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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 最終章
48/81

ep.46 リューヘイ


「……アッシア王国、か」


 ファリンはあの後自らの行動に羞恥が限界まで到達したのか、掻き消えるようにどこかへいってしまった。

 自分の執務室にまで戻ってきた竜基は扉を開けて、デスクに腰掛け天井を見上げて物思いに耽っていた。

 夕暮れ時の赤い斜陽が瞳に差し込む。いったい何を考えていたのだったか。

 そうだ、名前だ。国名を考えていた。


「……アッシア王国……魔剣戦記スタート時の200年には滅んでいた国家……」


 196年。それが今の年号。後四年足らずで、本来ならば滅びる予定の国家。

 もしこれが現実にも起こるのであれば、その引き金の一端には自分も参加しているということだ。

 それはつまり、歴史は同じように辿っているということで……。

 そこまで考えて、竜基はふと思考を脇に逸らした。

 ガイアス、クサカ、グリアッド、ヒナゲシ、そして、自分。

 ゲーム内で見かけられなかったキャラクター達が、今この城に何人もいる。


 竜基が知っているのは、ライカとアリサだけだ。


 見落としているのだろうかと思ったことも、一度や二度ではない。だが流石に自分と同じような名前をしたキャラクターがいれば嫌でも気になるだろうし、一番派手な"魔剣使い"で、おまけにゲームでは五本の指に入っているほどの実力だったライカより強い男を、知らないはずがない。


「……この世界は、ゲームと違うのか? それとも、ゲームと同じような時間を今辿っている最中なのか?」


 その場合、竜基たちに待ち受けているのは……。


「……アリサは、間違いなくあのアリサだ」


 ポツリ、呟く。

 アリサ・ル・ドール・アッシア。この名前に覚えはなかったが、代わりに記憶している一つの名前がある。


 アリサ・エル・アリアノーズ


『若くして救国の為に立ち上がり、自らの育った国を破壊し新たな国を作り上げた少女』


 説明書きには、こうあった。

 自らの育った国を破壊し、新たな国を作り上げた。


「……ここから、突然同姓同名で見た目が似通った「アリサ・エル・アリアノーズ氏(年齢不詳)」が出てくるとも思えないし……自らの育った国っていうのは、アッシア王国でほぼ間違いないだろう」


 そう、考えると、だ。


「革命を起こし、失敗し。名ばかりの王冠と引き替えに『配下・名声・権力を全て』失い、王宮の傀儡として、願いも空しく再度国を危険に晒す……。その配下に、俺たちが入っていない保証はない……!」


 この世界は、魔剣戦記の焼き回しではないのか。


 もしそうならば、先ほど名前が挙がった人間は全員死亡しているということにならないだろうか。

 竜基の懸念は、しばらく前からそこにあった。

 歴史は変わっていないのか。実は自分は「魔剣戦記」に来たのではなく、元々「魔剣戦記で死亡するキャラクター」なのではないか。


 自分が魔剣戦記の中に入ってきたのであれば、今までのようにやればいい。

 だがここ最近の流れを見るに、少々危ない場面がいくつも続いている。

 まるで、竜基達が生きていることを、歓迎していないかのように。


「やめろ俺……そういうことを考えるのは……」


 かぶりを振った。しかしながら、その可能性は拭えないのだ。


「……自らの育った国を破壊し、新しい国を建てた」


 一つの、説明書きのフレーズを思い出す。


「謎解きみたいにはなるが、順序が今やろうとしてることと逆だな。……もし。もしだ、俺たちがここで別の名前の国さえ建てれば、「国を立ち上げ自らの育てた国を破壊した」ことにならないか?」


