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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 最終章
63/81

ep.61 王都平原の戦い(下)



 トルネ山に仕掛けられた火計。天候的に相性が最悪のこの計略を使ったことで、ルーは完全に裏をかかれる形になった。

 あれだけ大仰な陣を組み、総力戦の様相を見せておいての兵糧庫への急襲。炎の魔剣使いが戦いに参加していなかった理由は、そこにあった。


「おのれぇ……!!」


 今、自らの主君であるエリザは焦っている。

 なればこそ、急いで戦いに決着をつけなければならなかった。双方の兵力を徹底的に削った、その上で。


 だと言うのにこのザマは何だ。兵糧庫の番、トルネ山の警備はなにをしていた。

 怒り心頭、ルー・サザーランドはその感情のままに敵陣営の中枢へと自らを駆る。

 魔剣使い、それも暗殺を得意とする彼だからこそ出来る、敵陣内への単騎駆け。衝動のままに目指すは、自身が元々狙っていたターゲット……ナグモ・リューキの殺害。


 最低限の敵のみを狩り、背後を省みず突き進む。敵の陣形が変化したからこそ、壁も薄くなり突破も難しくなかった。


「殺す……殺す殺す殺す!」


 滾る憎悪の焔。

 兵糧を焼かれた、ただそれだけではなかった。ルーは完全にハメられた。ルーを自陣営へと縛り付け、その思考を読み尽くし、加えてルーが考えていた総力戦すら……敵兵力の削減すらままならない。

 当然、当初の予定にあった持久戦も不可能であるし、戦闘回数を重ねることすら出来やしない。

 加えて、どんなに命令で攻撃を命じようと、兵糧が焼かれている時点で逃走兵の続出は免れない。


 最上の一手。

 ルー、ひいては王都軍の思惑を完全に潰し、自らをほとんど傷つけることなくこの戦場を支配した。


 直前の雨、魔剣使いの人数、そして総力戦に備えた陣形。


 その全てをブラフにし、一気に急所を突く。

 王都軍敗走を決定づけるようなその策略に対し、しかしルーはそれで退くことをしなかった。


 食料を失って尚、突撃を敢行。トルネ山の状況など気にする暇もないくらいに戦わせ、少しでもアリサ軍の兵力を削る。


 そして、自分は、元凶を叩く。


 王都平原、この場所の戦いはどんなに足掻いても敗北が決定している。

 だからこそ、ただでは終わらない。

 王都での守城戦で勝つために。少しでも。


 疾駆するその速さに、ついて来られる兵士など存在しない。敵も味方も、誰一人ルーの高速機動には縋りつくことさえ出来やしない。

 だからこそ、目的を達成出来るというもの。

 魔剣使いの、その力。その力を使うからこそ、こうして敵の本陣に突貫することすら容易い。


 だから……


 だから、その首を、


「その首を……!!」


 陣中の広場。攻撃に加わらず戦況を望むその場所に、奴はいた。

 この戦い、ひいてはアッシアの未来において一番の邪魔になるであろう怨敵。


 彼はただ一人で佇んで、戦場のある方へと目を向けていた。


 刺し殺す。


 この男だけは、主の障害になることが間違いない。

 エル・アリアノーズが予想より早く建立したのも、全て、全てこいつのせいだ。それはエリザより教えられたこと。推測していた未来全てを覆す可能性がある、それだけの力を秘めている、最悪のアンノウン。


 ナグモ・リューキに対する評価は、微妙に運命を変えるかもしれない程度の存在から、危険因子にまで跳ね上がっていた。


 エリザが、いつそのように意見を変えたのかはわからない。

 だが彼女には彼女の考えがあり、いつも彼女の答えは正しかった。

 その影に誰かが居ようと、エリザを絶対とするルーには、関係のないことだった。


 だから、その首は、その首だけはもらい受ける。


 ナグモリューキの計略は全て当たった。それは、どうしようもないこと。

 だがルーとて、反撃を用意したのだ。

 兵糧を焼かれて、それでも総力戦を仕掛けると、果たしてナグモリューキは考えただろうか。

 そして今、こうしてナグモリューキの首を最優先に狩りにくると、そう考えるだろうか。


 この戦いにおけるルーの、たった一つの報復。


 それが、ナグモ・リューキを消すこと。


「その首を寄越せ!! ナグモ・リューキイイイイイイ!!」


 螺旋獄針!!


