じゃあま、逃げるとしようか!」


 リューへイとライカが気を取られた一瞬を使い、ウルフレーダとエリザは姿を消した。


 ルーは、結局最初から捨て駒だったということか。


 引き替えに倒れたのは、いつも豪快に笑っていたはずの、好漢。


「うそ……だろ……」


 膝をつく、竜基。崩れ落ちるように、自分を庇った男を見る。


「……りゅう、き……」

「っ!? クサカ!! 息があるのか!! おいガイアス! 医者を呼べ!! 誰でもいい! どっかに居るだろ!!」

「……それよりリューキ、クサカの声を聞いてやれ」

「んなこと言ってる場合かよ!! 死にそうなんだぞ!! 早く!! ガイアス!!」

「リューキ、聞いてやれ」

「……なんだよ、その顔はよ。早く行ってやんなきゃ、クサカ死んじまうぞ!!」

「リューキ!!!」


…………聞いてやれ。


そう呟くガイアスの言葉には、どこか強い、重さがあった。


「なん、で…………!」

「……りゅ、うきか……無事で……よかった……」

「あ、ああ……大丈夫だ! ……すまない! 本当に…………なんで…………!」


 すでに、顔は青白く。竜基は血に塗れるのもかまわずに、その手を握り目を向ける。


「……ガイアス」

「おうよ」

「お嬢と……りゅうきを……頼んだぞ……!」」

「任せろ……俺の根性にかけて……必ず」


 胸に手を当てて、ガイアスは一度頭を下げた。その瞳から、小さく何かがこぼれたことを、指摘する者はここには居ない。


「……らいか」

「おう……まだ生きてっか……?」

「ああ、まだ、な。おまえさんの、かっくぃい……姿が、最後に見られて……よかったよ……」

「しんきくせえ……」


 顔を背けるライカに、小さく笑みを浮かべると。


「リューへイ……」

「俺にも、何かあるのか?」

「そりゃぁ……な。……りゅうきを……頼む……」

「分からない、相談だな?」

「……いずれ後悔しない為に……儂のよう、に……後悔しな、い……為に……頼んだぞ……竜基を……!」


 訝しげな顔をしつつ、リューへイは頷いた。


「……お嬢……」

「クサカ……ごめんね……なにも……あなたに恩を返せなかった……」

「いいんじゃいいんじゃ……こうして、国が立つというのなら……それもまた……一興……。それよりも……良い国を……つくってくれよぉ……」

「ええ! ええ! もちろんそのつもりよ!」


 満足そうな、笑みを浮かべて。


 最後に、竜基にクサカの目が向いた。


「……のぅ……竜基……」

「……俺のせいで……本当に……すまん……!!」

「いやいや……良い、夢じゃった……まさか、本当に……軍人に……なるとはのぉ……」

「…………ぇ?」


 先ほどからの……クサカの言葉。

 リューへイに向けての時に、感じた違和はいったいなんだ。

 そして、今もどこか必要以上に感じる親愛の情は、いったい、なんだ。


「おまえを……庇う……直前に……」

「……おい、クサカ……おまえ……おまえまさか……!!」


 穏やかに、頷くクサカ。


「草鹿……さん……!!!」

「ほっほ……あれだけ必死で……おまえさんが取り戻そうと、してくれて……うれしかったよ……」

「おい……なんだよそれ……あんまりじゃないか……!! あんまりじゃないか!! そんなの……そんなの!!」

「いやぁ……竜基よ……」

「なんだよ!!」








 強い奴に、なったなぁ。










 うれしそうに微笑んで、クサカは息を、引き取った。



「ぁ……あぁ……」


 静かに瞳を閉じた老兵の前に、跪く少年が一人。



 あんまりな、ことだった。




 あまりに、クサカが不憫だった。




「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




 玉座の間に、少年の慟哭が響き渡った。

























ザザザ……















「――さん……――さん……聞こ……すか……?」


 まるで深海から海面へ浮上するかのように、ふ、と意識が戻ってくる。


 なんだろう、どこかに、いたような……そんな……。


「――かさん。草鹿さん。大丈夫ですか?」

「……んむ? ……ここは、いったいどこだ……?」


 視界が開ける。目の前の女性は、ピンク色の衣装に身を包んだ不思議な服装……いや、自分はこの服を知っていた。


 数十年前の、記憶。


「ここがどこか? 自衛隊横須賀病院ですよ。草鹿さんが行方不明だと思ったら、道端に倒れていると連絡があって……」

「じえいたい……よこすか……!?」


 思い出す。自分が、今まで何をしていたのかを。


 そして、何が起こったのかを。


「……すみません、今何年ですか?」

「何を寝ぼけてるんですか。2013年に決まってるじゃないですか」

「2013……」


 意識が途絶えた、あの時と同じ。


 病室の窓の外を見れば、まだ木々は寒そうなままだ。


 自分が意識を失った、1/21からどれくらい経っているのかは分からない。


 だが。


 むくりと上体を起こし、ベッドを這い出る。


「ちょっと草鹿さん、どこに行くんですか?」

「いや、なに」



 この儂を、神隠しに合わせた野郎を探しに行くだけさ。


 止めようとするナースに、手をノブにかけたまま振り返り、小さく笑った。






次週、"エル・アリアノーズ戦記最終章"エピローグ




 ……あ、今日からまたちゃんと感想返しを始めようと思います。昔のも、時間がある時に順番に返していくので、今後とも魔剣戦記をよろしくお願いいたします。

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