 だから、今回の建国の提案は、竜基にとっても一つの有り難いことだった。

 もしゲーム設定の通りにすすみそうなのであれば、一つでも違うことが行えればいい。筋書きを変えることができれば、自分が上手く戦えている一つの根拠になる。


「……しかし、もし俺たちが居ても全滅という未来があるのなら」


 それはいったい、どういう状況なのだろうか。


 ガイアスですら生き残ることができないような、そんな状況があるとしたら。

 それはきっと、この前の山脈であったワイバーン相手の戦いのような、絶望的な状況に他ならないだろう。


「……極力、それは避けて戦いをしないとな」


 兵家の常道……相手より多くの数で戦うこと。


 北アッシアの状況から、それは今まで難しいことではあったが。シャルルの協力もあり、檄文に答える味方は多くいるのではないかと考えられる。

 そうなれば、王都を包囲しての多方面作戦が展開できる他、北アッシアを中心とした戦闘網が完成される。


「何も、問題はないはずだ」


 何も問題はない。今の状況は、竜基には珍しく「万全」と思える環境にあった。

 様々な兵法書に学んだ自分の知識に穴はない。そう信じて、竜基は背もたれから体を起こすと、筆を執った。


 今日の仕事とて、そこまで終わった訳ではないのだ。

 国名を考える以外にもすることは多い。

 自分にできることを、一つずつ。そうでなくては、目前に控える大きな戦いに勝つことなど出来やしない。


「りゅ、きさま……あの」

「ファリン、いつからいたんだ?」

「あ、あの……そ、そとに」

「?」


 外、と称して忍びの少女が指差したのは、竜基の部屋からみることが出きる外の演習場だった。

 そしてそこには、訓練中のはずの兵士達が吹き飛ばされたかのようにそこら中に転がるという、一瞬理解できない構図ができあがっていた。


「なん……?」

「……りゅーき、さま。……りゅーきさまに会いたいと、ミーの恩人が言っているのです」

「……腹の傷治した人?」

「はい」


 いや意味が分からないだろう。何故兵士達が軒並み吹っ飛ばされて居るのだ。

 ふと見れば、グリアッド、ガイアス、アリサの姿がグラウンドにあった。流石に吹っ飛ばされた様子はなく、ガイアスが正面、グリアッドがアリサを守るように立っていることから、どういう状況なのかつかめないところだが……おそらく。

 グラウンド中央に居る黒い男と緑髪の女が鍵だろう。


「これは……早く行った方が良さそうだな」

「すみません」

「早く言ってくれればよかったのに」

「……ミー……なんどもよびました……」

「まじで?」


 気付かない自分も問題だが、それ以上にボディータッチさえ躊躇う己の隠密をどうしたものかと頭を悩ませながら、竜基は目先の問題を片づけるべく駆けだした。














「おうおうおうおう!! やぁるじゃねえかテメエ!!」

「……ふん」


 グラウンドでは、ガイアスと黒髪の男が対峙していた。

 慌てて出てきた竜基は、こんな危険な場所に居る主の元へと駆け寄り状況を問いただす。


「これどういう状況だよ」

「あ、リューキ。えっと、ファリンを助けた恩人が、何でもファリンの主に会いたいらしくって。それでファリンが呼びにいくって言っていたのだけど……」


 ちらり。何か言いにくいことでもあるのか、アリサの視線が竜基から側に控えていたグリアッドに移行する。


「ガイアスのバカが、門の前に待ってたあの男を『強烈な根性の臭い!!』とか言って出て行きやがってねぇ。僕は敵意を感じなかったから放置していたかったんだけど、なんだか調子に乗ってガイアスが部下をけしかけて、男の方もノリノリで部下の鍛錬につき合っていたという……」