 唱えた言葉は魔剣を発動させる祝詞。

 右腕に宿る針の魔剣が、唸りをあげてナグモ・リューキの背後に迫る。

 しかし、そこで違和感。


 ルーの怒声を耳にして、振り返ったその、ナグモ・リューキの表情。


 なぜだ。



 なぜ、そんなに冷静だ。



 だが、ルーの速度をもってすれば、魔剣使いでもない男を一人葬ることくらいは容易。

 負けは無い。


「死ねええええええ!!」

「……そう、なるよな」


 鬼の形相で迫るルーに、今こいつはなんと言った。

 そうなるよな? 何だその、見透かしたような発言は……!


 苛立ちよりも先に、襲いかかるは生存本能が鳴らす警鐘。


「なっ!」


 飛び退いた足下が砕かれた。冗談のように、大地が割れる。

 横合いから剣が振られたのだと気づいた時にはすでに、ルーはその間合いを脱していた。

 何事かと前を見れば、冷たい瞳でルーを見る少年と、庇うように立つ……尋常で無い覇気を纏う青年。

 先ほど、単独で王都軍の前線を打ち砕いた魔剣使い……!

 

「流石軍師ぃ! 魔剣使いがのこのこ俺のところに来ることまで読んでいたとはな!!」

「ガイアスのところというか、俺のところなんだけど」

「ハッハッハ! 細かいところは気にするな! アリサ様を守る為自ら囮になるその精神、良い根性だ!!」


 剣を肩に担ぎ、片目に切り傷を持つ隻眼の青年はそう笑う。


 これが、アリサ軍の魔剣使い、ガイアス・ベルザークか。


 冷たいものが流れる。だが、ルーはナグモ・リューキさえ殺せば良いのだし、加えて言えばガイアス・ベルザークとて、この前やり合った"黒き龍"リューヘイよりは強くないはず。


 そう自分を鼓舞し、ガイアスに向けて牽制の針を一本飛ばしてバックステップ。

 次の瞬間、ルーが予想だにしなかった事態が起こり、思わず目を見開いた。


「……なんだこの玩具(おもちゃ)ァ。テメエ根性足りてっか?」

「あの針を……掴むだと……!?」

「軍師の言ってたヨージ? だっけか。あれに似てんな」


 ぽい、と掴んだ針を捨てるガイアス・ベルザーク。

 ちょっと待て。何だ。

 