「門番に仕事させろアホ。今どんだけ繊細な時期か分かってんのか」

「いやまあ、ファリンと一緒に来たし、いいかなって」

「……頼むから少し考えてくれ」


 部下への信用以上に、城の内部に見知らぬ人間を入れる状況を少し考えろと。

 嘆息しつつちらりと見れば、ガイアスと黒髪の男が対峙していた。


 …………あの男の顔、どこかで。


「なかなかの根性だ!! 俺と勝負しろ!!」

「意味が分からん。何故お前と」

「せや! 兄ちゃん滅茶苦茶強いんやで? お前なんかが叶うはずあるかボケぇ!」

「あ!? こんな黒髪がガイアスより強ぇーわけねーだろしっぽぐりーんめ!」

「しっぽぐりーん!?」


 何故か言い合いにライカまで参戦する始末。どこから出てきたのかと言いたくなるが、なるほどしっぽぐりーんか。緑のポニーテールだから、あながち間違ってはいない。


 それにしても、この二人がファリンの恩人かと竜基はまじまじと顔を見る。

 とにかく、失礼の無いようにファリンの礼をしなくては、彼女の主としての面が立たない。

 バカにつき合う理由もないのだ。


「すみません、ガイアスが初っぱなからバカなことを」

「……いや構わん、鍛錬につき合うのは吝かではなかった」


 さっとガイアスと男の間に入り、竜基は一つ頭を下げた。

 何か言いたげなガイアスだが、そこは気にすることはない。まずはこの非礼を詫びないことには始まらないのだ。


「とにかく、ファリンを助けてくれてありがとうございました。おかげで彼女も一命を取り留め、感謝してもしきれません」

「……主は、お前か?」

「そうなります」

「……」


 す、と睨まれる瞳に、どこか既視感がある。初対面のはずなのに、どうしてこうも身が竦むのか。

 分からないままに、「あ、同じ黒髪だ」などと思いながら男の次の言葉を待つ竜基。


「…………彼女をもっと大切にするんだな」

「は……?」


 突然の、言葉はそれだった。

 諜報役にあんな少女を使うな、とか、そういうことであろうかと困惑しながらも竜基の脳内はぐるぐる回る。

 しかし、そのとき。


「おいおいおいおいおいおいおい待てやコラ!!」

「ガイアス? ってうおおお!?」


 突然後ろ首を捕まれて後方へと放り投げられた竜基。


「りゅーーーきぃいいいい!!」

「っとと、ナイスキャッチ。ありがとライカ」

「へへっ……おいガイアスてめ……ん?」


 慌ててかけだしたライカがどうにか竜基の落下に間に合い、振り向きざまにガイアスを睨もうとして、ライカの目の色が変わった。


「おい黒いの!! テメエ今何言ったか分かってんだろうなぁ!?」

「意味が分からないが。単純に、もっと部下を大事にすればいいと言っただけだ」

「それが気に入らねえんだよ!! アイツはな!! どんな奴よりも人間を大事にする奴だ!! お前は敵兵が死んだことに対して涙を流せるか!? お前は正面から親の仇っつー恨みを受けられるか!? お前は仲間の悲しみに一番最初に気付いてやることが出来んのか!? 言ってみろやコラァ!!」


「ガイアス……」


 ライカと竜基の視線の先では、黒髪の胸ぐらを掴み吼えかかるガイアスの姿があった。瞳に宿る力は強く、そして重い。

 しかし彼はファリンを助けてくれた恩人には違いないのだ。とにもかくにも、それ相応の礼はしなければならない。


「待ってくれガイアス。……俺が悪いのかもしれない。ファリンに頼りすぎていたのは本当だ。……アイツには弱点もある。今後はちゃんと彼女に無茶はさせないようにする」

「……おいお前、手を離せ」

「チッ」


 頭を下げた竜基を一瞥、ガイアスに男はそう言った。

 半ば乱暴に手を放したガイアスの睨みは男を捕らえたままだが、彼が気にした様子はない。


「……あの、りゅ、きさま」

「うのぁ!?」

「ああ、ファリン。来ていたのか」


 突然背後で聞こえた声に変な声をあげるガイアスと、振り返り微笑む竜基。

 その様子に、男は一つ鼻を鳴らした。



「りゅーきさまは、本当にすてきな方です。ミーは、しあわせです」

「……そうか」


 引っ込み思案の彼女は、この険悪なムードにどう切り込んでいいか分からなかったらしくほっとしていた。

 そして改めて男に向き直ると、竜基を紹介するように言葉を投げる。


「リューヘイさん、こちらが、りゅーきさまです」







「りゅー、へい?」


 竜基の思考が、停止した。



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