 ルーは今、目の前の男に対して、あのリューヘイの時以上に脅威を感じていた。


「ぐっ……! 螺旋獄針!!」


 そうだ、ナグモ・リューキを殺せば勝ちなのだ。

 この怒り、たとえ前にガイアス・ベルザークが居ようとも変わらない。

 針を無数に飛ばす攻撃に合わせ、高速機動で突貫をかける。


 ガイアスがその針を、リューキに当たらないよう弾くその一瞬の隙を突き、ガイアスの横をすり抜けーー


「風ってのは、纏う根性の証だ! ぬん!!」

「ぐはっ!?」


 突如ガイアスを中心に巻き起こる風圧に、たまらずルーは吹き飛ぶ。

 もんどり打ってぬかるんだ地面へと転がるルーは、目の前に起こっている事実に呆気に取られた。


 先ほどの剣が、黒い暴風を纏い振り被られている。目の良いルーだから見えた、黒い風に少しでも触れた幕舎の布が、削れるように消滅したのを。


 あれは、やばい。


「天地開闢!!」


 祝詞を唱えた瞬間、爆裂したように黒い暴風が勢いを増す。


 振りおろす攻撃に、ルーはあわてて回避を試みようとして無理矢理に体を起こし少しでも遠くへと走り出す。

 しかし、その速度よりも遙かに速く、風の大剣が振り下ろされた。


 凄まじい轟音とともに、ルーの意識は溶けて消えた。



















「あー! 疲れる!! 心地良い疲労だ!!」

「おい」

「俺のこの爆砕する魔剣こそ、最高の名器!!」

「おい」

「いやしかし、今回もすばらしい読みだったぞ軍師!!」

「おいってば」

「……む、何だ軍師よ。何でそんなに不機嫌なんだ」

「……どうすんだ広場」

「……兵士たちの隊列場所を変えれば良い」


 数千の兵士が整列し、先ほど戦いに向かった広場。人っ子一人居なくなったその場所は、彼らの帰還を待たずしてクレーターへと姿を変えていた。


 その、クレーターの発端とも言える切り口の位置に、二人の男が居た。

 南雲竜基と、ガイアス・ベルザーク。

 気持ち良さげに伸びをするガイアスとは別に、隣に居る竜基は浮かない顔だ。

 夜中だと言うのに響いた凄まじい轟音に、しかし陣内の見張りは驚きもしない。ガイアス・ベルザークという男を知っていればこそ、最初は「なにが起こりましたか!?」と駆け寄ってきたが、竜基が無言で隣の男を指さすなり「あっ……見張りに戻ります」と持ち場へ帰っていくほどだ。


 いやな意味で、アリサ軍は統率がとれていた。


 それはともかくとして、だ。ルー・サザーランドがやはりと言うべきか本陣をねらってきた事実に、竜基は予測をますます確信の域にまで突き詰める。


「考え事か? 軍師」

「ああ、やっぱり奴ら焦ってる。いや、それは良い。後で考える。今はこの戦いを締結させることだ」


 トルネ山に向かったライカ隊は、すでに山ですることは全て済ませて敵軍後方へと突貫し、王都軍は総崩れになっている。全てが作戦のうち。何の問題もなく、美しい勝利を飾ることができた。


 既にクサカやセイヴェルン卿が動き、総仕上げに移っている。終局は間近と言ったところだろう。


「派手にやったわね……もう、ガイアスが居たとはいえ、危ないことされると心配なんだけど」

「アリサ」


 剣を担ぐガイアスと、その横で思考の海に沈んでいた竜基の元に、護衛を数人従えてやってきた少女。グリアッドも背後に立って、何やら安堵のあくびをかましていた。


「いや~、魔剣使いが来なくてよかった~」

「護衛がそんなこと言うなよ」


 呆れる竜基の言葉もどこ吹く風。なんだかんだでやるときはやる男だと分かっているから、グリアッドに対してそれ以上の小言は無用だろう。


 暗闇が深くなったとは言え、たいまつの明かりが陣を照らし出している。

 とにかく、ここからは戦後の片づけをしなければいけない。


「とりあえず、私は捕虜のところへ向かうわ。こちらにきっと、ついてくれると思うの」

「そうだね。俺は兵士の慰労の為に、宴会の用意でも手配させるとしよう」


 わ、と勝ち鬨が上がった向こうでは、シャルルが敵将を討ち取ったらしい。

 王都への戦いが控える今だが、だからこそ心を休める必要があった。


「分かった。じゃあ、任せるわねリューキ」

「おう、そっちも」


 会話も短く、アリサと別れて。

 控えていた兵士にことの次第を伝えると、竜基はもう一度広場へと目をやった。もはや広場の跡形もない、暴風の爪痕でしかないが。


 そういえば、少し気になったことが、あったのだ。


「ガイアス」

「どうした?」


 ガイアスの魔剣を見るのは、もう何度目になるか分からないが。

 そもそも魔剣使いについての勉強を、自分はあまりしてこなかったように思っていた。


 ゲームとは違う。それに気づいた時にもう少し考えておくべきだったが、今のタイミングで疑問点が生まれたのだ。


「ライカの使う魔剣は、"炎陣舞踊"だよな?」

「ああ、それで間違いないな」

「ガイアスの魔剣は、今のであっているのか?」

「ん? "天地開闢"か? そうだな」


 魔剣は、通常攻撃として属性攻撃ができる上に、こうして祝詞を発声することで破壊力を増した盛大な攻撃ができる。

 それは、竜基もゲームで知っていたことだった。"炎陣舞踊"だって、ライカがゲームで使っていた技だ。


 だが、と目の前のこの男を見る。


 ワイバーンに受けた傷跡、そして鋭い眼光。歴戦の風格。少し馬鹿。


 自分の記憶にないこの魔剣使いは、そういえば前回本気を出した時に別の祝詞を発して居なかっただろうか。


「"風雲・天地開闢の(つるぎ)"……」

「なんか言ったか軍師よ」

「いやーー」


 ぽつりと呟いた竜基の言葉に、首を傾げるガイアス。

 ゲームで魔剣使いたちが使っていた祝詞はすべて漢字四文字だったはずなのに、そういえばこの男は北アッシア防衛戦の時にそんな技を使わなかっただろうか。


「ガイアス、お前北アッシア防衛戦の時にさ、別の技を使っていなかったか?」


 今回使った天地開闢は、確かに強力無比な技だった。数千人が整列していたほどの広さを持つこの場所を、クレーターに変えるくらいには。


 だが、前回。前回北アッシア防衛戦の時、この男は大地を直線状に分断するという、今回以上のトンデモ技を披露したはずだ。


 今まで何故気づかなかったのかは分からない。しかし気づいた以上、聞いておきたい。


 そんな思いを胸に、視線を送る。ガイアスは、何やら驚いたように目を丸くした。


「気づいていたのか!!」

「いいよそんなリアクションは!」

「……まあ、確かにその通り! 今回"風雲・天地開闢の(つるぎ)"を使わなかったのは、単純に場所が場所だからだな! 結果、ルーとやらも倒すことは出来なかった!!」

「なにぃ!?」


 あわてて周囲を見る竜基に、ガイアスは豪快に笑い背中をたたく。


「安心しろぃ! この辺には居ねえ!」

「いやいやそういう問題じゃ!」


 ルーが死んでいない。それは、一つの脅威が残ったということだ。

 だというのに安心しきってこんな場所で話を続けられるほど、竜基の肝は太くない。


「大丈夫だ! 確実に疲弊しきって動けない状態くらいまでは追いこんだ手応えがあった。きっとどこか森の奥で、意識は失っているだろうな! 吹っ飛ばしたし!」

「……」


 何故殺さなかった、とは竜基には聞けなかった。

 だが、アリサの歩む道の障害を、残しておく理由など……。


 いつもの癖で思考に沈もうとする竜基を呼び戻したのは、ガイアスの言葉だった。


「まぁ、それもさっきの話に関係してくるんだがな?」

「えっ」

「魔剣使いには、二種類居る。俺みてえなタイプと、チンピラワカメみてえなタイプだ」

「……どう違うんだ?」


 二種類の対比をあげられても、竜基にはいまいちピンと来なかった。

 ガイアスとリューヘイの違い。魔剣使いとしての違いをはっきりさせるには、いまいち材料が足りない。


「簡単に言えば、俺の方がすごい!」

「…………は?」

「"風雲・天地開闢の(つるぎ)"は、こう、あれだ。向こう側の力だ」


 その名も、バースト。

 そう、ガイアスは楽しげに言う。


「……つまり、リューヘイさんが使う技はガイアスの"天地開闢"と同レベルで、お前にはその上の"バースト"、"風雲・天地開闢の(つるぎ)"がある……ってことか?」

「そうだな! 二種類居ると言ったが、ぶっちゃけチンピラワカメがこっち側なのか違うのかは分からん!」

「その境地にたどり着けるかどうか、ってことか?」

「そうだ! 極限の根性があるかどうかだ!!」

「ああ、そう……」


 ガイアスに深い話を聞くのは無理だとは思ったが、得られた情報がある。

 ガイアスにはもう一つ上があり、ほかの魔剣使いにはない。


「……出来る時と出来ない時もある! 俺の場合はめっちゃ疲れた時しかアレは出来ねえしな!」

「発動条件まである、と」


 魔剣戦記のゲームの時には、全く聞いたことがなかった。

 魔剣使いの全力技"バースト"。ただでさえ恐ろしい魔剣使いたちが、さらに極める技がある。


 味方に居る分には好都合だが、敵だと非常にやっかいだ。


 と、そこまで考えて竜基は気づく。


「ちょっと待て。ルーが逃げたのが、この話に関係してるってまさか……」

「目覚めたな」

「嘘だろおい……」

「極限の根性がねえ奴は、ほとんど目覚めることはねえ。だが、そういう奴でも目覚める可能性があるのが、"死地"だ」

「次に会うルーはバーストを使える可能性があるってことかよ。勘弁してください」


 頭を抱える竜基。

 そんな彼の肩を、ガイアスはぽんと叩いた。


 安心しろと言わんばかりの気持ちの良い笑顔に、竜基は首を傾げざるを得ない。


「何の為に、お前の妹分を虐めまくってきたと思ってるんだ」

「……え」


 突然なにを言い出すのか。

 その言葉に思い出すのは、ガイアスが昔言っていた言葉の数々。


『なんつー顔してんだ。"顔面の真横を魔剣の突風が貫いていったことに気づいたライカ"みたいだぞ』

『うちの妹分になにしてくれてるんですかねぇ!?』

『んむ? なんだそんな悲壮な顔をして。"馬乗りになられて顔面の真横に魔剣を突き刺されたライカ"のような表情だぞ』

『お前は俺の妹分をなんだと思ってるんだッ!?』


 ……ろくな思い出ではないが。

 まさかと脳裏をよぎり、ガイアスを見れば。


「あいつは、極限の根性を持っていた! 師である俺が保証しよう!」

「持って……いた?」


 竜基の発した疑問符に、ガイアスは鷹揚にうなづいた。


 そして、楽しげに笑って親指を突き出す。


「ライカはもう、使えるぜ!」

「……マジすか」

「……しかし、そうなるとするっと腑に落ちるな」

「なにが?」


 呆気に取られる竜基。まさかあのライカがバーストを使えるとは。そう考えるよりも先に、しきりにうなづくガイアスが気になった。


「出来た時、リューキに自慢してこい、と言ったんだが、結局言わなかったのか」

「いや自慢じゃなくて報告しろよそういう大事なことはよ」

「ん? そうかそうか、ハッハッハ!」

「ジョークのつもりないんだけどね!?」


 ライカの口から聞いていなければ、そりゃバーストのことを知らないのは当然か。

 そう、一人納得して、ガイアスは笑う。


「しかし、何で俺に言わなかったんだ?」

「リューキよぉ、そりゃちょっと冷たいんじゃねえのか?」

「は?」

「何でも、「あたしが戦ってることより、きれいな湖とか見つけたりしたほうが、りゅーきは喜ぶんだ」だとよ。妹分の気持ちくれぇ、察してやれ。それも根性だ!」

「……」


 関係ないだろ、というつっこみよりも。竜基はどこか胸に突き刺さるようななにかを感じて黙りこくった。

 彼女が魔剣使いだから、戦争では非常に助かっては居るけれど。


 それに甘えて、最近はあまり……そういえば、ライカのほうからも竜基にくっついてくることが少なくなった。


「なんか、もしかして俺に遠慮してるのかアイツ」

「ハッハッハぶっ飛ばすぞ軍師」

「笑いながら言うな怖い」


 なぁ軍師。

 肩においた手を離し、ばしばしと背中を叩きながらガイアスは言う。


「軍師とライカが会ったのは、ライカが何歳の時だ?」

「十一だと、言っていた」

「じゃあ今、何歳だ?」

「十三の誕生日をしたばかりだな……」

「そうだな。そのくらいの年頃で、ライカはあれだ、ぶっきらぼうな子供から、少し成長してんだよ」


 元の世界の年齢と照らしあわせてみれば、確かに、と思う。

 小学校五年生から、中学一年生に。

 世が世なら、なれない制服に身を包んで、新たな学び舎に学を進めている年頃だ。


「大好きな兄貴分に対する反応は、変わって当然だろ。俺はアイツのことを毎日しごいてるからよく分かる。根性はついてきたが、それと一緒に女としても、成長してんじゃねーか? ……ま、俺はそんなこと気にせず根性つけさせるのは止めねーがな! ハッハッハ!!」


 そういえば、最近突然背中から抱きつかれたりすることも、無理矢理手を引かれてどこかへ拉致された覚えもない。


 そこから推測される、彼女の感情は……。


「……え、分からん」

「ハッハッハ! 天才軍師も年頃の女子に対する読みはまだまだだな!」

「鍛えたくもないんだが」

「……ま、あれだ、せっかく一段落したんだし、たまには兄妹水入らずも、悪くねーんじゃねえか?」

「……そう、かもなぁ」


 雲がいつの間にか姿を消した、きれいな星空の下で。


 ガイアスが居なくなった後も、竜基は宴が開かれるそのときまでぼぅっとつったっていた。

次回、ライカのターン

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